幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第122回は女優の富田望生さんについて。『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系・2019年)の魚住華役で、見かけたときに「ああ、この人はきっとキャスティングで、制作サイドから重宝される存在になるんだろうな」と、普段はそんなに動かない私の直感が働いた。クラスを笑顔で見守るような存在で、ビジュアルもふっくら……とは学園ドラマには絶対に欲しい役どころ。なかなかハマる人も少ない中、救世主のように現れた富田さん。

  • 富田望生

今年はクラスだけではなく、日本中を笑顔にするほどの活躍ぶりだった。そんな彼女の2023年を勝手に振り返りたい。

あれはマジでしずちゃんだった

まずは年初から春にかけて、『富田望生の日日是芸術』、『藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ』(NHK BSプレミアムほか)に二作品を駆け抜けた。その後、いよいよ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)の山崎静代こと、しずちゃん役に。この憑依ぶりが完璧を極めていた。ゆっくりとした発音で、少し曇ったような声で話す様子は、マジでしずちゃん。ご本人との違いは身長くらいだった気がする。

そして『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系)では、1話のみのゲスト出演で、保育士役に。福原遥演じる、仲川有栖の息子を預かる様子は。これまたマジ保育士。「この人なら安心をして子どもを預けられる!」という笑顔を振り撒いていた。1話だけの出演なのに「あの人出ていたよね」と印象をきっちり残す富田さん。

『3年A組―今から皆さんは、人質です―』出演後に、彼女は「役作りのために15キロ増量していた」と各所で話していた。で、しばらくするとまた別の配役のために減量を始める。けして健康上、勧めることはできないけれど、とんでもなく強い意志を兼ね備えた人だと思う。私も何度もダイエットでトライ&エラーをして、現在はエラーしっぱなしの身分だ。その経験則からすると、いくら20代だからといって、そんなに簡単に体重をコントロールできるものではない。

彼女は女性版の鈴木亮平なのだろうか。いずれにしても"プロ意識"という言葉を全身で表現している。

強烈な小夜ちゃん役に日本中が釘付け

秋ドラマでは彼女の女優魂と可愛らしさがさく裂していた。撮影時期にタイムラグはあると思うけれど、ダブルヘッダーで登場。まずは『コタツがない家』(日本テレビ系)の酒井ひかる役。いつも清潔感のあるコーディネートに身を包み、これから恋人と結婚を控えた幸せいっぱいの女性だった。

一方、もう1作品の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)は、可愛いには可愛いけれど、朝の食卓に強烈なインパクトを与えた小林小夜役。福来スズ子(趣里)に心底憧れて上京、ついには付き人になる。

「オレは地獄の果てでもスズ子さんについていく覚悟だ!」

常に福島弁で「顔芸か!」と全国からツッコミが入るほど、ひとつひとつのセリフで表情をキレッキレに変化させる。三つ編みに頬をチークで赤くして、モンペ姿で立つ様子には、前述のひかるが微塵も感じられない。そこにいるのは田舎っぺのお姉ちゃんだった。ただ実は小夜ちゃん、実家は貧しく、奉公に出された先で軽い人権蹂躙を受けていたらしい。そのぶん、スズ子よりも女性として経験値がある。

「夢を語る男は信用できねえ!」

と、意外と確信を突く発言が多い、多面性のある女性でもある。総じてギャグのような役作りを要求されて、彼女はどう咀嚼して、小夜ちゃんが出来上がったのだろうか。いつかチャンスがあったら裏話をお願いしたい。

さて富田望生さん。強烈キャラの小夜ちゃんのことを書いていると、つい忘れてしまうが、今回は彼女の2023年の活躍を振り返るターン。これは私の願望でもあるけれど、朝ドラ主演女優としての富田さんを見る日も遠くない気がする。『なつぞら』(2019年)、『ブギウギ』と続き、主役の座を勝ち取ってほしい。あとは本年の大晦日も、スズ子の付き人としてぜひ紅白のステージで見られますように。