悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自分の自由になる時間が作れないと悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「自分の自由になる時間がなかなか作れない。落ち着いて自分のために時間を使えない。仕事とプライベートの両立は本当に難しい」(52歳男性/クリエイティブ関連)
目の前の仕事に追い立てられながら忙しい毎日を送っていると、必然的に自分の時間が失われていくことになります。1日はどう転がっても24時間なのですから、計算上も当然の話。大半の時間を仕事に費やさなければならないのだとしたら、自分の時間を削るしかないわけです。
でも、そんな状態が続くと、それに比例してストレスが大きくなっていくものでもありますよね。
僕にも経験がありますが、そういう状況から抜け出せずにいると、自分でも気づかないうちに「いつまでこういう状態が続くんだろう?」と悲観的な気分になってしまいがち。なにしろ抜け出すための方法が見つからないのですから、どんどん負のスパイラルに飲み込まれてしまうこともあり得ます。
とはいえ人生は一度きりなのですから、なんとしてでもそこから抜け出したいもの。おっしゃるとおり、仕事とプライベートの両立は難しいけれど、だからこそそこを突破する必要があるのです。
1週間を6日として計画する
『自分の時間 1日24時間でどう生きるか』(アーノルド・ベネット 著、渡部昇一 訳・解説、三笠書房)は、著者のアーノルド・ベネットの数ある著作のなかでも世界中で最も読まれた著作。
その内容について、翻訳と解説を担当されている渡部昇一氏は次のように述べています。
「時間」について書かれた実用書で、これほど世界中の一流人たちに支持された本はないかもしれない。
ベネットはこの本で、「人間というものは、貧乏人でも金持ちでも、とにかく1日24時間しかない」という明々白々なことに目を向け、その24時間でいかに生きるかということに対する具体的なヒントを提供している。(「訳者序文 いつの時代にも活用できる知恵 世界中の一流人が刺激を受けた、幸福に生きる『時間術』」より)
そんな本書は、1908年に発行されたという説がある一方、1912年、あるいは1920年に書かれたと記述されることもあるのだとか。どちらにしても20世紀初めに生きた多くの人たちは、この指摘に心を動かされ、本書を人生のバイブルとして愛読したわけです。しかも21世紀になった現在も読み継がれ、いまなお多くの人々に影響を与え続けているとは驚くばかり。
ともあれ、簡潔にまとめられた本書に、自分の時間をつくるために有効なアイデアが数多く盛り込まれていることは間違いないようです。たとえば、"1週間を6日として計画する"べきだという考え方もそのひとつ。
著者はかつて、自分よりも年上で人生経験も豊かな人たちから、「1週間を7日と考えるよりも6日として考えたほうが能率が上がり、より充実した生活ができる」と教えられたというのです。
実際、現在の私は「自分で計画したことにも従事せず、その時々で気まぐれに思いついたことだけをやる日」を7日間のうちに1日設けている。だから週1回の休日がもつ本当の意味を(つまり、精神に及ぼす効用を)充分に理解できている。(76ページより)
たしかに7日間のうちに1日を休日だと決めてしまえば、精神的な負担は軽くなりそうです。なぜなら、それは自分自身が決めたことなのですから。
ただし、休日の余分な1日は、「たまたま手に入った"もうけものの1日"であると考えるべきで、確実なものとしてあてにしてはならないとも著者はいいます。そう心得ておけば、仮にその日が利用できなくなったとしても損をしたような気にはならないはずだから。当てが外れたと大騒ぎをしなくても、すみやかに6日間の計画に戻れるわけです。
自分に投資する「マイタイム」を持つ
『マイタイム 自分もまわりも幸せになる「自分のための時間」のつくり方』(モニカ・ルーッコネン 著、関口リンダ 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、日本で暮らした経験も持っているというフィンランド人女性。日本にいたときは、「日本の方はちょっとがんばりすぎかな」と思っていたそう。
そこで本書では、どんなに忙しくても"マイタイム"を持つことの大切さとその方法を伝えようとしているのです。
"マイタイム"とは、シンプルにいうと、仕事や家事の責任から離れ、自分に投資する時間のことです。(「はじめに」より)
たとえば友人と一緒に過ごすとか、エクササイズをするとか、趣味に打ち込むなど、人それぞれ過ごし方は違ってOK。自分らリラックスできること、自分にとって意義のあることをすればいいということ。
"マイタイム"を大切にすることは、"充電できる""自己啓発ができる""健全な人間関係が保てる""より健康になれる""よき親、よきパートナー、よき社会人になれる"などのメリットがあるのだとか。
「"マイタイム"をつくれるなら苦労はしない」という声が聞こえてきそうですが、著者も最初は同じような気持ちだったそうです。そこで注目すべきは、どうやって"マイタイム"をつくるのかについての考え方。
ポイントは、「すき間時間」の活用です。
通勤時間や子どもの習い事を待っている間など、いままでなんとなく過ごしていた時間に注目すれば、"マイタイム"をつくることができるのです。(38ページより)
加えて、仕事に対する姿勢を変えることも重要なポイント。
私は仕事を家に持ち帰らないこと、週末に仕事をしないことを決めています。 そうすることによって、仕事での疲れをリフレッシュし、よりよく長く働くことができます。今日の仕事が今日中にできない場合は、明日に回します。本当に今日中に必ず仕上げなければならない仕事はそうたくさんはありません。一生懸命に効率よく仕事を就労時間内にし、終わったら、すべてを明日まで置いてしまいます。(50ページより)
こうした考え方の根底には、基本的に午後4時に仕事を終えるというフィンランドのライフスタイルがあるのかもしれません。とはいえ難しいことではないので、日本人にも無理なく応用できるはず。
また、基本的には女性目線で書かれてはいるものの、男女差なく取り入れられるものでもあると思います。
「6分間のモーニングメソッド」を実践する
『朝時間が自分に革命をおこす 人生を変えるモーニングメソッド』(ハル・エルロッド 著、鹿田昌美 訳、大和書房)の著者が紹介しているのは、タイトルにもある「モーニング・メソッド」。朝8時までの過ごし方によって、仕事、健康、恋愛関係、財政、精神性などを劇的に改善できるというのです。
とはいえ、現実問題として多忙な朝に時間なんか取れないという方もいらっしゃるでしょう。あるいは、「用事がひとつ増える」ことが精神的に負担になるということもあるかもしれません。
そこで注目すべきは、著者が提案している「6分間のモーニングメソッド」。1日わずか6分間なら、時間は確保できるはずですからね。たとえば、こんなふうに6分間を使ってみるといいそうです。
1分
朝、穏やかに目を覚ます。大きなあくびをして伸びをし、笑みを浮かべて、忙しい朝を、慌ただしく始めるのではなく、最初の1分間、静かに座って「目的のある沈黙」を。静かに穏やかな気持ちで座り、ゆっくりと深い呼吸をする。(165ページより抜粋)
2分
あなたの潜在能力を引き出し、人生における優先順位を思い出させてくれる内容をメモに書いたものを、上から下まで声に出して読む。人生でもっとも大切にしていることに意識を向けると、1日を有意義にしようという意欲が高まる。(166ページより抜粋)
3分
目を閉じるかビジョンボードを見つめながら、イメージングを行う。目標を達成したときの後継と感情を思い浮かべよう。今日が完璧な1日になることをイメージする。(166ページより抜粋)
4分
1分間で、感謝すること、自分を誇りに思うこと、今日出したい結果の3つを書き出す。これにより、エネルギーとひらめきが得られ、自信がみなぎる。(167ページより抜粋)
5分
読みたい本を手にとり、1分間を使って1,2ページを読む。そこから学んだアイデアを、今日の仕事や人間関係を向上させるために使ってもいいし、美しい文章に心動かされる自分をただ感じてもいい。(167ページより抜粋)
6分
最後に、立ち上がって60秒間身体を動かそう。その場で足踏みをしてもいいし、1分間のジャンピングジャックス、腕立て伏せや腹筋をしても。大切なのは、心拍数をあげて、注意力と集中力を増加させることだ。(167ページより抜粋)
いたってシンプルではありますが、シンプルであるからこそすぐに実行できるはず。しかも、その効能は決して小さいものではない気がします。