知識は豊富なのになぜか相手に伝わらない……一生懸命頑張っているのに全然成績が上がらない……。そんな悩めるビジネスマンのみなさん、「行動心理学」を仕事に取り入れてみませんか? この連載では、仕事に使える8つの理論をマンガで分かりやすくご紹介しながら、名古屋大学大学院情報学研究科・教授の唐沢穣先生に解説していただきます。

ドア・イン・ザ・フェイス

第3回は「ドア・イン・ザ・フェイス」。無理な要求を聞いてもらうためのテクニックとは?

  • 無理なお願いを聞いてもらうには? 「断るハードル」を利用したテクニック

    ドア・イン・ザ・フェイス

唐沢先生の解説

大学生のAさんは、親しい友人たちと旅行に行くことになりました。バイトや節約生活で、頑張って旅行資金を貯めたのですが、どうしてもあと2万円ほど足りません。ここは両親におねだりして、助けてもらうしかありません。しかし、いきなり「2万円出してもらえない? 」と頼んでも、母親からはダメと言われるにきまっています。自分がどれほど切り詰めて努力したか結果かといった話をしても、たぶん聞き入れてもらえないでしょう。

そこでAさんが思いついた策とは……?

Aさん「ねえ、友だちと旅行に行くためのお金がどうしても5万円ほど足りないんだけど、助けてもらえないかなぁ」

母「そんなにたくさん、出せるわけないでしょ! 」

Aさん「そうだよね……それなら、2万円、なんとかならない? わたしもいろいろ工夫して、それで足りるよう頑張ってみるから」

母「しょうがないわねえ……でも、これが最後よ。いつもこうはいかないからね」

同じ2万円という金額を引き出すために、いきなりその額をぶつけるのではなく、法外な金額で一度断らせておいてから狙った金額を提示する――これは、「ドア・イン・ザ・フェイス」と呼ばれる説得方法です。

「門前払い」(”Shutting the door in the face”)を承知で、まず難しい要求をしておいて、その後にそれに比べれば簡単そうに見える要求を持ち出すという方法です。ほかにも、門限を延ばしてほしい時には、まず遅めの時間を言ってダメ出しさせておいてから、希望の延長時刻を告げる、といった例が考えられます。

なぜこうしたことが起こるのかについては、いくつかの説明が可能です。たとえば、2回目の提案では相手(提案側)も譲ってきているのだから、自分も歩み寄って「お返し」する必要が感じられるのかもしれません。

あるいは、困っている人の頼みごとを断る際、それがどんな頼みであっても、だれもが多かれ少なかれ「申し訳ないな」という気持ちになるので、2回目でハードルを下げて頼まれた時には、先ほどの後ろめたさを埋め合わせるチャンスだと、解釈されるのかもしれません。

唐沢穣先生プロフィール

名古屋大学大学院情報学研究科心理・認知科学専攻教授。
京都大学文学部心理学専攻を卒業後、カリフォルニア大学ロサンジェルズ校にて大学院博士課程修了。
偏見、ステレオタイプ、善悪の判断などに関わる、人間の思い込みや錯覚を科学的に解明する研究を中心とする社会心理学を専門とする。近著に「責任と法意識の人間科学」(共編著/勁草書房)、「偏見や差別はなぜ起こる? 心理メカニズムの解明と現象の分析」(共編著/ちとせプレス)など。

イラスト=タカハラユウスケ