悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「妻がヒステリーで文句ばかり」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「妻が更年期からヒステリーになり、自覚がないまま通院や治療を考えず、周囲に文句ばかりを言う」(69歳男性/建築・土木関連技術職)


これは難しい問題ですね。なぜなら、ふたつの解釈ができるからです。

まずは、奥様が本当に更年期からヒステリーになっているというケース。だとすれば当然ながら、通院や治療を考える必要があるでしょう。

そしてもうひとつ無視できないのは、「更年期からヒステリーになっている」という部分が、ご相談者さんの主観であるという可能性。

それも、ありえない話ではないように思えるのです。

「通院や治療を考えていない=通院や治療を行なっていない」のであれば、更年期が原因なのだと断定できるだけのエビデンスがないことになります。

だとすれば、「どうやら更年期らしい」という推測だけで判断している可能性も出てきてしまうわけです。

ですからそのことについては、これだけの情報だけを頼りに「どうするべきか」判断することはできません。

ただ、本当に更年期が原因であるにせよ、そうでないにせよ、もっと大切なことがあるようにも思うのです。それは、「ヒステリーになり、周囲に文句ばかりをいう」奥様に、なんとか寄り添う努力をしてみること。

夫に対するストレスからなる「夫源病」とは?

「更年期だから病院に行け!」と強要する前に、「なぜヒステリックになっているんだろう?」と考え、そのことについて(できる限り相手の立場に立って)話し合い、根本的な原因を突き止めていくべきではないかと感じるのです。

その結果、「原因は夫である自分にあった」と気づくケースだってあるでしょう。『妻の病気の9割は夫がつくる 医師が教える「夫源病」の治し方』石蔵文信 著、マキノ出版)の著者も、それは決してあり得ないことではないと主張しています。

  • 『妻の病気の9割は夫がつくる 医師が教える「夫源病」の治し方』(石蔵文信 著、マキノ出版)

最近の研究では、ストレスがさまざまな病気に関係していることがわかってきています。また、女性の5人に1人が経験するといわれるうつ病などの精神疾患も、ストレスが発症に大きく関与しています。
結婚している女性たちにとっては、夫の無神経で鈍感な言動や、夫の存在そのものがストレス源であり、多くの妻が夫に対するストレスからくるさまざまな心身の不調に苦しんでいるのです。(「はじめに」より)

大阪市内の病院で「男性更年期外来」を開設して以来、600名以上(本書執筆時)の患者さんたちの相談に応じてきたという人物。

その結果、夫に対するストレスを抱える妻の多さに気づき、"夫源病(ふげんびょう)"という名を考えついたのだそうです。医学的な病名ではないとはいえ、これは見逃せない"病"ではないでしょうか?

「夫源病」とは、読んで字のごとく、夫が源(原因)の病気です。
夫のなにげない言動に対する不平や不満、あるいは夫の存在そのものが強いストレスとなり、妻の心身にめまい、動悸、頭痛、不眠……といった症状が現れる病気のことです。症状だけを見れば、40〜60代に起こりやすい不定愁訴である更年期障害にも似ています。(14ページより)

だとすれば、どうすればいいのかが気になるところですが、たとえば著者は夫源病を解決するポイントのひとつとして「夫が妻を対等な個人として扱うこと」と「夫婦の会話の復活」を挙げています。

妻を対等に扱うには、上から目線でものを言ったり、妻を母親扱いして過度に甘えたりしないことです。仕事も大変だが家事も大変だし、妻には妻の考えがある、ということを認めて、お互いに尊重しあうことが必要です。(169ページより)

そのためには、夫は仕事一辺倒ではなく、家庭での時間も大切にして家事も担うべき。また、妻も働きに出れば、お互いの苦労を理解し合えるようにもなるそう。

そして当然のことながら、夫婦の会話も重要。そこで著者はまず、「ありがとう」と「ごめんなさい」をいうことを勧めています。また、照れくさいかもしれませんが、誕生日や結婚記念日にプレゼントを贈ることも有効なのだとか。

まずはそうしたことを実践してみれば、奥様のイライラにも改善が見られるかもしれません。

やさしいことばをかけることから

『思い出すと心がざわつく こわれた関係のなおし方』(イルセ・サン 著、浦谷計子 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者も、相手の気持ちに寄り添うことの重要性を説いています。

  • 『思い出すと心がざわつく こわれた関係のなおし方』(イルセ・サン 著、浦谷計子 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

デンマークの牧師兼心理療法士。本書の内容も、牧師としてカウンセリングを行っていたころのことや、そののち心理療法士としてさまざまな人間関係の修復の手助けをするなかで耳にしたさまざまな悩みごとがもとになっているのだといいます。

今回のお悩みに関しては、「相手の言い分を引き出し、受け止める」という項目が役に立ちそうです。

抑えている気持ちを知りたければ、その人が求めているものを差し出さなければなりません。つまり、こちらが謙虚になって歩み寄ることです。
それと同時に、相手に怒りや悲しみ、不満を吐き出す機会を与えてあげれば、向こう側から歩み寄ってくる可能性も高くなります。(119ページより)

つまり、奥様がなんらかの気持ちを抑えており、それを吐き出す機会がないからストレスが大きくなっているのだと考えることもできるということ。

そういう意味でも、相手に歩み寄ることは大切。仮に原因が別のところにあったとしても、歩み寄ったこと自体が無駄になることはないはずです。

人間関係において、誰もがつねに心を開いて素直に語りたいと思うわけではありません。けれども、互いがネガティブな感情も含めて本音で語り合うなら、その思いは相手の心の奥深くに伝わり、より強い絆を結ぶことになるはずです。(107ページより)

なお、自分の気持ちを語るときには、非難のことばをはさむべからず。できるだけ、相手にやさしいことばをかけることから始めてみるべきなのです。

なぜなら、そうすれば相手は警戒心を解くことができ、オープンにありのまま語ることができるから。

"心を許せる人"として寄り添う

さて、次に参考にしたいのは、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ 著、藤田麗子 訳、ダイヤモンド社)。著者は、BTSもおすすめしているという韓国のベストセラー作家です。

  • 『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ 著、藤田麗子 訳、ダイヤモンド社)

大丈夫なふりをしてしまう人には、
「支えとなる場所」が必要だ。
誰かが自分の心を認めてくれるだけで、
大きな助けになる。
力を抜いて、
ありのままの自分の姿で休めるようになる。
(「はじめに つらくても声に出せないあなたへ」より)

こうした考え方を軸に、人間関係や仕事などに悩む人の"不器用な生き方"を応援してくれるエッセイ。このなかで著者は、「心を許せる人がそばにいないとき、みなネガティブになるものだ」と指摘しています。

心を許せるというのは
自分の気持ちをわかってもらえるということ。
そんな人がいなければ、知らず知らずのうちに
孤独で疲れた状態になる。
(49ページより)

だからこそ、"自分の気持ちをわかってくれる人"であるパートナーの存在が重要な意味を持つわけです。

そして寄り添う際に必要なことがあるとしたら、それはネガティブ思考から離すことではないでしょうか?

今、ネガティブ思考に支配されているのなら
目の前の問題を解決しようと力まずに
いったん完全に離れて、しばらく休もう。
そうすれば、ネガティブな感情から
少しずつ抜け出していけるだろう。
(50ページより)

たとえば、「なんとか楽にしてあげなければ」と必要以上に力むのではなく、本書を黙って差し出してみるだけでもいいかもしれません。