悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、職場の人間関係に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「職場の同僚との人間関係が悪い」(54歳男性/事務・企画・経営関連)


驚くべきことに、この連載はもうすぐ200回目に到達します。ここまでの間にはいろいろなお悩みをいただいたわけですが、振り返ってみて印象的なのは、「職場の人間関係」に関するお悩みがとても多かったこと。

職場に好きな人ばかりが集まるはずもないのですから、そのことで悩む方が多いことにも納得できます。もちろん改善できるものがある一方、どうにもできないレベルのものもあるのでしょうけれど。

今回のご相談がどちらにあたるかはわかりませんが、いずれにしても重要なのは、精神的なつらさや不快な思いを、少しでも回避することではないでしょうか?

そうすれば、多少なりとも職場でも過ごしやすくなるはずですからね。

建設的な考え方ではないと思われるかもしれませんけれど、まず最初に考えるべきは、自分自身が少しでも楽になること。そう考えれば、つらさや不快な思いを回避することは決して間違った判断ではないと思います。

他人に期待しすぎないで自分のことを考える

そういう意味で注目すべきは、『頭の"よはく"のつくり方』(鈴木進介 著、日本実業出版社)の著者が、心に"よはく(余白)"を持つことの重要性を強調していること。

  • 『頭の"よはく"のつくり方』(鈴木進介 著、日本実業出版社)

"よはく"がない状態でがむしゃらにがんばっていたとしたら、やがて"脳内キャパ"が限界に達してしまうわけです。しかし、それでは元も子もありませんから、無理をしすぎるようなスタイルは見なおすべきだという考え方。

当然ながら、それは人間関係にもあてはまります。たとえば著者は、他人よりもっと自分に意識を向けてみようと提案しています。いいかえれば、人間関係について悩んでしまうのは、他人のことに意識が向きすぎているから。

しかもその特性は、相手が家族や友人、知人、あるいは取引先であっても変わらないのだそう。自分と違って他人のことはよい点も悪い点も客観視できてしまうため、余計にあれこれ思いを巡らせ、ときには口まで出したくなるものだということです。

私たちは他人の人生を生きているのではなく、自分の人生を生きています。だから、他人を意識する前に、もっと自分に意識を向けることが重要です。
他人を意識し、他人のことばかり考えていたら、自分のことを考えるよはくがなくなってしまいますよ。(152ページより)

他人の反応を気にしてはいけないということではないでしょうが、スタート地点を「自分は」にしなければ、他人に合わせるだけの思考になってしまうかもしれないのです。

「他人は」の枕詞の後に続く内容をあくまで参考として、取り入れるか取り入れないかも自分で決めるスタンスが自分らしさを保つコツです。(153ページより)

著者も人の話を聞く場合、さまざまな手段については耳を傾けアドバイスを取り入れたりするものの、自分の価値観に触れる部分についてはあまり耳を貸さないのだそうです。

なぜなら答えは「自分」しか持っておらず、相手が大御所や人生の先輩だったとしても、他人は自分自身にはなりきれないという思いがあるから。

だいいち、後悔や失敗をしたとしても、誰かが助けてくれるとは限りません。最後は、自分の納得感だけがものをいうわけです。そういう意味では、他人に期待し過ぎることも、逆に自分を苦しめることになる可能性があるといえそうです。

「なぜ、思ったように動いてくれないんだ!」という気持ちの背景には、相手はこちらの意図を瞬時にくみとり、最高の結果を出してくれるはずだという無意識の期待があります。期待が外れたときは、怒りに変わり、勝手にストレスを溜め込む始末。 怒りの感情が一度湧き出すと大きく膨れ上がり、相手のことで頭の中がいっぱいになってしまいます。頭の中によはくがない状態で仕事を続けると、ほかの仕事にまで悪影響をおよぼしかねません。
相手にはもちろんですが、自分自身もストレスを溜めるだけで、よいことなど何もありませんよね。(155ページより)

相手をコントロールしようとすると、それは結果的には自分自身のストレスとなって返ってくるもの。そのため、コントロールできない相手に執着も期待もしないのがいちばんだということです。

他人のことばに振り回されないために

とはいえ頭ではわかっていても、他人のことばが気になり、それに振り回されてしまうことはあるものです。そこで参考にしたいのが、『プロカウンセラーが教える他人の言葉をスルーする技術』(みき いちたろう 著、フォレスト出版)。心理カウンセラーである著者が、ことばに振り回されないための策を明かした一冊です。

  • 『プロカウンセラーが教える他人の言葉をスルーする技術』(みき いちたろう 著、フォレスト出版)

著者は本書のなかで、「ことばに振り回されやすい人」にはいくつか共通点があるものだと指摘しています。たとえば、以下のようなこと。

▶︎言葉には真摯に耳を傾けなければ、と考えている。一言一句受け取ろうとしてしまう。
▶︎言葉をスルーすると自分の評価が下がる、他人から見放されてしまうという過度の恐れを持っている。
▶︎他人が怒っていないか、気分を害していないかが気になってしまう。
▶︎真面目な人、誠実な人。
▶︎いい人でいたいがために、ノーガード状態。失礼なことを言われても反論したり、怒ったりしない。
▶︎言葉は大切で、どんな言葉にも意味があると考えている。
▶︎なにかあるとすぐに自分が悪いと思ってしまう。
▶︎他人から指摘を受けたら、それをもとに反省し、自分を改善、向上させなければいけないと考えている。
▶︎いい加減に言葉を扱うことができない。
(32〜33ページより)

ここからわかるのは、「ことばに振り回されやすい人たち」は多くの場合、他人のことばの価値を高く捉え、自分を低く捉えているということ。しかし、それではうまくいかなくても無理はありません。

では、こうした状態を解決するためにはどうしたらいいのでしょうか? そこで必要となるのは関係性の根幹にあるものを明らかにしていくことだと著者は主張しています。

あなたが他人の言葉に振り回されないようになるためには(他人の言葉をスルーできるようになるためには)、まずは「言葉」というものはいったい、どの程度の値打ちがあるのか? その実態を知る必要があります。そのうえで、言葉を自分のものにする必要があります。言葉が自分のものになると、低いと捉えていた自分の価値も他人と対等な水準まで徐々に高まるようになります。(35〜36ページより)

本書ではこれ以降、ことばを自分のものにするために意識しておくべきこと、すべきことなどを紹介しています。参考にしてみれば、人間関係を改善できるかもしれません。

他人に攻撃されたら「のれん」になる

しかし現実問題として、他人からの「攻撃」を受けることは少なくありません。そこで最後に、『身近な人の「攻撃」がスーッとなくなる本』(水島広子 著、大和出版)を見てみることにしましょう。

  • 『身近な人の「攻撃」がスーッとなくなる本』(水島広子 著、大和出版)

タイトルを見て「そんなことがあるはずない」と思われたかもしれませんが、「対人関係療法」という精神療法を専門とする精神科医である著者は、攻撃がスーッとなくなるのは本当にあることだというのです。

相手から「攻撃」を受けた場合には、「ただその場でかわせばよいだけ」というケースと、「放置すると実害が及んでしまう」ケースがあるもの。つまり、そのどちらかを見極め、相手によってエネルギーを使い分けることが必要であるわけです。

ここでは、前者に目を向けてみたいと思います。

自分の役割を「できるだけ不愉快な思いをせずに、その場をやり過ごすこと」と決めたら、相手を「困っている人」として見て、困っている人をこれ以上困らせないようにしようと考えることが大切。

これは相手への親切心からではなく、ただでさえ困っている相手をさらに困らせると、さらなる反撃がくるからです。では、相手をこれ以上困らせないためにはどうしたらいいのでしょうか?

それは、相手の発言になんの意味づけもしないことです。(96ページより)

なにかあった場合でも、「その態度はなんですか」と反論したりするのではなく、ただ「ああ、そうですか」と答えるだけ、ということ。

「相手の発言になんの意味づけもしない」というのは、「のれんに腕押し」状態になる、ということです。こちらのイメージは「のれん」。「攻撃」されてもなんの変化もなくゆらゆらしている感じです。
そのためにはやはり「攻撃」を攻撃として受け取らない、という姿勢が必要です。 (98ページより)

なるほど、「のれん」でいることを習慣化できれば、厄介な相手とのトラブルもやり過ごすことができそうです。