幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第135回は俳優の滝藤賢一さんについて。俳優の中年ブレイクが叫ばれる昨今。彼はその第一人者なのかもしれない。長く劇団に所属をして、人気ドラマで全国周知となって、現在の活躍がある。名前を聞いて思い出すのは、歌舞伎の睨みも真っ青の眼力。そこから漏れる、熱き血潮。現在出演中、『虎に翼』(NHK総合)での演技が最高すぎたので、滝藤さんを褒めちぎりたい。

滝行にピンピン体操とは……

滝藤賢一

現時点で令和ヒットドラマと言っても過言ではない、大人気の『虎に翼』。私のような年柄年中、テレビにかじりついているオタクはまた別として、普段ドラマを見ない面々が朝の15分間に酔狂するのは、『あまちゃん』(2013年)以来ではないだろうか。

「正論は見栄や詭弁が混じっていてはだめだ。純度が高ければ高いほど、威力を発揮する」

寅子の上司である桂場等一郎(松山ケンイチ)の提言のごとく、寅子は自分の仕事に誇りを持って、真っ直ぐに進んでいる。その後ろ姿にまた私たちは歓喜、一気一憂している。放送終了まで2カ月を切った。毎朝、マラソンの伴走のように見守っている。

そんな人気作にとんでもないキワモノが登場した。それが滝藤さん演じる、ちょび髭をたくわえた多岐川幸四郎である。滝行シーンからの登場には度肝を抜かれたし、部下全員にやらせるピンピン体操には笑った。(今では考えられないが)正月も深夜も関係なく部下を引っ張り回し、思いついた企画は仕事量の負担も考えずにどんどん遂行。これは演出ではなく、モデルとなった宇田川潤四郎氏による実際のエピソードらしい。

多岐川は一見すると迷惑甚だしい行動を取っているけれど、こういう人は人生を振り返った時に印象に残る。何かを教示してくれる存在だ。

彼の演技はいつだってコミカルと本気の間

「人間、生きてこそだ。国や法、人間が定めたものはあっという間にひっくり返る。ひっくり返るもんのために、死んじゃあならんのだ。法律っちゅうもんはな、縛られて死ぬためにあるんじゃない。人が幸せになるためにあるんだよ。幸せになることをあきらめた時点で矛盾が生じる」

素っ頓狂なことを繰り返しながらも、実は性根の熱い多岐川。なんだか滝藤さんご本人のイメージと似ている気がする。

そもそもだ。家族ができてからもアルバイトと並行して芝居を続けているというプロフィールだけで、並々ならぬ死闘ぶりが伝わってくる。私は全くジャンルもレベルも違うけれど、何か人よりも秀でたものや、自分を誤魔化さない意思が強くなければ続かない。そしてここには重度のストレスがかかってくる。

それでも負けなかったから『半沢直樹』(TBS系 2013年)で、周囲から"見られる人"に繋がったのだろう。その後の活躍ぶりは周知の通りだが、私は『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS系 2018年)での厳しい父親役と、『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系 2020年)の中年無職役とのギャップが大好きだ。彼の演技はいつだってコミカルと本気の間。この熱量を操縦できるのをご本人は当然だと言いそうだけど、実は稀有な存在だったりする。

最近の若手は滝藤さんのように、遠回りと熱のこもった生き方を常に反復しているような状態を敬遠するだろう。何事も効率化優先らしいし。でもそんな時代だからこそ、最終的に必要なことを体感できる、目標を持った生き方は必要なはずだ。今、私の脳内で反芻している、滝藤さんと多岐川がそう言っている。