フタを開ければ世界が見える! 缶詰には各国の食生活が色濃く反映されていて、味付けやバリエーションを調べていくとその国の食文化も見えてきます。今回は初の海外レポートとして、ポルトガルの缶詰事情をお届けします。鉄砲伝来からお付き合いのある彼の国が、実は世界一缶詰を愛する国だったんです!

  • ポルトガルの缶詰はどれもカラフル

    ポルトガルの缶詰はどれもカラフル

街を歩けば缶詰にあたる

海外の取材は面白い。日本では見たことのない缶詰を発見したり、意外な利用法が分かったりするからだ。

これまでフランス、イギリス、モルディブ、アメリカなど様々な国を見てきたが、ポルトガルは未踏だった。しかしそのポルトガルこそ、もっとも缶詰文化が深い国だと聞いていた。何でも缶詰バーや缶詰料理専門店が存在し、オイルサーディン専門店まであるという。

となれば、是非もなし。行かねばならぬ、なりませぬ。

  • さっそく缶詰専門店を発見

    さっそく缶詰専門店を発見

ということで、羽田を飛び立ってイギリスを経由し、乗り継ぎ時間を含めると19時間後に(遠い!)首都リスボンへ到着。石畳の狭い路地を路面電車が走り抜ける、いかにもリスボン的な街並みでさっそく発見したのが缶詰専門店。なんとポルトガルの缶詰協会が直営しているらしい。

  • 可愛すぎるデザイン。迷わず購入

    可愛すぎるデザイン。迷わず購入

聞けば20社ほどの魚介缶を合計300種類ほど置いているそうな。壁には各社のポスターが貼ってあり、それぞれの歴史や特徴を知ることが出来る。とにかく種類が豊富だし、試食も出来るし、値段も希望小売価格だから「缶詰を買うなら絶対ここ!」と、早くも結論づけてしまった(実際に、帰国時には空港でも同じ缶詰が売られていたが、価格は1.5倍ほど高かった)。

  • 缶詰バーで有名な「ソル・エ・ペスカ」の店内

    缶詰バーで有名な「ソル・エ・ペスカ」の店内

ナイトライフも缶詰

リスボンは缶詰バーがあることでも知られている。中でもリベイラ市場近くにある「Sol e Pesca(ソル・エ・ペスカ)」が有名らしいので、深夜1時に突入。店の外にまで酔客が溢れ、大賑わいである。

とりあえず白ワインと、ぜひ食べてみたかったバカリャウ(干し鱈)の缶詰をオーダーする。

  • 手前がパテ、奥がオイル煮。どちらもバカリャウだ

    手前がパテ、奥がオイル煮。どちらもバカリャウだ

出てきたのがこちら。パセリをふったり、刻みにんにくを散らしたりと、ごく缶たんなアレンジをしているが、それが過剰でなく程良い。缶詰は塩味が濃いのもあれば薄いのもあるが、味わいとしてはどれも素朴であります。

うまいうまいと食べていると、隣の若者が「どこから来たの?」「写真一緒に撮ろう」と話しかけてくる。そんな気さくな雰囲気がお店全体に漂っていて、心地好かった。

  • 缶詰メーカー「ラミレス」を訪問。創業1853年の老舗だ

    缶詰メーカー「ラミレス」を訪問。創業1853年の老舗だ

世界最古のメーカーを取材

首都リスボンから特急で北に向かって約3時間。観光地として名高いポルトへやってきた。ここには「現存する世界最古の缶詰メーカー」を誇る「Ramirez(ラミレス)」があるのだ。

あらかじめ取材を申し込んでいたので、さっそく白衣を着て工場へ潜入。製造工程を見せてもらった。

  • オイルサーディン製造中。これはイワシを缶に詰めているところ

    オイルサーディン製造中。これはイワシを缶に詰めているところ

取材した7月はイワシの旬の時期。なのでラミレスでもイワシを使ったオイルサーディンの製造で大忙しだった。

ラインの脇に女性が何人も並ぶ様子は世界共通だ。魚体の大きさと重さを揃えて、ていねいに缶に詰めていく。こういう作業は男には絶対向かない。集中力が続かないからだ。

  • オイルサーディン製造中。これはイワシを缶に詰めているところ

    これが詰め終わったところ。丸々と太ったいわしを使っている

同社はオイルサーディンやツナを世界中に販売している大手企業で、イージーオープン式のフタも世界で最初に取り入れたという。そんな企業でも、製造現場ではこうして手作業を続けている。缶詰は機械が造るのではなく、人の手で造られるのであります。

  • ランチは缶詰試食会。白飯もあるのが嬉しい

    ランチは缶詰試食会。白飯もあるのが嬉しい

取材のあとで社員食堂に招かれた。ランチを兼ねた試食会なのだ。

様々な味付けのオイルサーディンやツナ、サバの燻製をつまんでは白飯をいただく。どの缶詰も味付けが強くなく、素材の香りや味をなるべく活かそうとしているのが分かる。結果的に食べ飽きないから、人々の日常生活に溶け込んでいるのだと思う。

同社のオイルサーディンやツナは日本にも輸入されている。中でも原料をカツオに限定したツナ缶は滋味があり、レストランのオーナーなどに愛されているようであります。

※後編へ続きます

缶詰情報
ラミレス / ポルトのツナ缶 385g
希望小売価格 864円(税込)
同社直販サイトなどで購入可

黒川勇人/缶詰博士

昭和41年福島県生まれ。公益社団法人・日本缶詰協会認定の「缶詰博士」。世界50カ国以上・数千缶を食している世界一の缶詰通。ひとりでも多くの人に缶詰の魅力を伝えたいと精力的に取材・執筆を行っている。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に「旬缶クッキング」(ビーナイス/春風亭昇太氏共著)、「缶詰博士が選ぶ!『レジェンド缶詰』究極の逸品36」(講談社+α新書)、「安い!早い!だけどとてつもなく旨い!缶たん料理100」(講談社)など多数。
公式ブログ「缶詰blog」Facebookファンページも公開中。