悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「テレワークでモチベーションが下がった」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「テレワークで仕事へのモチベーションが下がってしまった」(49歳女性/事務・企画・経営関連(マーケティング・経理・企画・経営他))


新型コロナウイルスの発生から早くも2年。時の流れの速さに驚くばかりですが、ともあれこの期間、多くの人がライフスタイルを根底から変える必要に迫られることになりました。

そんななか、最も大きな変化として思い浮かぶのがテレワークです。「出勤するわけにいかない」状況に対応するための策が、結果的には多くの人に「出勤しなくても仕事ができる」という気づきを与えることになったわけです。

無駄を省いて効率を高めるという観点からすれば、これは画期的な変化だったといえます。家族と過ごす時間が増えたという方や、通勤ラッシュから解放されて気持ちに余裕が生まれたという方だっていらっしゃるのでしょうから。

しかし、ご相談にあるように、この変化がモチベーションを低下させることにもなったのも事実。だとしたら、なんとかしなければなりませんよね。

だとしたら、下がってしまったモチベーションをなんとかしてもとに戻さなければなりませんよね。

コミュニケーションが減るとやる気が下がる

テレワークだと「何のために仕事をしているんだろう」という虚無感が増大しやすい傾向があります。しかし、これはセルフコントロールで解決できる問題なので、諦めずに対処していきましょう。(41ページより)

『科学的に自分を思い通りに動かす セルフコントロール大全』(堀田秀吾、木島 豪 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)にはこう書かれています。加えて、さらに注目に値するのは「コミュニケーションが減るとやる気が下がる」という指摘。

  • 『科学的に自分を思い通りに動かす セルフコントロール大全』(堀田秀吾、木島 豪 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

人間は適切なコミュニケーションをとると、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンやオキシトシンの分泌が促されます。すると精神衛生が保たれるため、あまり価値を見出せない仕事だったとしても、不満を感じたり、やる気が低下したりしないわけです。

ところがコロナ禍で他者との直接的なコミュニケーションが極端に減少した結果、モチベーションの低下を意識している人が増えているようです。

では、どうしたらいいのか? この問いに対する答えとして、本書では3つのセルフコントロール術が紹介されています。

まず最初が、「目標を細かく刻む」こと。

たとえば全体が見えにくい大きな仕事では、自分の役割が見えにくくなることがあります。そんなときは、自分の目に見えている範囲で目標を決めることが大切だという考え方。

要するに、目標を細かく区切って、小さな成功体験を積み重ねればやる気がでるわけです。
「今日はこの資料を完成させる!」など、毎日のタスクを目標にすれば、それだけで年間200回以上の成功体験を積み重ねることが可能になります。(43ページより)

2つ目が、「金銭の報酬を設定する」こと。目標を細かく刻むと同時に、「金銭的なご褒美」を用意しておくのが効果的だということ。「自分へのご褒美貯金箱」をつくって、細かく刻んだ仕事の目標を達成するたびに1,000円入れていくなど、目標の達成を貯蓄と連動させるわけです。

そして3つ目が、「全体よりもプロセスに着目する」。つまり、見すごしがちな小さな仕事のプロセスに着目するということです。

たとえば、漢字の書き取りや計算といった細かいプロセスをきちんとこなして、その努力を褒められた子どもは、積極的に勉強に取り組むことができ、全体の成績が向上します。
仕事もこれと同じで、微妙な仕事であっても、やる気のないままいい加減に取り組むのはもったいないと思いませんか? どんな仕事であっても、同じプロセスをたどる仕事は多いはずです。つまり、やる気のでない仕事であっても、やりがいのある仕事に活用できるプロセスの経験値を積むことができます。(44ページより)

こうしたアイデアを取り入れ前向きに取り組んでみれば、仕事に対する気持ちも変わるのかもしれません。

「40代の働き方」を知る

ところで、ご相談者さんは40代のようですね。そこでご紹介したいのが、『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(佐々木常夫 著、文響社)。40代は気力体力も衰えを見せ始め、仕事や会社への限界を感じざるを得ない時期。

  • 『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(佐々木常夫 著、文響社)

そんなときには希望を見出すことが難しいかもしれませんが、だからこそあえて、自分になにができるか、自分を成長させるにはどうすればいいのかを真剣に考えてみてほしいというのです。

私がいちばん言いたいのは、「40代のみなさんがすべきは、全力でがんばるのではなく、むしろ力を抜いてみる」ということ。
疲れ切った自分をこれ以上いじめる必要はない。
精神論でただがむしゃらにがんばる必要もない。
「幸せな人生」というゴールに最小限の努力でたどり着くために、ムダなものを省く=不要なものを「略す」という考え方を身につけてほしいということなのです。(「はじめに」より)

会社で働いていれば、意に沿わないことがたくさんあるのは当然のこと。ひどい上司に仕えなければならないこともあるでしょうし、納得できないことに頭を下げなければならないことも少なくないはず。

自分の思いどおりにならないことがあるのは当たり前で、それに耐えるのが会社で働く人の宿命でもあります。

ですから、「会社とはそもそもそういう場所なのだ」と自分にいい聞かせ、ときには耐え忍ぶことも必要なのです。

でも、耐えるのはあくまで自分を幸せにするためだということを忘れてはいけません。自分を幸せにするという目的を見失ったまま、ただお金のため、不安を紛らわすために働く滅私奉公など、略すに限ると言ってもいい。
働くとは本来、自らを磨き成長させることによって幸せを得るものであり、不本意な滅私奉公を強いるものではないのです。(21ページより)

とはいえ、「40代になったらもう成長などできない」と考えたくなってもおかしくはないでしょう。著者もかつては「35歳で勝負が決まる」と考えていたそうですが、振り返ってみれば、いちばん成長できたのは40代だったそう。

役職についたから成長したのではなく、自分を磨くために思考や意識を変えたからこそ成長できたと考えているのだといいます。

大事なのは、奴隷のように耐えることではなく、「自分を幸せにしたい」という自己愛をとことん貫き、自らの意志で仕事に向き合うこと。君に必要なのは、まずその覚悟をもつことではないでしょうか。(22ページより)

なるようにしかならない

さて、モチベーションが下がってしまうと、つい焦ったり、苛立ったりしてしまいがちです。しかし、禅僧である『心配ごとや不安が消える 「心の整理術」を1冊にまとめてみた』(松原正樹 著、アスコム)の著者は、「いまこの瞬間は、どうあがいてもなるようにしかならない」と述べています。

  • 『心配ごとや不安が消える 「心の整理術」を1冊にまとめてみた』(松原正樹 著、アスコム)

無常。この世にあるもの、形あるもの、意識、感情はすべて移り変わり、一瞬として同じ時はなく、何一つ同じものは残らない。この世は常に移り変わっていく。この意識を持って世の中を眺めてみれば、今という時間の尊さに気づくことができます。(23ページより)

時間とは一瞬一瞬のつながりでしかなく、それが一本のラインのように見えているだけ。つまり私たちは点の上に生きているわけで、しかも一瞬という点には、ひとつとして同じものがない。この点を一瞬の出会いと考えれば、それは究極の一期一会だということです。

この一瞬を共にすごしている人との時間、この一瞬を費やしている仕事、食事。すべて一期一会と思えば、どの一瞬もムダにしたくないという意識が働くことでしょう。どの瞬間もプラス思考で考えようとするでしょう。
もしかしたら、この一瞬を心配ごとに費やしてしまい後悔するなど、マイナスの感情にとらわれることがあるかもしれない。しかし、それも一期一会。そこから何かを学びとろうと、禅では働きかけます。(24ページより)

モチベーションが下がってしまったとしても、あがいてみたところでなにも変わりません。なるようにしかならないわけで、そんなポジティブな心構えも必要なのではないかと著者は記しています。

世の中は無情だからこそ、私たちは成長できる。無情だからこそ、どんなにひどい状況にも終わりがくる。無情だからこそ、人生はドラマティック。無情だからこそ、すべての感情は一時的なもの。
無情をポジティブにとらえることが、人生を好転させる原動力になります。(23ページより)

たしかにそう考えれば、「モチベーションが上がらない」という現実も決してムダではないことがわかるのではないでしょうか?