悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、教育費の捻出に悩むへのビジネス書です。

■今回のお悩み
「子どもが中高一貫校に通っており、教育費で毎月赤字です。解決方法はありますか?」(49歳男性/IT関連技術職(ソフトウェア・ネットワーク他))


教育費、頭の痛い問題ですよね。僕はご相談者さんよりもひとまわり上の年齢ですが、お気持ちは手に取るようにわかります。

なぜって、うちは上の子(息子)と下の子(娘)が11歳も離れているから(親は同じです)。息子はもう社会人として独立していますけれど、娘はまだ高校生。同世代には「やっと子育てが終わった」と安心している人も少なくないのですが、僕の場合はそうもいかないわけです。

だから不安と背中合わせなのですが、とはいえ子どもが成長している以上、親としてはなんとかしなければなりません。だからこそ、無理にでも前向きに考え、なんとかしていこうと思っているのです。

お互いに、なんとか乗り越えましょう!

「定期預金」で手堅く増やす

『「教育費をどうしようかな」と思ったときにまず読む本』(竹下さくら 著、日本経済新聞出版)の著者は、おもに個人向けのコンサルティングに従事しているというファイナンシャルプランナー。

  • 『「教育費をどうしようかな」と思ったときにまず読む本』(竹下さくら 著、日本経済新聞出版)

教育費の問題に関しても豊富なノウハウを持っているわけで、本書でも「教育費の総額を把握するための公的データと注意点」「受験にかかる費用の概要」「教育資金づくりのポイント」「奨学金や公的な助成制度」など、さまざまな角度から教育にかかるお金の問題を解説しています。

たとえば注目に値するポイントのひとつが、「定期預金で手堅く増やす」という手段。

普通預金であればつい引き出して使ってしまうという人も、定期預金として切り離されていれば、心理的に手をつけにくいメリットも。ボーナス月などに増額する設定もできるので積み立ての基本と言えます。金利は、基本的には普通預金よりも高い水準が適用されますが、今のような低金利下ではほとんど差がありません。金融機関による違いが最近大きくなっているため、ネット銀行や地方銀行のネット支店などを利用すると有利です。(144ページより)

毎年、ボーナス時期には各金融機関がキャンペーンを展開しており、商品券がついてきたり、金利上乗せを行ってくれるなどもメリットも。そういう点を鑑みても、普通預金より手堅い定期預金を活用することによってお金を増やしていくことが大切だということです。

ちなみにご存知のとおり、定期預金は一定期間預け入れることが前提。中途の払い出しができない据え置き期間が設けられているわけです。自動積立定期預金では、3カ月、1年などとしているところも多いため、利用時には確認しておきたいところ。

いずれにしても、定期預金のタイプはさまざま。そのため、かかる教育費にフィットした商品を選ぶ必要がありそうです。

「いつ、そのお金を使いたいか」から貯め方を決める

しかし、「でも現実問題としてお金は足りないし、そもそも貯金がゼロだし……」という方だっていらっしゃるかもしれません。そこで参考にしたいのが、『元証券ウーマンの一生使えるお金の話 貯金ゼロから「貯め体質」』(さぶ 著、KADOKAWA)。

  • 『元証券ウーマンの一生使えるお金の話 貯金ゼロから「貯め体質」』(さぶ 著、KADOKAWA)

タイトルにもあるように、著者は証券ウーマン。お金の専門知識をたっぷり持っているわけですから不安はなさそうですが、実際には順風満帆というわけでもなかったようです。親の借金を肩代わりすることになり、貯金ゼロどころかマイナスになってしまったというのですから。

当然のことながら、そこから「貯め体質」になる道のりは決して楽なものではなかったそう。しかし、そこから多くのものを学んだことも事実で、本書においてはそうした経験に基づいた、お金を貯めるための独自のノウハウを明かしているのです。

貯め体質になるためにまず実践してほしいこととして、著者は「将来のイメージ」の重要性を強調しています。「そのお金はなにに使うためのものか?」について、いま直面している状況はもちろんのこと、視点を変えたり視野を広げたりして、未来を具体的に想像するべきだということ。

今回のご相談に関していえば、目的は教育費であるわけですから、より焦点を絞りやすいかもしれません。

目的による貯め方は、「いつ、そのお金を使いたいか」を基準に考えます。自分が必要なお金について、それぞれ何年後に使いたいか、順に並べてみましょう。そして期間を区切ります。
(1)短期のお金……今暮らすために不可欠な「生活防衛資金」
(2)中期のお金……5〜10年スパンで必要な「目的別貯金」
(3)長期のお金……60歳以上のいつか現役引退した時に使う「老後資金」
(18ページより)

貯める優先順位は(1)短期、(2)中期、(3)長期で、この順番を間違えないようにすべきだと著者。教育費の場合は、(1)(2)が重要になることでしょう。

いずれにしても、とくに短期のお金の確保を最優先にすべきで、具体的には「手取り月収の5〜6か月分」を短期のゴールにするといいそうです。

私は目標高く200万円を目指して貯め、以後ずっとその額を銀行預金にキープしています。これだけのお金があると、病気や怪我など不慮の事態に難なく対応できると思うので、「お金のことでドキドキする」「とにかく不安」という苦しみから解放されました。(18ページより)

もちろん200万円貯めるのは大変ですが、このような気持ちを持ってお金を貯めることはとても重要であるはずです。

赤字を乗り切るためには「予算」しかない

ともあれ教育費のことだけに限らず、家計には不安がつきもの。そこで最後に、『不安な時代の家計管理』(林總 著、すみれ書房)をご紹介したいと思います。

  • 『不安な時代の家計管理』(林總 著、すみれ書房)

公認会計士、税理士である著者が、家計管理についてわかりやすく解説した一冊。教育費だけに焦点を当てたものではありませんが、お金についての本質的な考え方を確認するために重要な意味があると思います。

事実、著者は「収入を増やす本」ではなく「家計を管理する本」を出した理由について、「危機に直面したときにもっとも大切なのが、現状を正しくマネジメントすることだから」だと主張しています。

不安は「先が見えないこと」から生まれます。未来が不確実で、いま自分が何をすべきかがわからないから、不安が募るのです。
災害や疫病が起これば、どんな人でも多かれ少なかれ、不安になります。
しかし、実はお金(生活費・事業費)の目処が立てば、多くの場合不安は解消されます。
お金の余裕=心の余裕。
何より、お金があれば考える余裕が生まれます。
だから、いのいちばんに家計をマネジメントしましょう。
落ち着いて、知的に、行動するのです。(「はじめに」より)

もちろんこうした考え方は、教育費の問題にもあてはまるはず。いうまでもなく、教育費は生活費のなかに組み込まれているものだからです。したがって、教育費を"家計"という観点から考えることには相応の意味があるのではないかと思います。

ところでご相談のなかに「教育費で毎月赤字」だと書かれていましたが、著者は赤字を乗り切るためには「予算」しかないと断言しています。直近の3か月を乗り切るための最後の武器は、「予算を立てること」だというのです。つまり、これからの収支を現実的に計画するということ。

家計は、「収入(入ってくるお金)」と「支出(出ていくお金)」によって成り立っているものです。多くの人は収入が減ると不安になり、収入が増えると安心するものでもあるでしょう。いわば収入の増減によって、精神的に落ち込んだり、舞い上がったりするわけです。そうなってしまうのは、収入ばかりにとらわれているから。

そしてこのことに関連して、著者は「どんぶり勘定は、低収入より、恐ろしい」と主張しています。

公認会計士という仕事柄、たくさんの企業や経営者を見てきましたが、破綻する人は収入以上の生活をする人です。100万円の収入であっても130万円で暮らす人のいかに多いことか。
収入は多いに越したことはありませんが、なかなかコントロールすることができません。給料はそうかんたんには上がらないし、収入アップを狙った転職も成功率は低いからです。
それよりも、支出をコントロールすることのほうが、はるかに現実的です。(54ページより)

たとえばお金の使い方を見なおして支出を2万円抑えることができれば、2万円収入が上がったのと同じ。20万円の収入があるなか18万円で暮らせば、2万円の黒字ということになるわけです。

要は、支出が合いさえすれば破綻はしないということ。教育費に関しても、そのような考え方に基づいて収支を合わせることが大切なのではないでしょうか?