フタを開ければ世界が見える! 缶詰には各国の食生活が色濃く反映されていて、味付けやバリエーションを調べていくとその国の食文化も見えてきます。
今回はポルトガルの取材旅行・後編をお届けします。日本にはまだ入ってきていない素敵なオイルサーディンも見つけましたよ!
真心こもった"スロー"な缶詰
風光明媚なポルトでもう1社、缶詰メーカーを訪問してきた。日本にはまだ輸入されていない「PINHAIS & CIA」というメーカーであります。
このメーカーの特徴は"スロー"な製造法であります。
原料のいわしはすぐ近くのポルト魚港、もしくは近郊の漁港から、その日に造る分だけ買い付けてくる。そのほかの材料、例えば人参も、その日に使う分だけ朝に仕入れる。唐辛子や黒こしょうは厳選したもので、ローリエにいたっては乾燥室を備えてあり、缶詰用に最適な状態に仕上げていた。
そういった、手間と時間を惜しまずに造られる同社製品は、缶詰といえどスローフードなのであります。
そうこうするうちにいわしが到着。今までにんじんをむいたりピクルスを切ったりしていたおばちゃんたちが一斉に移動する。そのスピードの速いこと速いこと!
トラックに積んできたいわしが総大理石製の作業台にあけられる。1尾ずつつまみ上げて魚体の良し悪しを確かめてから、頭を落として内臓を取っていく。
先ほどスローな製造法と書いたけど、作業が遅いという意味ではないのだ。特にいわしは鮮度が命だから、水揚げされたばかりの魚体があっという間に捌かれていく。
ひと通り工程を見せてもらったあとで、案内してくれた同社社員N氏に、ちょっと捻った質問をぶつけてみた。
「賞味期限を過ぎた缶詰をどう思う?」
どういう意味かというと、缶詰は製造直後よりも1年、2年と時間が経ったほうが、中身が馴染んで美味しくなるのだ。とくにオイルサーディンやツナといった油漬けは「賞味期限を切れたくらいがウマい」という人もいるほど。で、そんな認識がポルトガルでも通用するかどうか、訊いてみた。
するとN氏は目を輝かせ「賞味期限を過ぎたものは最高です!」というではないか。
「ただし……」と、氏は付け加える。魚体が新鮮で、缶の内側もきれいにコーティングされ、使うオイルも最高品質でなければいけない。ウチはそういう缶詰を目指して造っている……という。恐れ入りました! ここの缶詰、日本に輸入されないかなァ。
こうして、リスボンとポルトの2都市を訪れ、缶詰メーカーも2社取材することが出来た今回の旅。町中には缶詰バーや販売店がいくつもあり、市場に入っても缶詰専門の売り場があるほど、ポルトガルでは缶詰がリスペクトされている。それはもう、羨ましい光景でありました。我が国でもさらなる缶詰の地位向上を目指していきたいものであります。
最後に、お土産に買ったフォークを紹介しておきたい。
お判りだろうか? 何とオイルサーディン専用のフォークなのだ。どんだけ缶詰愛が強いんだ、ポルトガルよ!!
黒川勇人/缶詰博士
昭和41年福島県生まれ。公益社団法人・日本缶詰協会認定の「缶詰博士」。世界50カ国以上・数千缶を食している世界一の缶詰通。ひとりでも多くの人に缶詰の魅力を伝えたいと精力的に取材・執筆を行っている。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に「旬缶クッキング」(ビーナイス/春風亭昇太氏共著)、「缶詰博士が選ぶ!『レジェンド缶詰』究極の逸品36」(講談社+α新書)、「安い!早い!だけどとてつもなく旨い!缶たん料理100」(講談社)など多数。
公式ブログ「缶詰blog」とFacebookファンページも公開中。