コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。

第157回はタレントの磯山さやかさんについて。兼ねてから磯山さんについては男性からとてもモテる女性であるとお見受けしていた。世の女性がどんなに整形を繰り返して、ダイエットを重ねて、前髪を固めて、髪を巻いて、加工アプリで撮影した写真をSNSにアップしても、それはすべてまやかし。純正モテ女の足元にも及ばない。ではなぜ磯山さんにモテる人間性を感じるのか。

  • 磯山さやか

グラドル定番人生には乗らなかった

磯山さんのグラビアアイドル時代はよく知らない。気づけばバラエティー番組で「男にウケない、結婚できない」キャラで、女性芸人たちと並んでいた。とはいえ、見た目は可愛い。

その頃からふっくらした体型(実際は標準体型?)をつっこまれていて、ダイエット企画にも挑戦していた。グラドル期に見せていたセクシーさは封印され、そのまま『ぷにモデル』としてファッション雑誌『AneCan』の専属モデルになっている。当時、渡辺直美や野呂佳代をモデルにした雑誌『la farfa(ラ・ファーファ)』も大ヒット。磯山さんは完全に流行に乗っていた。

当時アラサーだった磯山さん。キリのいいところで"一般男性"と結婚するのだろうと予測していた。出産をして新生児の四肢写真をInstagramにアップしたら、また復帰。子ども服ブランドでも出すのが定番コースへ乗り出すのかと思っていた。こうなると全く興味は失せる。が、磯山さんの人生ベクトルは違う方へ切り出していたのだ。

そのひとつが現在放送中の『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京系)で、安達祐実、相武紗季とトリプル主演として名前を並べている。来週の放送が楽しみになるほど面白い。

ドラマ主演女優に

磯山さんが演じているのはモラハラ夫の榊哲也(塚本高史)の妻、友里香。仕事はしておらず、娘が一人。自分を見下してくる夫には辟易しているのに、経済力のない友里香は何もできずにいた。ある日、夫婦の揉め事の末、夫は頭を打って倒れる。一時は友人たちとそのまま殺そうともしたが、記憶喪失で柔和な人格になった夫を見て、チャンスだと今度は夫を従えるようになる友里香。立場逆転である。ただこの幸せそうな時間は長く続かず、夫は記憶を取り戻し、子どもをとりあげて、莫大な慰謝料を請求。友里香と友人の甲本麻矢(安達祐実)と、加賀美璃子(相武紗季)と共に再度、殺人計画を練り出すのだ。

安達祐実と相武紗季といえば、泣く子もさっさと黙るような美とキャリアを備えた一流俳優だ。バラエティー番組やグラドルなんてかすりもせず、ずっとスポットライトを浴びてきた。麻矢がキャリアウーマン、璃子は誰もが振り向く美女でライター、友里香は自分に地震が持てない、冴えない専業主婦の役柄ではあるけれど、その二人と同等に磯山さんが並ぶのは(失礼ながら)快挙だ。

この前哨戦は昨年放送の『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)にも見えた。磯山さんは小料理屋の女将さんの役を演じていたが、これが驚くほど似合っていた。「この人、こんなに演技がうまかった?」と何度も見返すほどだった。当時すでに40歳。私が少し前に予想していた、定番コース予想は見事に外れて、彼女は違う船出を切っていた。

努力するさやかは美しい

磯山さんはイメージにはなかったけれど、とんでもない努力の人なのだと予想をする。グラドルから、俳優として進むのは一筋縄ではいかない。私はドラマオタクで大量の作品を見ているので、中途半端に演技の世界から終わっていく人、中途半端の舞台にも上がれなかった人を数多知っている。磯山さんは水面下でストレスと闘いながら、踏ん張っていたのか。

ちなみに今回はなぜ彼女がモテるのかを探っていたのだが、容姿云々は別として、彼女の"努力家"ぶりをひとつの説として挙げたい。その証が『夫よ、死んでくれないか』の主演だ。これまで女が自分の目標や夢のため(スポーツ選手、仕事の出世など)に努力をするのはモテの足枷になっていた面倒な風潮があった。男性よりも秀でると「生意気」「面倒」で片付けられていましたからね。でも時間は進み、最近では男女同権。モテようとして見た目ばかりを磨いても、いつか剥がれるかもしれないけど、目標のためにかけた時間と自分は功績になる。そういう女性のほうがいい恋愛もするし、揉めない人間関係も構築する。

磯山さんは名前が売れ始めた2010年代から「いつか主役になる」という努力をすでに続けていたかもしれない。だから他グラドルとは一把一絡げにできない、モテ要素が漏れていたのか……? そんな雑ネタを考えつつ、次に彼女が見せてくれる役はなんだろうと心待ちにしております。