悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「30歳までに転職したい」と焦っている人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「30歳までに転職したいが、気持ちは焦るばかり」(28歳男性/販売関連)


社会人経験がある程度積み上がっていけば、どこかのタイミングで転職の必要性を感じたりするもの。またご相談にあるように、30歳という節目を目の当たりにしていると、「早く転職しなければ……」と必要以上に焦りを感じたりすることもあるでしょう。

たしかに、キャリアアップするために転職が必要な時期というは存在します。だからこそ余計に「30歳の壁」が気になってしまったりするわけです。

けれど、そもそも転職は人生における大きなイヴェントのひとつ。そのため、30歳という年齢がどうかという以前に、「やってみたけどダメでした」とはいきません。

だからこそきちんと段取りを組み、転職に至るプロセスを計画的に進めていくことが必要なのではないでしょうか。

とはいえ場合によっては、「なにから始めたらいいのだろう?」と、焦る気持ちばかりが大きくなっていってしまうかもしれません。ひとくちに転職するといっても、心構えから手続きまで、慎重に進めなければならないことは多いものですからね。

ところで、転職したい理由はなんでしょうか?

「キャリアアップしたいから」というのであれば問題はないかもしれませんが、もし「いまの仕事がつまらない」から転職したいというのであれば、「本当に転職するべきなのか」をいま一度冷静に考えてみる必要はあるかもしれません。

「本当に転職が必要なのか」よく考える

転職にまつわるノウハウを網羅した『誰にも聞けない転職の正解がわかる本』(谷所健一郎 監修、成美堂出版)の著者も、「つまらない」だけで転職すべきではないと断言しています。本当に転職が必要なのか、よく考えてみることが大切なのだと。

  • 『誰にも聞けない転職の正解がわかる本』(谷所健一郎 監修、成美堂出版)

仕事に対する不満は誰にでもあるものです。しかし、もやもやした不満の理由や原因を分析せずに転職しても、次も同じような結果を招くことになりかねません。
また、転職が解決策のすべてではありません。今いる場所で考え工夫して、自分を高めていくのもすばらしいことです。
あなたが「仕事がつまらない」と感じるのはなぜでしょうか。まずは掘り下げて考えてみましょう。(18ページより)

そこで著者は、不満を書き出してみることを勧めています。「やりたいことをやらせてもらえない」「給与が少ない」「残業が多い」など、気になっていることを具体的に書き出し、ひとつひとつの不満について解決策を冷静に考えてみるべきだということ。

最初にすべきは、問題点を整理し、現在の環境を見なおすこと。次に改善方法を考えて実践し、「うまくいかない、受け入れてもらえない」と感じたら、自分の力を活かせる別の会社への転職を考えればいいのです。

たとえば仕事がつまらないのであれば、一歩踏み込んで考えてみるべき。すると、「どんなときにやりがいを感じるか」「いままでの仕事でうれしかったことはなにか」などがわかるからです。

そして、そこから「積極的に取り組めるのはどんな仕事か」ということをポジティブに捉えなおせば、転職を意義あるものにできるわけです。

しかし、そもそも転職に適したタイミングはあるのでしょうか? 「30歳の壁」に直面しているとしたら気になるところかもしれませんが、著者はこう答えています。

転職市場の動向をうかがい、時期やタイミングを意識して動くより、ピンとくる会社と出会うためのチャンスを増やすほうが大切です。(20ページより)

そもそも中途採用は新卒採用とは違い、欠員や増員の必要性が生じた場合など、会社ごとの事情で行われるもの。そういう意味では、転職に適した時期やタイミングは「とくにない」と考えたほうがよさそうです。

また当然ならら、重要なのは希望に合った会社に出会うこと。そのためには、毎日こまめに求人情報をチェックすることが不可欠。時期やタイミングなどは参考程度にとどめ、数多くの情報に触れて出会いのチャンスを増やすことを優先するべきなのです。

加えて、「現在の会社をいつ辞めるべきか」という問題もあります。このことについては「ボーナスをもらってから」というケースが一般的かもしれませんが、ボーナスにこだわるあまり転職のチャンスを失ってしまうのでは本末転倒というもの。なにより、転職のチャンスを見失わないようにすることが大切だからです。

そしてもうひとつ。

中途採用の場合、会社からは即戦力を求められることになります。そのため一般的に、採用後はできるだけ早い入社を要求されることでしょう。そこで、事前にある程度スケジュールを立てておくこともお忘れなく。

いずれにせよ、転職のスタイルもいろいろです。一般的には、いままでのキャリアを活かせる転職がいいと考える人の方が多く、異業種の転職はリスクが高いと思われがちでもあります。たしかに「異業種の転職だと給与が下がりそう」というように不安を感じられるかもしれません。

「将来を見通す」視点を持つ

しかし『20代のリアル転職読本』(鈴木康弘 著、翔泳社)の著者は、「あまり身構える必要はありません」というのです。

  • 『20代のリアル転職読本』(鈴木康弘 著、翔泳社)

業種を変えたら、転職で給料が上がるか、下がるか。もちろん、普通は下がります。それは未経験だからしかたのないことです。でも、重要なのは、リスクをいつ取るのかということです。転職してすぐの時期か、5年先か、20年先か。その選択によって、結果は全然違ってきます。(142ページより)

仕事の報酬は、現在もらえる給料と将来もらえる給料とのバランスで成り立っているもの。いま、この時点でもらえる給料ばかり追いかけていると、将来のリスクが大きくなり、路頭に迷ってしまうかもしれないわけです。

しかし、将来のリスクは選択次第で相殺できるものでもあります。そう考えれば、20代の現時点で一時的に給料が下がることはさほど問題ではないのです。

言い換えると、20代は給与よりも身につくスキルを重視して仕事ができる唯一の期間です。(143ページより)

見逃すべきでないのは、新卒の初任給が高い会社が、あらゆる年齢層を通じて給与の高い会社ではないということ。初任給は低いけれど、どんどん給与が上がっていく会社もあれば、初任給は高いのに、それからほとんど昇給がない会社もあるということです。

「30代で給与が上がる会社ランキング」のような特集記事をみかけますが、現在だけでなく、将来性をどれだけ見通せるかが大事です。(143〜144ページより)

将来性をまったく考えないのであれば、「あまり頭は使わないけれどインセンティブ(販売報奨金)バック率の高い営業会社で、毎日同じ市央品を同じように売りまくることを繰り返す」というような仕事も悪くはないのかもしれません。ただし、とにかく体力を使って商品を売るというやり方は年齢を重ねるごとにしんどくなってきます。

しかも、同じ商材を10年も20年も売り続けているだけでは、他の商材を売れる能力も身につきません。また、新入社員の教育担当などの仕事を経験しておかないと、将来的に管理職となることも困難になります。

だからこそ、将来を見通す視点が重要であるということです。

「力士」のセカンドキャリアに学ぶ

『転職は「元力士」に学びなさい コネなし、未経験でも成功する35の掟』(斎藤ますみ 著、ATパブリケーション)は、相撲の世界における力士のセカンドキャリアの事例を用いながら、ビジネスパーソンの働き方について提言しているユニークな一冊。

  • 『転職は「元力士」に学びなさい コネなし、未経験でも成功する35の掟』(斎藤ますみ 著、ATパブリケーション)

たとえば著者はここで、転職に際しての戸惑いを指摘しています。

新卒の場合、周囲の先輩は入社年次と役職がある程度比例しているため、そのふたつを意識して円滑な人間関係をつくることができたでしょう。

ところが転職すると、自分も含めて「入社年次」「役職」「年齢」「実力」などが入り混じった人間関係が形成されるため、その序列に混乱することがあるわけです。

セカンドキャリアで成功するためには、まず過去の実績を忘れることです。相手の役職が自分より下でも、年が下でも、徹底的に学ぶ姿勢で接する。何でも貪欲に吸収する。そうして、自分に色々な情報が入ってきやすい状況を作ることが大切です。(55〜56ページより)

過去の実績を横に置いておいたとしても、それは決して自分のなかから消えてなくなりはしないものです。「実績=経験」は、自分の脳・体・心にしっかりと刻まれているからです。

つまり一時的に過去を捨ててがんばったとしても、それは過去を捨てたということではないのです。それどころか自分でも気づかないうちに、間接的なかたちで自身の経験を生かし、いまの仕事に役立てることができるわけです。

大相撲の世界は、「番付」「入門時期」「年齢」という優先順位になった完全なる実力社会。そこでの人間関係のあり方を引き合いに出した本書は、同じように個人の実力が問われる現代社会で転職を成功させるためにも、大きく役立ってくれそうです。