悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、コロナ禍の営業活動に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「コロナの影響で、客先との面談ができない」(58歳男性/営業関連)
客先との面談ができないとお悩みであるということは、対面の営業にかなりの自信をお持ちなのかもしれませんね。20代のころからずーっと「営業なんて自分には絶対に無理」と思ってきた立場からすれば、純粋にうらやましくもあります。
ただ、それはともかく、このご相談についてはちょっと気になることもあります。
当然ながらここでいう面談とは、営業のために行うものだと思われます。すると、このお悩みは「客先との面談ができないから営業が成り立たない」ということになってしまいます。
でも、はたしてそういうものでしょうか?
たしかにひと昔前であれば、それは問題視されてしかるべきことだったのかもしれません。
けれど、コロナ禍の影響で多くの常識が覆されたいま、「非対面営業」が決して珍しいことではなくなっているのも事実。すなわち、面談できなくても営業を成立させることは、現実的に不可能ではなくなっているわけです。
そう考えると、「コロナの影響で客先との面談ができない」のは「時代の流れについていけない」ということにもなってしまいます。
もちろん従来の常識が通用しなくなってしまったのですから、ストレスは決して小さくないでしょう。とはいえコロナ禍に伴う多くの変化も、「新たな常識」となりつつあるのです。
だからこそ、少しでもそこに順応できるように意識を変えていくほうが気分的にも楽なのではないでしょうか?
いままでやってきたこととは違う"新しいこと"をするのは難しいと感じるかもしれませんが、人間には順応性があるもの。意識と行動をちょっと変えてみるだけで、意外とうまくいくものなのではないかと思います。
営業活動もオンラインで行えばいい
『出社しなくても最高に評価される人がやっていること』(池本克之 著、日本実業出版社)の著者も、次のように端的なメッセージを投げかけています。
営業活動もオンラインで行えばいいのです。相手先にアポを取り「オンラインでお話しさせていただいてもいいですか?」と聞いてみましょう。面と向かっているか、画面に向かっているかの違いで、やること自体は基本的には変わりません。(29ページより)
「客先との面談ができない」という悩みが生まれるのは、その根底に「相手に失礼があってはいけない」という配慮があるからにほかなりません。「営業=足で稼ぐ」というイメージが根強いため、相手のところへ実際に足を運んで行う営業スタイルは"当然のもの"であったわけです。
しかし、頻繁な接触を避けることが基本の社会において、リモート営業のハードルはほとんどなくなっていると著者は指摘しています。
そこまで断言できるのは、コンサルティング会社の社長として「実際にそうしている」から。
コロナ禍によってリモートワークが始まる何年も前から、社員にはリモートワークで働いてもらい、大きな成果を上げているというのです。
「アイスブレイクとして少し雑談し、本題に入って提案をする。その提案を受け入れてもらうために具体的な内容を伝えていき、それがうまくいけば、必要な書類などを確認して、次回までに用意してもらう。その際に、次のアポも取っておく……」(78ページより)
これまで、通常の営業はこのような流れで行われていたはずですが、著者によればリモートでも基本的な流れは同じなのだそうです。
そして、この流れをうまく回していくためには、ビジネスではおなじみの「PDCA」(Plan→Do→Check→Action)のサイクルを回していくことが鉄則なのだとか。
営業先に提案し、解決策を打ち出して、次回までの宿題をはっきりさせておく。そして次の約束を取ることも忘れずに、リマインドも入れておくーー。
こうしたサイクルをリモート営業にも取り入れればいいということ。したがって、そのための方法を克明に解説した本書は、きっと役立ってくれるだろうと思います。
リモート営業のNGパターンとは?
コロナ禍が一段落すれば、またかつての営業スタイルに戻るか、といえばそうではありません。実は、営業のリモート化の流れは、今回のコロナ禍とは関係なく進んでいました。デジタル化の進展によって、顧客の思考が大きく「非対面」へと変わっているからなのです。(「はじめに」より)
このように述べている『リモート営業入門』(水嶋玲以仁 著、日経文庫)の著者は、デルやマイクロソフト、グーグルなどで、対面営業に頼らない「インサイドセールス」という仕組みを営業組織に導入してきた人物。
独立後も、多くの企業に対してインサイドセールス導入のサポートをしているそう。つまり本書ではそのような実績をもとに、リモート営業に関するさまざまなノウハウを明かしているのです。
ところで今回のご相談がそうであるように、対面営業に慣れている営業マンのなかには、リモート営業に切り替わった途端に「うまくいかない」と感じている方も少なくないはず。
「ウェブや電話では、思うように相手に話が伝わらない」と感じてしまうのかもしれませんが、そのことに関連し、著者はリモート営業の2つのNGパターンを挙げています。
まず1つ目は、一方的に話してしまうこと。
対面営業の際、お客様はこちらが発することばはもちろん、表情、口の動き、身振り手振りや姿勢、座り方や机まわりの状態、周囲の人の反応などさまざまな情報を無意識に峻別して受け取ることになります。
しかしリモート営業の場合は話し声に集中している状態なので、聞き手は10秒間聞き続けるだけでも長いと感じるもの。したがって1回の発言を短くし、細かいセンテンスのやりとりを繰り返すべきだという考え方です。
2つ目のNGパターンは、相手の話を聞いていないこと。
リモート営業と対面営業との大きな差は、相手の反応を受け止めるのに制約があること。電話では口調や声色、ことばの調子から相手の状況をくむしかありませんし、ウェブ会議の場合は通信を介しているため、わすかながらタイムラグが生じます。そのため、対面のとき以上に気を配らなければならないのです。
しかもリモートになると対面時以上に沈黙の時間が目立つので、つい早口で饒舌になってしまいがちでもあります。そして気がつけば、相手の反応を拾うのもそこそこに、自分勝手に話してしまっていたりするわけです。
リモート営業では、物理的な距離を縮めることはできません。顧客を置き去りにしないよう、常に心理的な距離感を意識しながら接客に努めましょう。(116ページより)
顧客の思考が大きく「非対面」へと変わっているからこそ、こうした配慮も不可欠だということです。
オンラインでも高感度の高いコミュニケーション
当然のことながら、オンラインでも対面時と同じように好感を持ってもらうことが重要です。では、"この人と仕事したい"と思わせるにはどうしたらよいのか?
この問いに対して『オンラインでも好かれる人・信頼される人の話し方』(桑野麻衣 著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、「自己開示力」が重要だと主張しています。
今後オンラインコミュニケーションが増えても生き残っていく人とは、「自己開示力」の高い人だというのです。
「初対面がオンライン」という機会も多くなりましたが、手段がオンラインに変わっただけで、初対面から「好かれる」と「信頼される」をバランスよく両立させられる人が生き残っていけるということ。
では、自己開示とはどのようなコミュニケーション力を指すのでしょうか?
「自己開示」というのはその字の通り、自分を開示すること。決して自分を承認してもらう目的ではなく、相手の警戒心をなくし、安心感や親近感を持ってもらうことを目的とします。その上でありのままの姿をさらけ出したり、心からの本音を表現する必要があります。時には自分の過去の失敗談やかっこ悪い自分を見せる場合もあるでしょう。(77ページより)
自己開示をして好かれることにより、「この人と仲よくなりたい、この人をよく知りたい」と思われるようになり、信頼されることにより「この人から解体、長く関係性を築きたい」と思ってもらえるということ。
直接的に対面できないオンラインコミュニケーションだからこそ、関係性を構築し、結果を出すことが求められる。そのためには、自己開示力を高めることが不可欠。
こうした著者の考え方は、見逃してしまいがちではあるけれども重要なことだと考えることができるのではないでしょうか?