幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第113回はタレントの角田晃広(かくた・あきひろ)さんについて。ここ数年、薄々気になってはいたけれど、角田さんの活躍ぶりが日に日に輪を広げている。お笑いトリオとしてデビューを果たして、アクシデントにも見舞われ、砂を噛むような日々も超えて、彼は俳優としてレッドカーペットを歩いた。人生100年時代、定年後を考えると苦悩するおじさんたちにとって、角田さんは今や、中年の星。おそらくそのうちバイプレイヤーを卒業するのでは……という危機感から、急いで書かせていただきます。

きな臭い、どうも怪しい。そんな雰囲気を醸し出す

  • 角田晃広

現在、角田さんが出演している『ノッキンオン・ロックドドア』(テレビ朝日系 以下『ノキドア』)のあらすじを。

探偵バディによる不可思議な事件を、解決に導くミステリー。変人と影で呼ばれることもある、御殿場倒理(松村北斗/SixTONES)。御殿場とは対照的な生真面目な仕事ぶりと、性格の片無氷雨(西畑大吾/なにわ男子)は、以前、大学の同じ犯罪社会学ゼミに属し、現在は探偵事務所『ノッキンオン・ロックドドア』で収入を得ている。警察がどうしても解決ができない事案を彼らのもとへ運び、ありとあらゆる角度、視座から犯人をあぶり出す。

ドラマの監督を務めるのは、堤幸彦氏とあって放送前から何かと話題に上がっていた作品。金曜夜23時15分は三池崇史監督『警部補ダイマジン』、土曜夜23時は本作がテレビ朝日で放送されている。主演はどちらも演技に定評のある、ジャニーズ事務所所属のタレントだ。いずれも殺人事件を解決していくミステリーとあって「ほほう……」と、既視感があった。この2作品に隠されたギミックは何なのか。ドラマオタクすぎて、どうも最近余分なことを考える傾向が出てきた。で、両作を観てみると、個人的には展開が小気味良い『ノキドア』が面白いかな〜と、1票を入れている。ただ『警部補ダイマジン』もダークヒーローならではの、どんでん返しはあるとにらんで、両作を視聴中だ。

そんな(どんな)『ノキドア』で、角田さんが演じているのは探偵ふたりに、依頼人を斡旋する仲介屋・神保瓢吉。登場だけで胡散臭さを放出しているのは、キャスティングの狙い通りなのだろうか。ただ神保がいなければ、事件解決は始まらないので、ドラマにとって必要不可欠な存在だ。

シンデレラおじさんではない、苦節20年以上の努力の人

角田さんの俳優業は2011年近辺から、動き出している。少し、振り返ってみたい。役名もない端役を何度もこなし、"ちょっと嫌味を感じるおじさん"を絶妙に醸し出していた。日本の俳優は、毒々しいのか、人が良さそうなのか、パブリックイメージが二分されることが多々。その最中で角田さんはどちらにも属することのない立ち位置にいたことを思い出す。

完全に風向きが変わったのはやはり『半沢直樹』(TBS系 2020年)の、三木重行役。「仕事ができない」と陰で揶揄されながらも、出向先からなんとか銀行へ戻ろうとする。そこには三木のいやらしさも混じり、結局は思い通りにコマは進まず……という悲壮感が漂うおじさんだった。それでも彼がこれまで演じてきた役柄には道外れていなかった。

個人的に印象深かったのは『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ系 2021年)での、佐藤鹿太郎役。ちょっとイタいファッションカメラマンという設定がぴったり。そこに松たか子の元夫役、坂元裕二による脚本という二大ウエポンが添えられて、人気が確立。そこから連続して地上波、プライム帯放送のドラマに出演が続き、中には大河ドラマも2作もあった。そして映画『怪物』では、ついにレッドカーペットを歩く。けしてシンデレラおじさんではなく、20年近く、努力を貫いた結果だと思う。そんな彼を見ているとまだまだ頑張れる。いやこれから馬力を出さねばならぬ50代、60代を控えている身分だと、おばさんは自分の体に言い聞かせるのだった。