大物芸能人やスポーツ選手などが逮捕されると多くのマスコミが留置先の警察署に集まり、大々的に報じられます。その間、当人はどんな気持ちでいるのでしょうか。

自分の罪を正直に認めるのか、ファンのイメージを壊したくないとできる限りあらがうのか。様々な葛藤があると思います。「弁護士が来るまで一切話さない。」と黙秘する人もいるようですが、経験したことのないような緊張感の中では、正しい判断の1つかもしれませんね。

さて、今回はこのような状況を前提とした「囚人のジレンマ」という、行動経済学あるいはゲーム理論としてよく知られる事例を紹介したいと思います。

  • 罪を認めるか黙秘するか、どちらが得?(写真:マイナビニュース)

    罪を認めるか黙秘するか、どちらが得?

囚人のジレンマとは?

親友である佐藤さんと2人、ある犯罪容疑で逮捕されたとします。そこで、2人別室で取り調べが行われ、以下のように提言があったとします。あなたも囚人になったつもりで、「自供するかどうか」考えてみてください。

2人とも黙秘を続ければどちらも懲役は1年。ただし、佐藤さんが黙秘を続ける中、あなたが自供すればあなたを無罪にする。その代わり佐藤さんの懲役は10年となる。
一方、あなたが黙秘を続けている間に佐藤さんが自供すれば、当然逆となり、あなたが懲役10年、佐藤さんは無罪。
2人とも自供した場合、どちらも懲役5年となる。

という条件を伝えられました。佐藤さんにも同じ条件を提示したということです。 整理すると以下のようになります。

  • あなたと佐藤さんの条件

    あなたと佐藤さんの条件

そして、あなたは「自分がどうすべきか?」ではなく「佐藤はどうするだろうか?」ということに気持ちが向いていると思います。「佐藤が黙ってくれれば、自分も黙秘し、懲役1年ですむ。でも、佐藤がその間に自供してしまったら、自分だけ懲役10年となる。」

もっとも罪が軽くなる判断は?

そこで、佐藤さんの判断を基準にすると以下のようになります。

  • 佐藤さんが黙秘した場合

    佐藤さんが黙秘した場合

  • 佐藤さんが自供した場合

    佐藤さんが自供した場合

もうお気づきですよね。佐藤さんが黙秘しようが自供しようが、あなたは自供した方が刑罰は軽くなります。佐藤さんが黙秘した場合は1年ではなく無罪に、佐藤さんが自供した場合は10年ではなく5年に。

「よし、合理的に考えれば自供すべきだ。」と考えてしまいそうですが、ここで1つ注意点があります。おそらく、佐藤さんも同じように考えるだろうということです。結果、佐藤さんも自供し、2人とも自供、つまり懲役5年となることが見込まれます。

「無罪・1年・5年・10年」という可能性がある中で、2番目に重い懲役となってしまいました。2人とも黙秘をして懲役1年にするのが、ある意味合理的なのかもしれません。

ただし、黙秘している間に「相手が自供して自分の懲役が10年にならないだろうか?」と、不安と向き合うことになります。相手の性格や相手の気持ちを察し、そして相手を信じられるかどうか? ということになりますね。こうなると確率論や科学的根拠などとは全く異質の話となります。

勘に頼ることも重要?

行動経済学では私たちは合理的に判断することができないことが様々な観点から分析されており、それによる損失や長期的な利益を得る上での弊害などについても指摘されています。ただ、今回の囚人のジレンマは個々が合理的に考えても全体として最適な選択とはならないことを教えてくれました。

時として人間らしく、相手の気持ちなどを考え、"勘"に頼ることも重要なのかもしれません。例えば株式投資においても「アノマリー」という言葉があります。「株は5月に売れ(セル・イン・メイ Sell in May)」など特段根拠はないものの、昔から言い習わしとなっていることを指します。

どの分野でもいえることだと思いますが、様々な理論やフレームワークを学ぶことも大切ですが、時に自分の信念やこだわりを貫いた方が良い結果をもたらすこともありそうです。

いずれにしましても、合理的であれ、非合理的であれ、逮捕され囚人となるような人生にならないよう、襟を正して生きていきたいと改めて感じました。

著者プロフィール: 内山 貴博(うちやま・たかひろ)

内山FP総合事務所
代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)FP上級資格・国際資格。
一級ファイナンシャル・プランニング技能士 FP国家資格。九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻 経営修士課程(MBA)修了。