世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および神田外語大学、札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

  • 来客応対時の基本マナーを解説

    来客応対時の基本マナーを解説

多くの企業がテレワークを実施していますが、業務内容によっては取引先との対面による打ち合わせなど来客対応が必要である場合もあります。

そのような職場においてお客さまを迎えたときは、相手に非常識な人間だと思われないよう、自身が会社の代表者であるという意識を持って接することが大切です。自分が担当者や受付係ではないからといって、声も掛けず挨拶もせずに入口や受付でお客さまをお待たせしてしまうなどということは避けなければなりません。

来社してくださった方に失礼がないようにするのはもちろん、心地よく過ごしていただけるよう、今回から2回にわたって「来客時応対時のマナー」をご紹介したいと思います。

来客応対時の基本マナー <受付~入室までの案内>

(1)受付での第一印象

人の第一印象のうち、表情・態度・身だしなみといった視覚からくる印象は3~5秒で決まります。さらに挨拶・言葉遣いといった聴覚からくる印象は10~15秒で決まってしまいます。

ですからお客さまがいらしたらすぐに立ち上がり、「笑顔」でお迎えし、アイコンタクトをして、その場に応じた挨拶を明るい声「笑声」で行うことが大切です。

お客さまには常日頃から取引があり懇意にしている方、初めて来社する方、またアポイントメントが有る方・無い方、あるいは飛び込み営業の方など、さまざまなケースがあります。それぞれに応じた臨機応変な対応をしなければなりません。

受付がない場合は、来客に気がついた人がすぐに立ち上がり、「おはようございます」「こんにちは」「いらっしゃいませ」などの第一声のあと、相手の会社名と名前、そしてアポイントメントの有無、誰と約束しているのかなどを確認する声掛けをします。

「どちらにお取りぎいたしましょうか」
「恐れ入りますが、どのようなご用件でしょうか」
「恐れ入りますが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか」

この相手の名前を確認する際の言葉掛けについては、電話応対の回でもお話しましたが、

「お名前を頂戴できますでしょうか」
「お名前を頂戴してもよろしいでしょうか」

という表現は適切ではありません。名前はもらうものではなく「尋ねる」ものですので、「尋ねる」の謙譲語「伺う」を使い、

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」あるいは「お名前をお聞かせいただけますか?」

と適切な表現で確認していただきたいと思います。

また、アポイントメントの有無を確認する際も

「アポはございますか?」

などと省略形を使うのはとても横柄な印象を与えてしまいます。さらに、「アポイントはございますか?」「アポイントメントはございますか?」よりも、しっかり日本語を使って、

「失礼ですが、お約束はございますか」

と表現した方がずっと誠実な感じが伝わります。

(2)来客に応じた応対の仕方

・約束(アポイントメント)がある場合

お客さまの社名と名前を聞き、事前に約束のあるお客さまだった場合は、まず

「△△会社の○○様でいらっしゃいますね。お待ちいたしておりました」
「お暑い中お越しいただき、ありがとうございます」

と歓迎の気持ちを込めて挨拶をし、そのうえで

「すぐご案内いたしますので、少々お待ちください」

とお客さまに断りをいれてから担当者に取り次ぐなど、心のこもった応対を心がけましょう。

・約束(アポイントメント)がない場合

アポイントメントがないと言われても、担当者に確認することなく、自分の判断で面会を断るわけにはいきません。取引のある方などがアポイントメントなしで来社することもありますから、まずは担当者に連絡をします。

「ただいま確認してまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか」

といって担当者が在席しているか、会議中などで離席していないかを確認します。ただ在席が確認できたとしても、その場では担当者の在・不在は伝えません。もしかすると別件の打ち合わせや外出予定があるかもしれませんから、担当者の予定や意向を確認した上で対応しましょう。

・飛び込み営業の訪問者の場合

事前の約束もなく来訪する飛び込み営業にどう対応するかは、職場によって違うかと思いますので、社内のルールなどを事前に確認しておく必要があります。

担当者や上司に取り次ぐ必要はないと指示された業者には、

「大変申し訳ございませんが、お約束のない方のお取り次ぎはいたしかねます。お約束をしていただいた上でお越しください」

とクッション言葉を入れた丁寧な断り方で対応しましょう。