悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「雑談が苦手」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「雑談が苦手でコミュニケーションがうまくいかない」(27歳男性/メカトロ関連)

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「雑談」を辞書で引いてみると、「はっきりした目的やまとまりのない話。世間話(をすること)」(三省堂国語辞典 第七版)という説明が出てきます。早い話、とくに大切なことがらが含まれているわけでもない、"どうでもいい"会話だということになるのでしょう。

だとすれば、雑談が苦手だと悩むこと自体がナンセンスなのでは? そもそも"どうでもいい"会話なのですから、苦手であろうが得意であろうが、それは問題にならないはず。

ですから、まずは気持ちを楽にする必要がありそうですね。少なくとも、話す相手が傷つくような話ではないのですから、もっと気楽に考えればいいのです。

「声を出す」ことから始める

そこで、まずは雑談以前の段階、すなわち「声を出す」ということについて考えてみましょう。

ずっと家にいたときなど、「気づいたら、誰とも話さないまま一日が終わっていた」などということがあるものです。ひとり暮らしだったとすれば、なおさらそういうことになってしまいがちかもしれません。

『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(ひきたよしあき 著、アスコム)の著者も、学生時代にひとり暮らしを始めたころには、何日も声を出さないことがあったそうです。

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    『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(ひきたよしあき 著、アスコム)

興味深いのは、そんな状況下でおそば屋さんに入った時のエピソード。しばらく声帯を震わせずにいたからか、注文しようとしても声が出なかったというのです。そして後年、そのことをアナウンサーの友人に話したところ、返ってきたのは次のような答え。
「入院すると、足の筋肉があっという間に落ちるでしょ。あれと同じですよ。声も、使わないとすぐに出なくなる。脳も怠けるから、言葉がまとまらなくなる。鼻歌でもいいから、声を出しておいたほうがいいよ」(85ページより)

なかなか説得力のある話ではないでしょうか?

日常的に声を出す機会が少ないと、とっさのときにもうまく声が出にくくなるということ。そういう意味で、声に出すことが重要なのです。

加えて、声を出すことにはまた別の効果もあるようです。

声に出す → 声に出した言葉を改めて脳が認識する(86ページより)

つまり、これに出すことが、自分の正直な心を知る機会になるということ。逆に声に出さないでいると、脳のなかに漠然とある感情や思考が、解像度が上がらない状態のままになってしまうというのです。

そこで著者は、日ごろあまり声を出していないと感じたら、声の筋トレをはじめましょうと提案しています。

とはいえ難しいことではなく、積極的に声を出しましょうというだけの話。

長い時間、パソコンのモニターやスマホと向き合っている私たちは、声帯をふるわせて声を出す機会が少なくなっています。LINEなどで、会話を交わしているから、結構話しているように感じますが、声を出す機会は減っているはずです。(87ページより)

声を出すことには、私たちが考えている以上の意味があるのです。しかも声を出せば、自然と腹式呼吸が行われます。それだけでも自律神経が刺激されて副交感神経が働き出し、心身をリラックスさせるのだとか。

・朝起きたら、「うーん!」とわざと声を出して伸びをする
・ジョギングなどの運動をして、「ハッ!」と大きな声を出す
・作業がひと段落したときに、「ふー」と言って息をつく(87ページより)

最初のうちは、このくらいで充分だそう。

雑談とは関係ないように思えるかもしれませんが、こうした習慣を続けているうちに、無理なく声が出せるようになるのだといいます。

また、1人でできることをいろいろ試してみるのもいいようです。

・朝晩、本を2〜3行、朗読する
・親や友人に、メールではなく電話をしてみる
・ペットやぬいぐるみに、声を出して話しかける(90ページより)

実際に声を出せるならなんでもOK。声を出せば口もよく開くようになり、呂律もしっかり回るようになるわけです。

会話の出だしに「ニュース」の話題

ところで、会話の出だし(アイスブレイク)に使えることばとして、「木戸に立てかけし衣食住」というものがあるのをご存知でしょうか?

「季節」「道楽(趣味)」「ニュース」「旅」「天気」「家族」「健康」「仕事」「衣服」「食事」「住まい」の頭文字をとったもの。

『すぐに使える! おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(桑山 元 著、日本実業出版社)の著者によれば、このなかでビジネスパーソンが注目すべきは「ニュース」なのだそうです。

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    『すぐに使える! おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(桑山 元 著、日本実業出版社)

趣味の話題などは、双方の興味が噛み合わなかった場合は会話が続かなくなる可能性があります。しかしニュースの場合、そんな心配はなし。なぜならネタを探したり調べたりしなかったとしても、新聞やテレビ、ネットなどが情報を提供してくれるからです。

人によってニュースを見る目的は様々だと思いますが、「ニュースを全く知らないと恥ずかしい」と感じている人も多いのではないでしょうか。
多くの人が何らかの形でニュースを見ているということは「共通の話題」になり得るということです。共通の話題があると、お互いの距離がぐっと縮まります。(26ページより)

ただし、避けるべきこともあります。それは、死傷者が多数出たなど、人の命に関わるようなニュースを話題にしてしまうこと。もちろん、そういった話題が出たら即アウトというわけではないでしょうし、相手と気持ちを共有することが会話の質をよくするというケースもあるはず。

とはいえ、話題にした事件や事故に相手の家族や親戚などが巻き込まれている可能性だってゼロとはいい切れません。また、ニュースを話題にすることに慣れてくると、より刺激的な話題にしないと、相手に響かないのではないかと不安になってくることもあるでしょう。

もちろんそれは勘違いにすぎないのですが、その勘違いから、一線を超えた話題や発言に踏み込んでしまう可能性も否定できないわけです。

かつてニュース専門のコントグループ「ザ・ニュースペーパー」のメンバーとして活動していた著者も、日常会話のなかでいろいろと試し撃ちをし、何度も失敗した経験があるそうです。

ニュースの話題が有効であるのは間違いないものの、そもそもアイスブレイクの目的は場の雰囲気を和ませること。次の会話への助走でもあるので、氷は暖かい日の光によって溶かすべきなのです。

短くわかりやすいことばで表現する

次に進みましょう。

雑談をする際には、話したいことを簡潔にまとめるスキルも求められるかもしれません。などと書くとまた難しく思われてしまいそうですが、最低限の「まとめる技術」を身につけておけば、雑談は少なからず楽なものになるはず。

そこで参考にしたいのが、『ひと言でまとめる技術』(勝浦雅彦 著、アスコム)。

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    『ひと言でまとめる技術』(勝浦雅彦 著、アスコム)

コピーライターである著者がここでいう「ひと言でまとめる技術」とは、ことばを「短く」し、「要約した状態」で相手に伝える技術。難しそうにも思えますが、物事をわかりやすく説明するためには、小学校までに習ったことばで十分なのだそうです。

なぜなら、それくらい簡単なことばでないと誤解を生む可能性があるから。

人は何かを伝えようとするとき、つい難しい言葉や気取った言い回しをしてしまう傾向にあります。それはずばり、自分に自信がないからです。(169ページより)

これはコピーや文章だけの話ではなく、雑談を筆頭とする会話にも充分にあてはまるはず。自信がなかったり、頭の整理ができていない状態だったりするからこそ、難しいことばに逃げてしまいがちだということです。

また、誰かになにかを伝えようとするときには、自分に2度、問いかけをしてほしいと著者は述べています。

一度目は、「誰に、何を、なぜ伝えたいのか?」
二度目は、「つまり」こういう言葉なら伝わるはずだ。(173ページより)

一度目の問いかけは、(1)自分の考えを整理する、(2)相手との「ゴール」を設定するためのもの。そして二度目の「つまり」で、相手に伝えることを短くわかりやすいことばで表現できるかを考えるわけです。

たしかにそんな習慣をつければ、雑談も無理せず楽しめるようになれそうです。