悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「朝が弱くて起きられない」という人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「朝が弱くて起きられません」(38歳男性/IT関連技術職)
僕も子どものころからずっと、早く起きることができない人でした。とにかく朝に弱く、だから寝坊も日常茶飯事。ことあるごとに「低血圧だから」とか「寝つきも寝起きも悪い体質だから」とか、言い訳ばかりを考えていたような始末だったのです。
にもかかわらず、いまは毎朝スッキリと目を覚ますことができるようになっています。理由ははっきりわからないのですけれど、かなり前に生活のシフトが夜型から朝方に変わったことが影響しているのかな?
いずれにしても、もう10数年は目覚まし時計を使ったことがありません。そんなものに頼らなくても、毎朝同じ時刻に目が覚めるからです。つまりは“体内時計”がうまく機能するようになったということなのでしょうか? しらんけど。
ただ、ひとつだけ実感できることがあります。早起きできるようになれば気分が爽快で、しかも"使える時間"が増えるということ。当たり前といえば当たり前なのですが、しかし非常に重要なポイントではないでしょうか?
ただ、問題は「いかにして起きるか」ですよね。
「自分が好きなこと」は朝にやる
しかし意外なことに、『朝1分間、30の習慣。』(マツダミヒロ 著、すばる舎)の著者は「無理して早起きをする必要はない」と主張しています。さまざまな研究からも、早起きに向いている人と、そうではない人がいることが実証されているというのです。
「むやみに早く起きればいい」というわけではないのです。
いつも7時に起きている人が無理して5時に起きようとすると、体内時計が崩れて自律神経が乱れ、夜に眠れなくなる、睡眠負債を抱えるなど、多くの悪影響を与える可能性もあります。
大事なのは、自分のペースを崩さないことなのです。(44ページより)
さらにはこのことに関連し、著者はひとつの質問を投げかけています。
「大好きな食べ物が目の前にあったとき、あなたはすぐに食べますか? それとも、最後までとっておきますか?」(44ページより)
「好きなものは最後に食べる」と答えた人は、ちょっと注意が必要なのだとか。
当然ですが、お腹がいっぱいの状態で食べるのと空腹の状態で食べるのでは、空腹の状態で食べたほうがおいしさを感じますよね?
「空っぽの状態に好きなものを取り入れること」
これが、最大のしあわせを感じるコツです。
そして、1日のなかで、この"空っぽの状態"こそが「朝」なのです。(45ページより)
もちろん、それは食事に限った話ではないでしょう。たとえば筋トレをするのであれば、仕事を終えてからするよりも、朝起きてすぐに行うほうが頭もスッキリし、活力がわいてくるはず。
読書にしても、仕事が終わったあとでは眠くなってしまったり、その日の出来事を引きずってしまうかもしれません。でも朝に読むのであれば、脳の活性化という意味でも有効であるわけです。
自分が好きなこと、しあわせを感じることは、1日のなかの早い時間帯におこないましょう。それが自分で自分の機嫌をよくさせ、その後のモチベーションアップに直結します。(46ページより)
「起きたら、自分の好きなことが待っている」と考えることができるのなら、起きることもつらくはなくなってくるわけです。
「起きるべき時間」は自分で決める
一方、早起きが苦手な人に対して「なぜ、いまの時間に起きているのですか?」と問いかけているのは『僕たちに残されている時間は「朝」しかない。』(石川和男 著、総合法令出版)の著者。建設会社総務経理担当部長・大学講師・時間管理コンサルタント・セミナー講師・税理士と5つの仕事を持つ人物です。
会社に出社しなくてはならない時間から逆算して、自分で決めた起床時間に、嫌々起きていませんか?
今、「自分で決めた」と言いましたが、その時間は、本当にあなたが決めた時間でしょうか? その時間に起きないと遅刻するからその時間に起きているというのであれば、それは、間接的に会社によって決められた起床時間です。(90ページより)
たしかにそのとおりかもしれません。つまり、「朝に弱いから起きるのがつらいなぁ」と感じながらいやいや起きているのなら、その起床時間は"会社によって決められた「受動的起床時間」"だということになるわけです。
しかし、自分の当面の目標を達成するために逆算して決めた起床時間は、これとは違うと著者は断言しています。会社によって決められた「受動的起床時間」に対し、目標を実現するために自分で決めた起床時間は「能動的起床時間」だというのです。
たとえば、資格試験に受かりたいとか、部下を指導するために必要な本を読みたいとか、なんらかの目標を持っていたとしましょう。そんなときには時間が必要だからこそ、「能動的起床時間」に起きて朝の時間を活用すればいいという考え方。
自分が「こうしたい」と思える目的があれば、朝起きることもつらくはなくなるわけです。
朝、最初の決断である「起きる」という行為を、人に決められた時間で起きるのか、それとも自分で決めて起きるのかで人生が変わると思いませんか?
個人的な思いでは、「出社時間に間に合うように起きる」という受動的な起き方は、なんだか「朝から負けた気分」になります(笑)。
誰かに決められた時間だから、まだ眠いのに、起きたくないのに、だるいのに仕方なく起きる……ではなく、自分の意志で起き上がる! 「起きる」という行為に対して、自分が主導権を握ったほうが、気分がいいですよね。(100ページより)
そこで、自分が起きるべき時間を「能動的に」設定すべきなのです。そうすれば、おのずと「起きたくない」というようなネガティブな気持ちからも解放されることになるはず。なにしろ自分で決めるのですから。
「眠くなったら寝る」を習慣化する
でも、朝に快適な気分で起きるためには、快適に眠ることが大前提ではないでしょうか? そこで最後に、「眠り」について考えてみましょう。参考にしたいのは、『朝起きられない人のねむり学 一日24時間の賢い使い方』(神山 潤 著、新曜社)。著者は、子どもの早起きをすすめる会開設に発起人のひとりとして参画した経験も持つ、日本睡眠学会睡眠医療認定医です。
どちらかというと専門的な内容であり、おもに「子どもの睡眠」についての知見が中心となっているのですが、もちろんその多くはビジネスパーソンにも応用できるもの。
たとえば記憶にとどめておきたいことのひとつが、「身体のサインを無視しないこと」という主張です。
「疲れてもがんばれ」、とか「眠気に負けるな」とかいうメッセージを今の日本ではよく目にしますが、「疲れ」も「眠気」も身体の声です。疲れたら休むしかありませんし、眠くなったら寝るしかありません。眠気を我慢して起きていても脳は働かないのです。「疲れ」も「眠気」も身体からの大切なメッセージです。(89ページより)
そうしたメッセージを無視する行動は、「とても危険」だと著者はいいます。そんなことを続けていると、やがて身体が反乱を起こすというのです。いうまでもなく、朝に起きられなくなることもそのひとつ。
「自分の身体のことは自分が一番よくわかっている。自分の身体が自分の言うことをきかなくなるなんてことがあるわけがない」という考えは思い上がりです。身体は最も身近な自然です。そしてヒトは寝て食べて出して初めて脳も身体もそして心も活動が充実する昼行性の動物なのです。(90〜91ページより)
ところが私たちは、そんな自然に対してついつい傲慢になってしまいがち。ただ本来であれば、自然に対して謙虚であるべきなのです。"もっとも身近な自然"である自分の身体に対し、畏敬の念を持たなくてはいけない。
重要なのは、自分の身体の声に耳を傾け、身体の声を聴くこと。具体的には、そのための重要な手段のひとつが睡眠だということです。
眠気はふっとばすものではなく、眠くなったら寝るしかないのです。(91ページより)
したがって、"眠くなったら寝る"ことを習慣化できれば、必然的に朝も快適に起きられるようになるわけです。いわば、すべてがつながっているということなのでしょう。