皆様こんにちは、マネックス証券の益嶋です。「目指せ黒帯! 益嶋裕の日本株道場」第5回をお届けいたします。本コラムでは、「これから投資を始めたい」「投資を始めてみたけれどなかなかうまくいかない」といった方向けに、投資家としてレベルアップするための色々な知識をお伝えしていきます。今月もまずは最近のマーケット動向を簡単にご紹介します。

前回のコラムで「掉尾の一振(とうびのいっしん)」と呼ばれる「年末は株高になりやすい」というアノマリーがあることをご紹介しました。残念ながら昨年末は株価があまり動かず、掉尾の一振不発…… でした。ところが年が明けてみると、1月4日の大発会(新年最初の取引のこと)は日経平均が741円の大幅上昇で証券マンにはなんとも気持ちのよい年の始まりでした(笑)。そして翌5日も208円高、3連休を挟んだ9日も135円高と3日間の上昇幅は1,000円を超えました。日経平均はついこの前まで23,000円をなかなか超えられなかったのが嘘のように、24,000円を窺う水準まで上昇しています(2018年1月12日現在)。

ではなぜ年が明けてこれほどまでに株価が上昇したのでしょうか? 日本市場がお休みの間に米国株が上昇したというのは理由の1つとして挙げられるのですが、お休み中のダウ平均の上昇幅は100ドル程度ですから年始から日経平均が700円以上上昇する理由としてはなかなか説明がつきません。また、年末も年明けも米ドル円は112円台でしたので、為替レートが円安に動いたわけでもありません。結局なかなか「これだ! 」という明確なご説明はできないのですが、年が明けて投資家の気分も一新し改めて世界景気や日本企業の業績拡大に強気になったといったところでしょうか。我ながらあまり良いご説明ができずすみません……。

銘柄分析は"縦"だけでなく"横"も大切

さてここからは、コラムの本題に入っていきましょう。前回、前々回のコラムで「企業の長期的な業績をチェックする」「企業が発表する業績は累計値なので3ヶ月ごとに分解して分析する」ことが大切だとご紹介しました。これらの手法はある企業に着目してヒストリカルに分析するといういわば"縦"の分析です。"縦"の分析が非常に大切なのはコラムでお伝えしたとおりですが、本日は視点を変えた"横"の分析についてご紹介します。

例えば皆さんが、ある銘柄を分析したところ(1) 過去の業績がしっかりと伸びており(2) 足元の3ヶ月の決算も好調で(3) PERやPBRといった株価指標にも割高感がないことがわかり「チャンスだ! 」と考えたとします。もちろんこういった分析は非常に有効ですし、そのまま投資に踏み切ったとしても悪いとは言えません。ただ、もしできればもう一段の分析をしていただきたいのです。それが"横"の分析です。

では"横"の分析とは何かというと、ある会社を競合他社や同じ業態の会社と比較することです。例えばある会社のPERが8倍だとします。投資の本などを読むと「一般的にPERが10倍を割り込んだら割安」のように書かれていることがあります。それを当てはめるとPER8倍は割安、ということになりますがことはそう単純ではありません。そのPER8倍が本当に割安で投資対象として魅力的なのかどうかは他の会社と比べてみなければわからないのです。以下の図をご覧ください。

  • マネックス銘柄スカウター

    (出所)マネックス銘柄スカウター

これは、私が開発した「マネックス銘柄スカウター」というツールを使ってトヨタ自動車(7203)、日産自動車(7201)、SUBARU(7270)、スズキ(7269)の自動車会社4社について様々な項目を比較したものです。まず、予想PERの欄を見るとトヨタ自動車(11.7倍)、日産自動車(8.5倍)、SUBARU(13.7倍)、スズキ(16.3倍)と4社の中で日産のPERが最も低くなっており、日産が割安に見えます。ただ、続いて「アナリスト評価」の欄をご覧いただくと、日産のレーティングは「3.41」と4社の中で最も低く評価も唯一「中立」となっています。銘柄分析の専門家であるアナリストたちの日産への評価があまり良くないことがわかります。さらに、「業績進捗率」の欄をご覧いただくと日産以外の3社の営業利益の進捗率が50%を上回っているのに対し、日産は44%にとどまっています。これは、今年度の会社の業績計画に対し進捗が思わしくない、ということを意味しています。業績が良くないためアナリストの評価が低く、それがPERの低下の一因になっていることが推測できますね。

このように、日産のPERだけを見ると割安にも思えますが競合他社と比較することで、日産の置かれている状況がわかりやすく見えてきます。"縦"の分析だけでなくこのように"横"の分析をすることでより投資判断の確度を高めることができるのではと筆者は考えています。ぜひ、トライしてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。ではまた次回!

執筆者プロフィール : 益嶋 裕

マネックス証券 マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2008年4月にマネックス証券に入社。2013年からアナリスト業務に従事。2017年8月より現職。現在は「日本株銘柄フォーカス」レポートや日々の国内市況の執筆、各種ウェブコンテンツの作成に携わりながら、オンラインセミナーにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員。
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