幼少期から熱血ドラマオタクというライターの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第36回はタレントの武田真治さんについて。現在『Doctor-X 外科医 大門未知子』(テレビ朝日系)に出演する武田さん。テレビで彼のことを知る若手のみなさんには、筋肉ムッキムキのタレントさんの印象が強いと思います。でも武田さんは、あの『ジュノン・スーパーボーイ。コンテスト』でグランプリを獲得した実績のある、正統派イケメン。今ちょっと筋肉に埋もれている印象はありますが、実はたくさんの技術と才能を備えたタレントさんなのです。
控えめヴェールを纏った筋肉マン
舞台は権力争いがうごめく東帝大学病院。周囲からは異端扱いされているのに、医療の技術だけは超一流の医師・大門未知子(米倉涼子)も、この病院でフリーランスとして働いている。ただ話題や記録になりそうな患者の手術は、病院に正規職員として勤務する医師たちによって行われるが、技術が伴わない。そんな窮地には「私、失敗しませんから」の決まり文句とともに、大門が姿を表す。
というのが『Doctor-X 外科医 大門未知子』のあらすじ。この作品に、武田さんは病院の事務長そして広報の役割を持つ、鮫島有役として出演している。2つの派閥で分かれた病院内で、飯島は新副院長・丹下の派閥に属す。目上に対する立ち回りも機敏で、病院内でもややミステリアスな存在として見られている。
物語の要所にスッと現れる飯島。それも邪魔にならない声色で、さりげなく存在感を落としていく演技がお見事な武田さん。濃厚かつ、キザな立ち振る舞いに観ている側がニヤニヤしてしまう。これも20年以上の芸歴の賜物か。
それにしても『Doctor-X 外科医 大門未知子』。言わずもがな、日本を代表する作品になった。各所で私も伝えているけれど、大門先生のカッコよさは一流だ。小手先ばかりの技術で、なんとか自身の階級をキープしようとする医師たちに対して大胆に正論をぶつけて、患者を救う。これは現代に舞い降りた『水戸黄門』ではないか。
毎回2012年のスタート当初、今の人気ぶりを予想した人は数少なかった。このドラマを観ていると、日本のエンターテイメント界の底力を感じる。きちんと向き合えば、結果は出る。外野の言葉は聞かなければいい。
この人、むちゃくちゃ器用なのかもしれない
武田さんと言えば、思い出すのが “特技”が多いこと。まずはデビュー当時から続けている"サックス"。イケメン枠で芸能界入りをするといつの間にかC Dデビューもしているケースが多いけれど、彼はサックスに関するCDのみをリリース。歌を歌って黒歴史化しているわけではない。
そして“めちゃイケ”(『めちゃ×2イケてるッ!』フジテレビ・1996年〜2018年)のメンバーだったこと。今でこそ珍しくない、アイドルやタレントのお笑い番組出演も1990年代は稀有なこと。彼はその先駆者で、毎回控え目に見せておきながら、大技のギャグをかましていた。そう、その“まずは控えめ”な態度が武田さんの持ち味の一つでもある。
お笑い番組で頭角を現す中、舞台やドラマにも出演して、自分の本来の役割のアピールを忘れない。そして現在の“筋肉お兄さん”へと繋がる。いつの間にか、サックスも筋トレも、トレーナーができるほどの技術を持つ武田さん。タレントさんも何かひとつ特技を持ちたいと、努力する姿は見かける。家電、コストコ、ディズニー、ダイエット、アンチエイジングと業界生き残り作戦かのように様々なネタを提供してくる。でも気づくとそのブームは終わっていて、次の特技を模索している。
でも武田さんは手を出したものに関しては、きっちりと極めている。バラエティ番組で重宝されるのも、“めちゃイケ”の印象があってこそ。極めた結果だ。サックスに関しては筋トレとミックスさせて、最近『サックス腹筋』としてメソッドをリリースしていることには、笑ったけれど、その直後に感心した。手を出したものはどれも、こぼさず、残さずきちんと消化している。そんな姿を『味わい深い』と私は讃えたい。
小林久乃
ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。地元タウン誌から始まり、女性誌、情報誌の編集部員を経てフリーランスへ。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事も持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には10万部を超えるベストセラーも。著書『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が11月29日(水)発売。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。