悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、老後に漠然とした不安を持つ人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「老後に漠然とした不安があります。安心したいです」(51歳男性/専門職関連)


とくに50歳を過ぎると、老後に対する漠然とした不安が頭をもたげてくるものです。

自由業者である僕はまだ楽なほうですが、定年が近づきつつあるサラリーマンの方であれば、おっしゃるような"漠然とした不安"があっても当然。会社を離れるということは、後ろ楯がなくなってしまうということなのですからね。

しかし現実問題として、老後は確実に訪れるものでもあります。それは間違いないのですから、あえて重苦しく考えず、ちょっと無理をしてでも楽観的になるくらいのほうが精神的には楽なのではないでしょうか?

簡単なことではないでしょうけれど、しかし不安感は、放っておくとどんどん大きくなっていくもの。だからこそ、不安のスパイラルに陥らないためにも、意識的に不安を小さく保つ必要があると考えるわけです。

考えるより体を動かす

タイトルからもわかるように、『精神科医が断言する 「老後の不安」の9割は無駄』(保坂 隆 著、KADOKAWA)の著者も同じように考えているようです。

  • 『精神科医が断言する 「老後の不安」の9割は無駄』(保坂 隆 著、KADOKAWA)

注目すべき点は、若いころの悩みと老後のそれとのいちばんの違いは、「原因が見えやすいか否か」であると指摘しているところ。

たとえば若いころの悩みの多くは、「もっと業績を上げたいのにうまくいかない」「忙しすぎて時間が足りない」など、はっきり原因が見えているもの。そのぶん、対処もしやすいわけです。

いっぽう、「なんとなく」「わけもなく」というケースが多く、解決の糸口が見つけにくいのが老後の悩み。とはいえ老後の不安や悩みにも、ちゃんと原因は存在し、その多くは「自分のなか」にあるのだと著者は指摘しています。

歳をとったことを受け入れられない人ほど、「気力が湧かなくなった」など、年齢によるごく当たり前の変化を「つらい」と感じてしまうというのです。

あるいは「この先、病気になったらどうしよう」というように、どうなるかわからない行く末に不安ばかり抱き、さらに悩んでしまったりすることも考えられます。

でも、実はそれら「不安感」のほとんどは、物事の考え方や心の持ち方をちょっと変えてみるだけで、少しずつ解消していくのです。(「はじめに」より)

たとえば、悪いことが起きたわけでもないのに、気分が落ち込んでモヤモヤするというようなことはあるもの。でも、それを放っておくと、本格的なうつ状態に向かう可能性も否定できません。

したがって、そうした芽は早めに刈り取ってしまうのが得策。そこで著者は本書において、もやもや気分をリセットするいくつかの気分転換法を紹介しています。

そのひとつが、全身に酸素を行きわたらせる深呼吸法。人は緊張したり落ち込んだりすると呼吸が浅くなるので、深呼吸でしっかり酸素を補給する必要があるということです。

背筋を伸ばして椅子か床に座り、鼻から軽く息を吸います。
息を吸うときは、おへそのすぐ下5センチほどの「丹田(生命エネルギーをつかさどる場所)を意識して、自然にお腹をふくらませます。
息を吐くときは口から空気を出し切るつもりで、できるだけゆっくりと吐きます。
吐き切ったら、また鼻から息を吸いますが、吸うことには意識を向けず、吐くことに意識を集中させて、できるだけ長く細く吐き切るのがコツです。
(68ページより)

こうすると、浅かった呼吸が深くなり、頭がスッキリするそうです。

いずれにしても、モヤモヤを溜めてもいいことはなにひとつありません。そこで、ちょっと気持ちがブルーになってきたら、なるべく早めに対策を講じることが大切。

そのためにも、考えるより体を動かして行動することが大切。スッキリしないなら深呼吸でも散歩でも掃除でも、とにかく体を動かして頭のなかのモヤモヤを追い払うべきなのです。

働くことによって解決

老後に漠然とした不安を持ちながら、どこか無関心であるがゆえにあまりなにも考えず、いよいよ定年退職が近づいてきて慌てる人が非常に多いーー。

そう指摘しているのは、『老後不安がなくなる 定年男子の流儀』(大江英樹 著、ビジネス社)の著者。大手証券会社に38年間勤めたのち、定年退職後は独立し、経済やお金、定年後の生活の知識を伝える活動を行っているという人物です。

  • 『老後不安がなくなる 定年男子の流儀』(大江英樹 著、ビジネス社)

気になるのは「老後不安をなくすためにはどうすればいいか」についての考え方ですが、このことについて著者は「老後をなくせばいい」と答えています。

60歳で定年になったところから老後が始まると思われがちですが、働くことをやめたときから「老後」が始まると考えているというのです。つまり、「働いている限り老後はない」という考え方。

老後ということばには、「貧困」「病気」「孤独」などのマイナスイメージがつきまとうものです。しかし働き続ければ、そういったマイナスイメージはかなり払拭することができるというわけです。

たしかに働き続ければ、いくばくかの収入を得ることができます。また生活のリズムも安定するので、精神的、肉体的にも一定の健康をいじすることはさほど難しくないはず。少なくとも、なにもせず家に引きこもっているよりはずっといいに違いありません。

しかも仕事を続けていれば、常に人と接することになるため不安に陥ることもないでしょう。

すなわち老後の不安の多くは、働くことによって解決できるということです。もちろん、「退職してまで働くのは嫌だ。のんびりと楽しい老後を過ごしたい」という考え方だってあるかもしれませんし、著者もそれを否定はしていません。「そういう考え方もアリ」だと。

ただ、そう思うのは「仕事はつらいもの」という感覚が強いから。私も40年近くサラリーマンをやってきましたから、「働くのがつらい」という感覚はよくわかります。ところが、リタイアして自分で仕事を始めたら必ずしも仕事はつらいものではない、どころか楽しくて楽しくてしょうがない、とすら感じられるようになりました。(18ページより)

そこで本書では実際の経験を軸として、定年後の人生の楽しみ方を紹介しているわけです。「定年起業」の仕方もわかりやすく解説されているので、将来に不安を抱く人にとっては大きく役立ちそうです。

「ねばならない」から解放される

さて、老後の大きな不安のひとつにお金の問題があります。『「定年後」の"お金の不安"をなくす 貯金がなくても安心老後をすごす方法』(大江英樹 著、総合法令出版)の著者も、定年間際には「安心できるほど蓄えがない」と不安を抱いていたのだそうです。

  • 『「定年後」の"お金の不安"をなくす 貯金がなくても安心老後をすごす方法』(大江英樹 著、総合法令出版)

他の人にくらべるとかなり蓄えが少なかったこともあり、なかなか「不安を拭い去れなかったのだとか。

ところが結論から言えば、サラリーマンの場合は、老後のお金についてはあまり過剰に心配する必要はないのです。実際に自分が体験してきたことに基づいて言えば、やり方さえ間違わなければ、それほど案ずることはありません。(「はじめに」より)

むしろリスキーなのは、老後のお金の不安を煽るマスコミや金融機関に乗せられ、不用意に退職金などのまとまったお金を投資してしまうこと。それに、そもそも退職時に何千万円も持っている人など、ほんの一握りしかいないはずです。

そこで本書では、「たとえ定年時にそれほど蓄えがなくても大丈夫」であることの理由が説明されているのです。

「基本的に知っておくべきこと」以下、年金不安の解消法、収支の考え方、働くことの意味、資産運用で気をつけるべき点など、出てくるトピックスは多種多様。重要なことばかりですが、さらに印象的なのは最終章で価値観を変えることの大切さを説いている点です。

仕事においても家庭においても、「ねばならない」ことだらけだったのが現役世代。しかし60歳になったら(可能であれば50歳からでも)、数々の「ねばならない」から解放されるべきだというのです。

会社で言えば、50代になると「役職定年」というのが出てきます。それまで管理職だった立場を離れ一兵卒に戻るということですが、私はこれをネガティブに捉えるべきではないと思います。役職定年になるということは、それだけ責任は軽くなるということです。
つまり、「ねばならない」ことが減るということなのです。(176ページより)

つまり、「会社は退職後に向けて価値観を変えるための機会を与えてくれたのだ」と考えるべきだということ。

著者はそれこそが新しい価値観だと記していますが、たしかに考え方次第で、老後の不安を希望に変えることができそうです。いや、むしろ、意識的にそうすべきなのだろうと強く思います。