悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「働く意味がわからない」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「働く意味がわからない」(27歳男性/事務関連)


26歳のときだったと思いますが、いろいろな意味で行き詰まり、「この先どうやって生きていこう?」と悩んだことがありました。

なにをやってもうまくいかず、どんどん思考がネガティブになり、「もしかしたら自分は、可能性と呼ばれるものを使い果たしてしまったのだろうか?」などと考えてしまう始末。

笑っちゃうような話ですが、当時は真剣だったんですよね。でも、のちに気づいたのですけれど、25歳あたりからの数年の間に、似たような壁にぶつかる人は少なくないようです。

つまり、そういう時期なのでしょう。今回のご相談者さんも27歳だというので、どこか納得できます。

とはいえ、そういった悩みはいわば「はしか」のようなもの。誰でもぶち当たることになっていて、でも誠実に生きてさえいれば、なんとかなるものなのだと思います(いまならわかる)。

事実、僕の場合も20代後半のころにはなんとかなっていました。「あれ、気がついたら乗り越えてたわ」ってな感じで。しかもそこまで行き着いたころには、仕事も充実していたのでした。

30代後半あたりにはまた次の波が訪れもしたので、うまくいかないものだなぁとも感じたのですけれど、つまり生きていくということは、そういうことの繰り返しなのかもしれませんね。

したがって、「だからこそ、おもしろい」と考えるべきなのではないでしょうか? だいいち、そのくらいの気持ちでいたほうが楽じゃないですか。

とはいえ悩みの渦中にいると、なかなかそこまで割り切ることはできないものなんですけどね。

いずれにしても「働く意味がわからない」と感じているとしたら、その背後にはなんらかの理由があるはず。たとえば、「やりがいがない」と感じるということも、よくある話ではあります。

単純に思える仕事にも大きな意味がある

『働き始めた君に伝えたい「仕事の基本」』(江口克彦 著、日本実業出版社)の著者も、その点に言及しています。たしかにやりがいには欠けるかもしれないが、そもそも若手社員に与えられる仕事は、単純なものであることが普通なのだと。

  • 『働き始めた君に伝えたい「仕事の基本」』(江口克彦 著、日本実業出版社)

なぜならば、会社としての仕事は99点ではダメなのです。一人ひとりの仕事が100点でないといけないのです。(中略)。
機械であれば100の部品の中に1点でも不良や不具合があれば動きません。同じように会社でも、一人でもその仕事が99点であれば、1点の致命的な傷を負うこともあります。(21ページより)

だからこそ上司は若手に対して、単純で簡単な仕事を与えるということ。もちろんそこには、失敗したら困るという思いもあるでしょう。しかしその一方には、「失敗して将来に悪い影響を与えないように」との配慮もあるはず。だから、単純で「なんだこんなこと」と思うような仕事を与えるということです。

それも毎日同じか、同じような仕事である場合も少なくありません。だとすれば、いくら仕事とわかってはいても、「もう勘弁してよ」と感じてしまう気持ちも理解できます。

そう思うのは当然ですが、そこで気を緩めず、与えられた単純な仕事にしっかり取り組んでいくことが肝要なのです。
そういう単純なこと、しかし「仕事の基本」と言えるような仕事を最初に体に染み込ませ、血肉にすることができるかどうか。実はこれが、あなたの将来を決めてしまうと言っても過言ではないのです。(22ページより)

つまり、単純に思える仕事にも実は大きな意味があるということ。

「なんだ、こんな仕事」と思わずにはいられない仕事をきっちりと、しかも正確に迅速に仕上げる。そのような姿勢こそが大切であるわけです。

なぜなら大きな仕事も、そういった単純な、一見すると小さく見えるような、あるいは雑用かと思うような仕事を土台にして成り立っているものだから。

その単純な仕事こそが、機械でいう「小さいけれども必要な部品」。組織も同じで、小さいとしか思えないような仕事によって、実は会社全体が維持されているということです。

不安は勇敢さや知性の表れ

ところで、「働く意味がわからない」という気持ちの背後には「不安」があるとも考えられます。不安があるからこそ、働く意味がわからず、このままの状態で働き続けていいものなのだろうかと悩むわけです。

しかし不安は、仕事をするうえで欠かせないもの。『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(森岡 毅 著、ダイヤモンド社)の著者も、次のように記しています。

  • 『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(森岡 毅 著、ダイヤモンド社)

君はきっと"不安"だろう。でも、結論から言えば、君がこれから成長する限り、その不安はずっとなくならない。でも大丈夫だ。その不安には慣れることができるようになるから。そして不安と同居する君は、不安を燃料にしてどんどん強くなっていくだろう。はっきり言うと、不安なのは君が挑戦している証拠だ。(266ページより)

チャレンジによって起こる変化が大きければ大きいほど、不安は大きくなるもの。つまり不安とは、本能を克服して挑戦している自分自身の勇敢さを示す指針だとも考えられるーー。

こう主張する著者はもうひとつ、「不安は未来を予測する知性が高いほどより大きくなる」とも指摘しています。不安であるほど、知性が真摯に機能しているというのです。

最も大切なのは目的の方向に向かって絶えず成長し続けることである。成長することで目的を達成する確率は上がり、諦めない限りいつかはその目的に到達できるだろう。“挑戦しないから失敗しない自分”よりも、“挑戦するから失敗してしまう自分”の方が、圧倒的に強くなれるのだ。(268ページより)

全力でぶつかったとしたら、たとえ敗北して倒れてしまっても、そこからまた立ち上がればいいだけのこと。しかもそのときの自分は、いまよりもずっと強くなっているものだといいます。

事実、大きな失敗をして得られた学びや人脈のおかげで、それ以前には想像もできなかった新しい世界が見えるようになることは多いもの。

だいいち成功しても失敗しても、いまより成長できるのは事実。つまり、なにも大きな損は生じないわけです。そのことを知っていれば、不安に直面したとしてもきっと笑えるようになるはず。

こうした著者の主張は、「働く意味がわからない」という思いを乗り越えるために大きく役立ってくれるのではないかと思います。

まずは動いて、振り返る

さて、最後に一風変わった一冊をご紹介しましょう。落語家の林家木久扇さんによる『イライラしたら豆を買いなさい 人生のトリセツ88のことば』(林家木久扇 著、文春新書)がそれ。

  • 『イライラしたら豆を買いなさい 人生のトリセツ88のことば』(林家木久扇 著、文春新書)

今回のご相談に関係なさそうだと思われるかもしれませんが、ご本人によればその内容は「木久扇流"人生のトリセツ"」。軽妙な文体で生き方、考え方などが明らかにされているだけに、とてもためになるのです。

僕は偉い人間でもないから、名言とか格言なんてのは似合わない。でも、世の中に対する触覚、感応力は鋭いですから、生きていくうえの作戦や戦術はずいぶん工夫してやってきました。立派な武将の兵法みたいなものではなくて、ピンチになるとその場をするするっと抜けていく野性の勘のような技なんです。
(「まえがき」より)

そんな著者は、「仕事術」にも触れています。なんでも、仕事に対してあらかじめ「熟考」することはしないようにしているのだとか。

いちいち意味を探ったり、これはどういうことなんだと考え込んでしまうと、行動力が鈍くなってしまうというのがその理由。「頭は薄っぺらなほうがいいの」というひとことには、薄っぺらどころかずっしりとした重みがあります。

僕の場合は、まず動いて、後からどうだったのかなと振り返る。成功しても失敗してもいいんです。人より先に動くことが大事。(48ページより)

先手を打って行動し、振り向くとあとから時代がついてきたということがよくあったそう。最初に始めるとなんだかんだと悪口をいわれるものの、それでも「そのほうがおもしろい」と思ってやり続けてきたというのです。

すると、気づいたときにはそれが個性として確立されていくことになるということ。

もちろん、ビジネスパーソンの仕事と落語家の仕事は違います。とはいえ、たとえば「まず動いて、後からどうだったのかなと振り返る。成功しても失敗してもいいんです」という部分は、どのような立場、どのような仕事にもあてはまることではないでしょうか?


若いうちは……いや、年齢に関係なく、働く人すべてにいえることかもしれませんが、毎日仕事をしていると、働く意味がわからなくなったりすることもあって当然です。

でも、答えはあとからついてくるもの。だからこそ、まずは目の前の仕事をしっかりとこなすことが大切なのではないかと思います。