知識は豊富なのになぜか相手に伝わらない……一生懸命頑張っているのに全然成績が上がらない……。そんな悩めるビジネスマンのみなさん、「行動心理学」を仕事に取り入れてみませんか? この連載では、仕事に使える8つの理論をマンガで分かりやすくご紹介しながら、名古屋大学大学院情報学研究科・教授の唐沢穣先生に解説していただきます。
メラビアンの法則
第2回は「メラビアンの法則」。やっぱり人は見た目がすべて……?
唐沢先生の解説
ことばを使ったコミュニケーションの能力は、人間がもつ大きな特徴のひとつだと言えます。しかし、ことばを介さない「非言語コミュニケーション」、たとえば姿勢や身振り手振り、視線の方向なども、実は私たちが気づかないほど多くの情報を相手に伝えています。
それはひとつには、目から入ってくる視覚情報、耳からの聴覚情報、そして意味の理解を必要とする言語情報のうち、とくに人間が視覚情報に影響されやすいためなのでしょう。
アメリカのあちこちの高校や大学で授業の様子を録画してきて、各授業とも、わずか10秒ずつ3カット分だけ取り出し、これらの授業を受けていない別の学生に見せて評価してもらったところ、こんな短時間の細切れ画像を見ただけで、実際の授業の質の高さ(あるいは低さ)を、かなり正確に言い当てられたという実験結果があります。
このとき、とくに身振り手振りなどの非言語情報が重要な手がかりになっていたと言います。そのほか、一瞬見ただけの顔が、信用できそうな顔か、うさんくさい顔かというだけで、その後の接し方が大きく変化する、つまりそれくらい顔から得た第一印象が対人関係に影響するというデータもあります。
このマンガに登場する「見た目の情報が55%、話の内容は7%」といった数字が、ビジネス・コミュニケーションの研修などで、よく引き合いに出されるようですが、その元ネタは、おそらくメラビアンというアメリカの心理学者の実験結果でしょう。
これは、たとえば不機嫌そうな顔をした人が「大好き」というセリフを口にしている、といった、矛盾した情報に何回も接する中で、視覚情報、聴覚情報、言語情報のどれが印象を左右するかといった、かなり特殊な実験状況から得られた結果の、拡大解釈のようです。
詳細な数字の正確さはともかく、話の内容そのものよりも、口調や滑舌、見た目やボディーランゲージといった手がかりが、その人の印象を大きく左右するという点では、似ていると言えるかもしれません。
唐沢穣先生プロフィール
名古屋大学大学院情報学研究科心理・認知科学専攻教授。
京都大学文学部心理学専攻を卒業後、カリフォルニア大学ロサンジェルズ校にて大学院博士課程修了。
偏見、ステレオタイプ、善悪の判断などに関わる、人間の思い込みや錯覚を科学的に解明する研究を中心とする社会心理学を専門とする。近著に「責任と法意識の人間科学」(共編著/勁草書房)、「偏見や差別はなぜ起こる? 心理メカニズムの解明と現象の分析」(共編著/ちとせプレス)など。
イラスト=タカハラユウスケ