悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、フリーランスになりたいけど不安な人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「フリーランスになりたいが不安も多い」(38歳男性/広告関連)
僕も広告業界の末端にいたことがあるので、30代になって独立を意識するようになる気持ちは感覚的に理解できます。それくらいの年齢になると相応のスキルは身についているはずですし、(専門職であればなおさら)「フリーランスでもやっていけるのではないか?」という思いは強くなって当然ですからね。
とはいえ保証はありませんし、不安もまた大きくなってくるもの。だからこそいろいろな意味での予備知識をつけ、少しでもリスクの少ない状態でフリーランスを目指したいものですね。
そこで、まずは基本的なことがらについて確認しましょう。
そもそも、フリーランスとはなんなのでしょうか? 個人事業主とはどこがどう違うのでしょうか?
そもそも「フリーランス」とは?
この(聞くに聞けない)純粋な疑問について、『最新版 開業から1年目までの個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金』(望月重樹 著、日本実業出版社)の著者は次のように答えています。
どのような形態で独立開業するかによって、名称、各種手続き、申告の方法などさまざまなことが変わってきます。つまり「法人」か「個人」に区別されるということです。(12ページより)
「法人」に該当するのは、よく見かける「○○株式会社」「○○有限会社」といった形。その他、合同会社や合資会社、学校法人、医療法人、宗教法人、社会福祉法人、NPO法人などのように「○○法人」と名がついているものも法人です。
これら法人とは、法律によって"人"とされ、法律上の権利・義務を有する存在を表わしています。法務省の出先機関である法務局で登記することにより、その存在が社会的に認められるようになります。(12ページより)
一方、法人を設立することなく事業を行う形態が「個人事業」であり、個人事業を行う人を「個人事業主」と呼ぶわけです。なお、個人事業主として事業を始める場合には、法務局への登記は必要ありません。
そしてフリーランスは、個人事業主のなかに分類される立場。国語辞典(大辞林)で「フリーランス」を引いてみると、「一定の会社・組織に属していない自由契約のジャーナリストや俳優など」と書かれているようです。
いいかえれば、仕事に応じて顧客と自由に契約を結び、その契約に基づいて仕事を行なう形をとるのがフリーランス。
ジャーナリストや俳優などというと、非常に限定された人たちのように思えますが、以下のような職種に代表される、「企業に雇用されず、自らの才覚や技能を提供することを社会的に独立しておこなう個人事業主」を、広くフリーランスと呼ぶわけです。
【代表的な「フリーランス」の職業】
・デザイナー ・イラストレーター ・システムエンジニア ・カメラマン ・プログラマー ・編集者 ・芸能関係者 ・作家 ・アーティスト ・YouTuber ・配信者 ・ブロガー ・アフィリエイター ・テレビ関係者 ・フリーアナウンサー ・フリーライター ・フリー声優 ・フリージャーナリスト ・評論家 ・解説者など(13ページより)
つまり、「個人事業主」と「フリーランス」に定義上の明確な区別はないのです。当然のことながら、税務上の手続きなどにおいても特別な違いはなし。基本的には、同じものを指しているということです。
フリーランスのリアルを知る
では、実際にフリーランスになった人たちは、その立場についてどのような実感を持っているのでしょうか?
16人におよぶフリーランスの先輩たちから話を聞いた『先輩たちが語る、自分らしく働くヒント フリーランスの進路相談室』(Workship MAGAZINE 監修・協力、KADOKAWA)のなかから、「なってみてわかったフリーランスのリアル」に注目してみましょう。
まず気になるのはフリーランスになった年齢ですが、同書によれば30〜39歳が46.8%、23〜29歳が24.6%、40〜49歳が19.8%、50歳〜が4.0%、〜22歳が3.2%、無回答が1.6%となっています。
つまり30〜39歳で独立した人が5割弱を占めているということ。余談ですが、僕が独立したのも34歳のときでした。
次に、「フリーランスになってよかったのはどんなことですか?」という質問に対する答えから、いくつかをピックアップしてみましょう。
はじめて、主体性を持って仕事をしていると感じられるようになった。仕事を自分で選べるので、自分の価値を自分で決められる。もちろん、一人よがりになっていないかの不安・葛藤はあるが、不向きなことをせずにお金が稼げるのが大きなよさ。(波多野友子 30代)
好きなときに働ける。「出社」というものがないので、「今日、仕事に行きたくないな」と感じることがなくなった。(はる116 20代)
一緒に働く人を選べること、仕事を選べること、自由ゆえに出合える仕事があること。(ゆい 30代)
自分のペースで仕事ができる。2人の子どもがいるのですが、どちらも学校に行きにくい時期があったので、そういう時期は仕事をセーブしてできるかぎり子どもに時間を割くことができました。結果、案件も収入も減ったけれども、ここはもう割り切って考えています。(鶴原早恵子 30代)
フレキシブルに働ける。なにより「やりたい仕事」を断らなくてよくなった。(あずき 30代)
自分の幸福を真ん中に置いて生きることができる。夕暮れを眺められる。(F宮 20代)(以上、70ページより)
では、「フリーランスになって大変だったのはどんなことですか?」という問いに対する答えはどうなっているでしょうか?
仕事上でのコミュニケーション、生活できるまでの収入源の確保、学びの場の確保。(目次ほたる 20代)
ぶっちゃけラクなので、成長が鈍化する。(匿名モッツァレラ 30代)
仕事を獲得すること、自分の「売り」はなにかを常に模索していること。単価を上げるために何をしたらいいか悩ましいこと。(なかがわ 40代)
土日があるようでない。(xinto 50代)
妊娠や出産などでキャリアがストップしてしまうと、次の動き出しがなかなか大変。信頼関係のある企業さんと長いお付き合いをすることの大切さを痛感します。それから、コロナの影響を広告や旅系の媒体で大きく受けました。世の中の状況に左右されないフリーランスになりたいなと改めて思いました。(kei 30代)(以上、70ページより)
このように感じ方は人それぞれですが、仕事量、やりがい、収入、自由になる時間などについて考え、どこに重きをおくべきか決めることが大切なのではないでしょうか? ちなみに僕の場合、休みらしい休みはほとんどありません。長く休むと逆に不安になってくるので、ちょうどいいとも感じていますが。
いずれにしても、組織から抜け出してフリーランスになるのであれば、それなりの度胸は必要なのではないかと思います。
「命綱なしで飛ぶ」6つのステップ
『命綱なしで飛べ ハーバード・ビジネススクール教授の自分を動かす教室』(トマス・J・デロング 著、上杉隼人 訳、サンマーク出版)(トマス・J・デロング 著、上杉隼人 訳、サンマーク出版)の著者も、「あれこれ考えず、『命綱なしで飛ぶ』ためのしかるべき手順と準備を踏めば、いろんなことが見えてくるし、自信もみなぎる」と述べています。
「命綱なしで飛べる6つのステップ」を確認してみましょう。
(1)立ち止まって考える。自分を理解する
(2)昔のことは忘れる。過去を「過去のもの」にする
(3)こんなふうにしてみたい、こんなことを実現したいと「具体的な目標」と「計画」を立ててみる
(4)メンターやアドバイザー、「支援のネットワーク」に頼る
(5)まばたきせず「現実」を見つめ、受け止めようとする
(6)自分の弱さを認め、さらけ出す
(420ページより)
「命綱なしで飛ぶ」のなら、まずは(1)の「立ち止まって考える。自分を理解する」ことが大切だと著者はいいます。
どうして自分は毎日同じことができるのだろう? 一度考えてみてほしい。
そんなふうに何があっても毎日同じことができるのなら、何か新しいことを始めても、死ぬことなどないと思える。自分の弱さをさらけ出して前に進めるし、勇気を出して、何か違うことをしようと前向きに考えられる。
するといつのまにか、「恰好悪くてもいいから望ましいことをする」を超えて、「望ましいことを見事に」やり遂げている。(421ページより)
もしも本当に、心の底から独立したいと思うのであれば、結局のところ重要なのはこの部分なのではないでしょうか? 少しでも迷いがあるなら「やらない」ことも選択肢のひとつでしょうが、少なくとも「やってみたい」のであれば、やってみるべきなのです。