財産を残す側(被相続人)として、相続トラブルを生じさせないためにできることは、可能な限り争いの種を残さないことだと言えるでしょう。そして、争いの種を残さないためには「遺言」が重要になってきます。

「遺言」によって、相続人全員が争うことなく、円満に相続ができるような財産の分け方を指定してくれていたら、財産を残した側も相続する側も全員が幸せになるのではないでしょうか。

実は、この「遺言」のうち、遺言者が自分で作成する「自筆証書遺言」について、2019年から2020年にかけて大きくルールが改正されます。

そこで今回は、改正法についての情報をまとめ、財産を残した側も相続する側も幸せになれるような遺言の書き方を解説していきます。

自書によらない財産目録の添付が可能に

自筆証書遺言は、改正前の相続法では「遺言全文、日付、氏名を自書しなければならない」と定められていました。

そして、自筆証書遺言を書く際には、相続人が財産を把握するためにも「財産目録」を添付するのが望ましかったのですが、改正前の相続法ではこの「財産目録」についても全て手書きでなければならないと規定されていました。

そのため「財産目録」の書き損じも多く、また、たくさんの文字を書くことになるため財産目録の記載を諦めたり、ひどい場合には遺言自体の作成も諦めたりということが起こりかねないような状況だったのです。

そこで相続法が改正され、2019年1月13日から「財産目録は自書でなくても良い」ということになりました。

具体的には、ワープロで財産目録を作成したり、通帳の写しや全部事項証明書の写しを添付したりすることも可能となりました。

これにより、大変だった財産目録の作成がラクになり、自筆証書遺言がより作成しやすくなったと言えます。

ただ、注意点として「財産目録の各ページには署名・押印が必要であること」は把握しておきましょう。両面印刷の場合には「両面に」署名・押印が必要になりますので、財産目録にも忘れずに署名・押印をしましょう。

法務局での保管制度創設により紛失・改ざんのリスクがなくなる?

自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば遺言者が1人でいつでも作成できてしまう手軽なものである反面、書いた遺言を紛失してしまう可能性や、他人によって改ざん、破棄されてしまうといったリスクもありました。

そのような背景もあり、今回の相続法改正では、被相続人がせっかく作成した自筆証書遺言が発見されない・改ざんされた等の理由によって無駄にならないよう、保管制度が創設されました。具体的には、法務局で保管してもらえるようになります。

保管制度の概要は「遺言者本人が、住所地、本籍地又は所有不動産の所在地を管轄する法務局に行き、保管を申請する」というものです。そして相続発生後、相続人・遺言執行者・受遺者は全国の法務局にて、被相続人の遺言が保管されている法務局はどこなのかを確認でき、当該遺言の画像情報の写しの交付を請求できるようになります。

自筆証書遺言を作成し、法務局に預けておけば、「相続人が遺言書を発見できず自宅を捜索しないといけない」といったことや「勝手に内容を書き換えられる」、「遺言の有無が確認できず遺産分割協議が進まない」などの事態も避けることができるようになるのです。

加えて、自筆証書遺言はこれまで、家庭裁判所にて検認という手続きを経なければならなかったのですが、「法務局に預けておいた自筆証書遺言については検認手続きを経なくても良い」というルール改正もなされることが決まりました。

ただし、この保管制度は2020年7月10日から施行されるものですので、今「自筆証書遺言」を作成した方は、保管についてはもう少し待たなければならないということになります。

遺留分と遺言の関係とは?

ここまで「自筆証書遺言」の書き方について説明をしてきましたが、実は「遺言」を残したとしても、相続人の間で「遺留分」をめぐって争いが生じることがあります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限度の相続分のことを言います。遺留分については、遺言で定められた分け方よりも優先されるため、仮に有効な遺言があったとしても遺留分の請求を妨げることはできません。

したがって、相続人同士の争いが起こらない「遺言」を作成するには、どのような相続人にどのぐらいの遺留分があるのかを事前に理解しておくことがとても重要ということになります。

遺留分の基本的なルールは以下の通りです。

・遺留分権利者(遺留分を請求できる人):配偶者、子(代襲相続人含む)、直系尊属(父母、父母がすでに他界している場合は祖父母)

・遺留分の割合:「被相続人の財産×1/2×法定相続分」
(直系尊属のみが相続人の場合 「被相続人の財産×1/3×法定相続分」)

なお、遺留分は請求しないと認められない権利となっており、その請求できる期間には制限があります。「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間」または「相続開始から10年が経過した日」のいずれか早い日までに請求する必要があるのです(いつ請求したかがわかるように内容証明郵便で請求することが多いです)。

また、遺留分についても、物権的請求から債権的請求になったり、特別受益の参入期間に制限が設けられたりするようになるなど、今回の相続法改正(2019年7月1日施行)でルールが一部変更となります。

まとめ

最後に、自筆証書遺言作成にあたってのポイントを以下にまとめてみましょう。
(1) 紙とボールペンがあれば作成できるので簡単
(2) 相続法の改正により、財産目録を手書きする必要がなくなったり、法務局で預かってくれるようになったりと、活用しやすくなった
(3) 遺留分に注意

これら(1)~(3)をおさえていても内容が不安な方や、絶対に揉めないようにしたいという方は、専門家に相談したり、公証役場にて公正証書遺言を作成したりすることも有効です。

相続法改正をきっかけに、「遺言」という制度について改めて中身を把握し、残された方の遺産分割の負担を少しでも軽減して円満な相続を実現しましょう。


執筆者プロフィール : 弁護士 松村 茉里(まつむら まり)

第二東京弁護士会所属。京都大学法学部卒業。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて、主に相続分野を取り扱う。交渉・調停・遺言作成等幅広い相続案件に従事しており、セミナー活動・執筆活動も行っている。NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員、「家族で話すHAPPY相続」を執筆。事業承継スペシャリストの資格も有する。