悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、人間関係に疲れたと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「相手がどう思っているかが気になって、関わっていると疲れてしまいます」(26歳女性/IT関連技術職)

  • 考えすぎ? 「人間関係」に疲れた人へ(写真:マイナビニュース)

    考えすぎ? 「人間関係」に疲れた人へ


「ああ、そんなことが自分にもあったなぁ……」

今回のご相談を目にしたとき、そう感じました。まだ若く自信がなかったころ……いや、いまでもさほど自信はありませんが、もっとなかったころ、やはり人の気持ちが気になってしまったからです。つまりそれは、自信のなさの表れだったのでしょう。いまなら、なんとなくわかる気がします。

とはいえ僕は男ですし、おおざっぱな性格でもあります。人の視線は気になるけれど、ある一線を越えると「まー、別にどうでもいいや」と開きなおってしまえるわけです(それは必ずしもいいことではないとも思いますけれど)。

ところがご相談者さんは26歳と若く、しかも女性であり、文脈から繊細な性格が伝わってもきます。だからこそ、お持ちの苦悩は、かつての僕の比ではないだろうなぁと察することができるわけです。

ただ"相手"との関係性については、年齢や社会経験の密度、あるいは性別がどうであれ、すべての人に共通する部分があるようにも思えるのです。

こう言われてしまっては身も蓋もないかもしれませんが、「自分が思っているほど、他人は自分に関心がない」ということ。

そう、こちらが「どう思われているのか」と気にしていたとしても、そもそも他人はそこまで相手のことをシリアスに考えていない場合のほうが多いのです。これは経験則なので断言できますが、そう考えると多少は気持ちが楽にはなりませんか?

さて、この問題についえ、ビジネス書はどう答えてくれるでしょうか? 今回も、参考になりそうな3冊をチョイスしてみました。

自分のこと、自分のため、に始めてみる

『「気持ちを読む人」になれば仕事はぜんぶうまくいく』(金児昭 著、あさ出版)の著者は、新卒で信越化学工業に入社して以来、38年間にわたって経理・財務の実務一筋で仕事をしてきたという人物。

常務取締役を務めたのちに退社し、以後は経済・金融・経営評論家として活躍されています。つまりは本筋のサラリーマン人生を歩んできたわけですから、「自分とは関係ないすごい人」と思われるかもしれません。

しかし本書に目を通してみれば、年齢、性別、キャリアに関係なく、すべてのビジネスパーソンに共通する本質が提示されていることに気づくでしょう。

人間は誰でも、ほとんどすべて、自分のこと、自分のため、を考えて行動しています。そのとき、ほんのちょっとだけ相手の気持ちを慮(おもんばか)って行動するかどうかで、物事の進み方や深みが違ってきます。ほんのちょっと相手に気分よくなってもらうことで、相手が積極的に行動してくれます。自分の仕事を相手にできるだけわかりやすく伝えれば、相手からの理解を得られます。そんなちょっとしたことで仕事がうまくいくのなら、やってみて損はないでしょう。(「はじめに」より)

  • 『「気持ちを読む人」になれば仕事はぜんぶうまくいく』(金児昭 著、あさ出版)

「そんなの難しい」と感じるでしょうか? だとしたら、この文章のなかのいちばん重要な部分に注目してみてください。それは、「ほんのちょっと」という表現。

相手のために重たく考えて慎重にしなければいけないというわけではなく、「ほんのちょっと」気遣いをするだけでいいのです。ちなみにポイントは、最初からそれを狙ったり、相手に過度な期待を抱いたりせず、とにかく、まずは「自分のため」に、「自分ができること」をすること。

そうすれば、他部署の人や、上司・部下の理解や協力を得ることができ、自然と仕事がうまく進んでいくようになるということです。別な表現を用いるなら、自分ひとりで抱え込む必要がなくなるわけです。

それはとても大切なことだからこそ、"気持ちを読む人の「伝え方・話し方」「相手の心の開き方」「叱り方・叱られ方」「人間関係のルール」「人づきあいの習慣」「信頼づくり」"について著者自身の経験を軸に書かれた本書を読んでみていただきたいと思います。きっと、なにかがつかめるはずだから。

「お察し上手」になりすぎる必要はない

誰よりも早く人の気持ちやギクシャクした空気を察してしまう「お察し力」が強い人の心は、とても疲れているもの。心理カウンセラーである『人のために頑張りすぎて疲れた時に読む本』(根本裕幸 著、大和書房)の著者は、そう指摘しています。

「お察し力」の高い人は、察する・気づくだけでなく、その場の空気をうまくまとめるために行動もできます。さらに、口出しをして自体がこじれると思えば、言いたいことがあってもそれを胸の内に収めておけます。相手の行動を先読みしてサポートできるので、周囲の人は常に心地よくいられます。(中略)しかし、実は「お察し力」の高さが、あなた自身を苦しめることにもなっているのです。(「はじめに」より)

  • 『人のために頑張りすぎて疲れた時に読む本』(根本裕幸 著、大和書房)

しかし、まわりに気を遣うことと、そのせいで疲れてしまうことは、必ずしもセットではないといいます。高い「お察し力」を生かしつつ、疲れずにすむ方法はたくさんあるということ。

そこで本書では、そのためのコツを紹介しているのです。

「お察し上手」の人は、人間関係を先読みして、順序よく考えていくクセがついています。「自分がこうしたら、相手はこう言うだろう。だから、次はこういう風にして、相手もこうするから、それで自分はこうする」……みたいに相手の言動を将棋の対局のようにずっと先の手まで読んでいるのです。(16ページより)

とはいえ、人間関係にルールはあってないようなもの。相手はこちらの行動を待ってくれるわけでもなく、相手の気持ちや行動を先読みしたところで「答え」には行きつかないわけです。

しかも著者によれば「バランスの法則」というものがあり、人間関係は不思議なほどプラス・マイナスのバランスを保つようにできているのだとか。こちらが「お察し上手」だとすると、近くには無神経な人が集まりやすくなるというのです。

つまり「バランスの法則」から考えると、自分が一生懸命気を遣おうとしている相手は、こちらが考えるほど「お察し上手」でもなければ、細やかな性格でもないということ。

そう考えると、少なくとも「こう言う言い方をしたら嫌な気分にさせてしまうんじゃないか?」などという配慮も、実際には不要な場合が多いと著者は言うのです。

"相手も自分と同じ人間"だと考え6つのエッセンスを活用する

さて最後に、女性の視点から"気遣い"について考えた書籍をご紹介しましょう。『自分も相手も幸せになる最高の気遣い』(中川奈美 著、自由国民社)がそれ。著者は、元ANAトップCAとしての実績を持つ「接遇コンサルタント」です。

とだけ聞くと落ち度がなさそうに感じたくもなりますが、もともとは「グズでのろまなカメ」タイプだったそう。3人きょうだいの末っ子でいつも両親に甘え、出来のいい兄姉の下、コンプレックスを抱えて育ったというのです。そのため客室乗務員の訓練所でも、かなりの苦労をしたと当時を振り返っています。

それでも結果的に多くの成果を残すことができたのは、まず「自分も相手も同様に考える」という意識を大切にしているからなのだそうです。

なぜなら、お客様も、相手も自分と同じ人間なのです。そして、自分と同じ人間でありながら、自分と同じように多様な個性やニーズ、感情、価値観、環境の中で生きているのです。さあ、肩の力を抜いて、お客様と、そして様々な人とのコミュニケーションを楽しみましょう。それが「人であるお客様、相手の方」とより良い人間関係を築く秘訣でもあります。(「はじめに」より)

  • 『自分も相手も幸せになる最高の気遣い』(中川奈美 著、自由国民社)

お気づきかと思いますが、この文章の「お客様」という部分を「上司」「先輩」「同僚」「後輩」など仕事で関わる人と置き換えたとしても、充分に意味が通ります。

また当然ながら、「接客」だけではなくあらゆる業種に応用することができるはずです。そういう意味において本書の内容は、さまざまな状況で活用できるわけです。

1.笑顔
2.アイコンタクト
3.姿勢
4.ボディランゲージ
5.ペーシング
6.うなずき、あいづち
(48~53ページより抜粋)

たとえば著者は、この6つのエッセンスを活用できるようになれば、コミュニケーションはより良好になると主張しています。

もちろん、最初からCAのように完璧なスキルを身につけることは難しいかもしれません。でも本書を参考にしつつ"できそうなこと"から試して習慣化していけば、やがて多くのことが改善できるようになるのではないでしょうか?

その際のポイントは、冒頭で触れた「自分が思っているほど、他人は自分に関心がない」という考え方。そう捉えておけば、躊躇することなくいろいろなことにチャレンジできるはずだからです。