幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第90回は女優の小野花梨さんについて。名前だけを聞くと(失礼ながら)ピンと来ないかもしれないけれど、出演作を聞くと「あ……」と思い出すはず。子役から活動を重ねた結果である、バランスの良い演技。ドラマに彼女が登場すると、見る側も安堵しています。

きぬちゃんの殻が脱げた衝撃たるや

小野花梨

ひょっとしたらもう小野さんの登場は少ないのかも……しれませんが、現在出演中のドラマ『恋なんて本気でやってどうするの』(カンテレ・フジテレビ系)の、あらすじを。

洋食器のデザイナーであり、アラサー恋愛処女の桜沢純(広瀬アリス)。彼女の人生で初めての彼氏は、モテ男のギャルソン長峰柊磨(松村北斗・SixTONES)。幸せな日々が続くと思いきや、柊磨の母の登場、働いていたレストラン相続の危機など試練が訪れる気配が……。その傍らでふたりを囲む仲間たちの関係性も動き出していた。

ここは包み隠さずに書いてしまおう。放送は多くの視聴者を毎朝感動の渦に巻き込んで朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の終了直後。無敵の清廉潔白さで世の女性を魅了した、稔さん役の松村さんが出演するとあって、否が応でも注目が集まっていた。

稔さんの役柄はすべて払拭され、チャラモテ店員として登場した松村さんこと、柊磨。純とは純粋な愛を育んでいるものの、それまで女性とはまともに交際することもなかった。鵜飼のように不埒な関係性ばかりをいくつも持っていた。その綱の一本にあったのが、小野さん演じる、竹内ひな子である。振り向くことのない、でも夜の相手だけはしてくれる柊磨につきまとう。見ながら思ったのは「あ~、いるよね……こういう病んだ女……」。でもその役を演じているのは前出の『カムカム』で、主人公(安子/上白石萌音)の幼馴染、通称・きぬちゃんで話題となった小野さん……。

ややこしくなってきたが「え? この間まで幼馴染の旦那だったのに、できちゃうの??」という小さな衝撃が視聴者に走った。きっと出演者の間でも少なからず、笑いが起こったと思いたい。(共演を)「ウケるんだけど」くらいは言っていてほしい。

ひな子の影を背負って次はどの道へ進むのか

小野さんの演技を私が認識したのは『親バカ白書』(日本テレビ系 2020年)の、大学生・衛藤美咲役だ。娘オタクのお父さんを中心に、現代らしいYouTuber問題や、恋愛模様がギャグ全開で描かれていた。若手人気俳優が揃うなか、小野さんの安定した演技は良い意味で目立っていた。

ついでに小野さん、男に圧倒的モテのふんわりビジュアルということも印象に残る。日本人らしい顔立ちのせいか『きれいのくに』(NHK総合)で、吉田羊さんの若い頃を演じていたのが、よく似合っていた。そして『カムカム』へと出演は続く。

水田きぬ役では、許されぬ恋に悩む幼馴染の橘(放送当初の苗字)安子をいつも見守っていた。そして時には持ち前の直感の良さで、安子の再婚につながる恋も後押し。見ていてキップがいい、気持ちが良くなるタイプの女性を好演していた。そしてひな子役の軽い衝撃へ戻る。「あのきぬちゃんが……!」と小さなショックを受けたひともいたはず。ひな子は見事に振られてしまったので、お役御免かもしれないが、爪痕だけはしっかり残った。

ここまでの一連はまだ23歳の小野さんにとって、ほんの小さな出来事だ。幼いころから続けてきた女優業。それを自分の生涯の仕事と決めて進むには、並々ならぬ覚悟があったはず。我々凡人には想像の域を超えたメンタルの強さと、努力が必要はなず。それでもあのプニプニした、白い頬の彼女を思い出すと、また私たちを楽しませてくれるはずと期待を膨らませるのである。