悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「結果の出せる営業マンを目指したい」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「結果の出せる営業マンを目指したい」(25歳男性/営業関連)


今回のご相談からは、「これから営業マンとしてバリバリ働いていこう」というような気概が感じられますね。年齢的にも、20代は営業として実績を積み上げていくのは最適な時期。だからこそ、"結果の出せる営業マン"になるための知識は得ておきたいもの。そこで今回は、「営業マンとしてなにを心得ておくべきか」という観点から3冊のビジネス書をチョイスしてみました。

小さな約束が大きな信頼につながる

今の時代の営業は、顧客の課題を共有し、一緒に解決するお手伝いをすることです。営業の本質を理解しないまま、単なるモノ売りと考え思考停止に陥ると、つまらない仕事のように感じるかもしれません。しかし、顧客の課題解決に協力することと定義を変えると、営業はクリエイティブで魅力的な仕事に思えてきます。(「はじめに」より)

『1000人のトップセールスをデータ分析してわかった 営業の正解』(山田和裕 著、かんき出版)の著者はこう述べています。たしかにそのとおりですが、その一方で、ときにはお客様に煙たがられたり冷たくあしらわれることがあるのも事実。

  • 『1000人のトップセールスをデータ分析してわかった 営業の正解』(山田和裕 著、かんき出版)

そんななか、どうすればお客様に感謝され、自社の商品やサービスを効果的に得ることができるのか、それこそが営業の永遠のテーマだといえるでしょう。

そこで本書では、「できる営業」と「できない営業」のよくあるパターンを対比させながら、営業の悩みに答える形で"営業の正解"を導き出そうとしているのです。「信頼されるビジネスマナー」という項目のなかから、ひとつ引用してみましょう。

>>スピーディに対応できていますか?
できない営業は→いつも返事が遅い
できる営業は→基本は即答

スピードの大切さはよく指摘されることですが、このことに関して著者は重要な指摘をしています。

まず、「スピード対応のルール」を自ら設定して実践しているというのが「できる営業」。たとえばメールであれば、次のような3つのパターンに分けて対処しているのだとか。

(1)メールを見たら、いったん置かずにその場ですぐ返信 ※見直す時間が無駄
(2)外出時などですぐ返信できない場合は、その日中、遅くとも24時間以内に返信
(3)内容的にすぐ返信することが難しい場合は、まず短い受取確認メールを入れて、いつまでに返信すればよいか確認した上で、その期限までに約束通り返信
(45ページより)

一方「できない営業」は、いつも返信が遅い傾向にあるもの。急ぎの要件であろうがなかろうが、誰からのメールに対しても常に一定のリズムで返信が遅いというのです。

また質問や見積もりへの対応にも、4つのルールがあるのだそうです。

(1)言われたらすぐその場で回答
(2)その日中(夕方まで)に回答
(3)1日(24時間)以内に回答
(4)時間のかかるものは、スケジュールを具体的に示して、約束通りに回答。ただし、期日ギリギリに取り掛かるのではなく、着手は3日以内
(46ページより)

内容や事情によりすぐ返せない場合は、いつごろになるのかを伝え、その約束を必ず守ることが鉄則。約束を守らない営業は、嫌われ信頼を失ってしまうわけです。

わかっていて、やりたいと思っていても、さまざまな事情からスピーディに対応できないものもあることでしょう。そういう場合は、「いつまでかかるか」をきちんと説明し、具体的な期限を示して、あとは約束を守ればよいのです。

「できる営業」は小さな約束をきちんと守ることで、関係構築に必要な"信頼ポイント"を着実に稼いでいきます。(47ページより)

いわば、小さな約束が大きな信頼につながっていくということ。それは営業にとって外せないポイントであるはずです。

顧客の心を理解する

一方、『サイコロジーセールス最強の営業心理学』(大谷侑暉 著、フォレスト出版)の著者も、「どうすれば営業で成果を上げることができるか」という問いに対して重要な主張をしています。

  • 『サイコロジーセールス最強の営業心理学』(大谷侑暉 著、フォレスト出版)

営業で成績を上げる方法は、「人間の心を理解すること」です。
なぜなら、人は心でモノを買うからです。これは私だけが言っていることではなく、現代的な最先端の営業としても、営業やマーケティングにおける世界の潮流としても、「心理を理解する」ことが今一番大切だと言われています。(「はじめに」より)

営業にしてもマーケティングにしても、従来の売り手側の視点から「どうすれば売れるのか」を考えるのではなく、「顧客の心理はどうなっているか」という観点が重要になってきているということ。

こうした考え方に基づく本書のテーマも「営業×心理学」。人間の持つ普遍的な認知傾向、心理傾向などを押さえつつ、営業の基本プロセスをたどりながら心理学を使う営業方法を解説しているのです。

たとえばそのひとつとして紹介されているのが、ハロー効果。名前の由来は、お釈迦様の後ろの光(後光)。「後光がある人=崇拝するべき対象」と捉えてしまうことからその名がついたわけです。

たとえばメガネをかけている人に対して、「頭がよさそう」「まじめそう」などと感じることがそれにあたります。つまりは「メガネ」という突出した特徴によって、「内面」が歪められた結果だといえるのです。

そしてこれは、営業にも活用することが可能。意識すべきは次の3つです。

(1)見た目
(2)笑顔
(3)実績
(112ページより)

まずは見た目。上記のメガネがそうであるように、相手に持ってもらいたいイメージに直結したアイテムを身につけるのは非常に効果的だということです。そして同じことは、笑顔についてもあてはまるはず。ニコニコと話を聞いてくれる営業マンは、「いい人」だという印象を持たれやすいわけです。

最後は実績。もし自分が営業担当だったら、次のAさんとBさんのどちらを採用するでしょう?

Aさん「前職、営業成績が2年連続トップだった」「前の勤務先は大手企業だった」
Bさん「前職はアルバイトだった」「以前の勤務先は中小企業だった」
(114ページより)

この情報だけであれば、おそらくAさんを採用しようと考えるのではないでしょうか? なぜなら、採用後に成果を出してくれる保証があるからです。このように、過去の実績によって未来を期待される傾向があるということです。

仮に現在が普通でも、過去の実績がよいとそれだけで、ポジティブ・ハロー効果の影響を受けてしまうということ。たしかにこれらは、営業で実績を生み出そうとするときに役立ってくれそうです。

コントロールできる範囲の中で何ができるか

『AI分析でわかった トップ5%セールスの習慣』(越川慎司 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の「5%セールス」とは、端的にいえば「成果を出し続けられる人」。ここでは調査データと行動実績をもとに、彼らの「再現性の高い行動ルール」を紹介しているのです。

  • 『AI分析でわかった トップ5%セールスの習慣』(越川慎司 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

たとえば売れないセールスは、売れないことを他責にして内省しないもの。運が悪いとか、扱っている商品が悪いとか、自分以外のことに責任をなすりつけがちなのです。

一方、5%セールスは同じ事実に対して、ポジティブに解釈する傾向があります。
これは能天気ということではなく、事実に対してチャンスを見つけようというマインドセットを持っているからです。
たとえば製品の機能が少ないと思えば、顧客を絞ることを優先すべきだと考えます。また、価格が高いと思えば、意味づけによって価値を見出そうとします。(92ページより)

つまり自分ではコントロールできないところにエネルギーを割こうとはせず、自分がインパクトを残せるところを見つけ出し、そのなかで創意工夫をするということ。

分かりにくい製品だからこそ、分かりやすい商品として説明する。
機能が不足しているからこそ、そこから生み出される価値を顧客のニーズに合わせる。
このように、コントロールできる範囲の中で何ができるかを模索するのが5%セールスです。(93ページより)

ひとつの事実は、ネガティブにもポジティブにも解釈できるもの。不平不満を口にして行動しないのではなく、自分ができることをローリスク・ローリターンで継続していけば成功に近づくのです。これもまた、営業が意識しておきたい重要なポイントではないでしょうか?