35歳以上の結婚・出産が増えています。人生の持ち時間は長くなったけれど、生涯収入の手取りは減少傾向、社会の変化も激しい時代です。常識にとらわれ過ぎないお金との向き合い方を考えます。

乗り越えるべきお金のハードルは3つ

生きている間ずーっと一定の収入があり、日々の生活費にも大きな変化がなければ、お金のやりくりに悩むことはありません。わざわざお金を貯める必要もありませんね。人はなぜ貯めるのか? 貯蓄の目的を聞いたアンケートでは、イザというときのため(失業や病気を指すようです)、と老後資金という回答が上位に入ることが多いものです。

確かに失業して収入が途絶えたら困りますね。雇用保険に入っていれば失業手当をしばらくもらえますが、その間に次の仕事が見つからなかったら、貯蓄を取り崩して生活することになります。60歳や65歳での定年退職後、もう仕事に就かないなら、老後は長期の失業状態と同じです。公的年金などで足りないときは、やはり貯蓄を取り崩して生活することになります。寿命が延びて、引退後の人生が長くなったことから、老後の生活資金が足りるだろうかと心配する人がとても増えています。老後資金は現役時代に貯めておかねばなりません(生きている間は働き続けるという選択肢もありますが、さて、仕事はあるでしょうか?)。

加えて、子どもを持ったら、教育費がかかります。特にまとまったお金がかかるのは、私立高校、大学、専門学校に進学するケースです。

住宅を買うなら、生活費とは別途、お金が必要です。家賃の支払いに代えて住宅ローンを払っていくにしても、購入時にある程度の頭金を入れておかないと、家計運営が不安定になります。住宅を買わない選択をするなら、家賃を払い続けるために、老後資金が多めに必要です。

つまり、老後、教育、住宅は、お金がかかる3大ライフイベントです。

夫婦ともに30歳までに結婚した場合なら、夫婦2人の時期と子どもが幼い時期に住宅の頭金を貯め、子どもが小学校に上がる頃をメドに住宅を買う。そして住宅ローンを返しながら高校・大学・専門学校用の教育資金を貯め、子どもの教育費の支払いを終えてから、老後資金を貯めることができます。住宅、教育、老後の順に、それぞれの助走期間(コツコツ貯める期間)を経てハードルを越えればいいわけです。しかしアラフォー結婚の場合は、この方法は成り立ちません。子どもの教育費のピークと現役引退の時期が重なってくるからです。

教育と老後のハードルはほぼ同時に越える

例えば、妻38歳、夫41歳の夫婦に子どもが生まれると、子ともの大学卒業時(22歳)には、妻60歳、夫63歳です。一浪したり、大学院まで行ったりすると、夫はもう60代半ばです。教育費のピークが過ぎてからでは、老後資金を貯める時間がありません。

アラフォー結婚の場合、教育費と老後資金は並行して貯めていく、また選択する金融商品は、どちらにも使えるものにするべきです。教育費と老後資金で口座や金融商品を分けてもいいけど、ひとつの袋に貯める感覚でかまいません。なぜなら、いくらをどちらに使うかは、その時になって判断することになるからです。

貯める先としては、現在、金利は低いものの元本を確実に貯めていける定期預金での積立は必須。これに加えて個人向け国債の変動10年ものなどが候補となります。個人向け国債の変動10年ものは、半年ごとに金利が変更されますから、預け替えをしなくてもその時々の金利で利子がつきます。ただし複利運用にならないのがデメリット。それでも都市銀行などの定期預金よりは高い金利が期待できます。投資信託を組み込む場合は、全体の中での比率を抑え、信託報酬が安くて値動きの安定したバランス型などを選びます。

第3回でも書いた通り、アラフォー結婚では共働きは当たり前です。2人で協力して順調に貯蓄の総額を増やせれば、教育費と老後資金の準備という2つのハードルをほぼ同時に越えることができるでしょう。しかし、もしも予定通りに行かなかったら、どうしましょうか?

老後資金を優先して、足りない分については、大学や専門学校で奨学金をもらうことを子どもと話し合いましょう。自分たちの老後資金を優先するなんて、冷たい親だと思いますか? 老後資金が足りなくて、将来子どもに頼る方がよほど迷惑です。これからの社会では、若年層の就職や収入の増加は、今よりも厳しくなるでしょう。また現在40歳前後の人たちがもらえる公的年金の額も、今よりは減ることでしょう。教育費に使い切ってしまわずに、老後資金という名目で親の手元にいくらかの資産を持っていた方が様々な場面で役にたちます。金融資産は、いつでも、なんにでも使えるのです。

すべてを奨学金でまかなうのではなく、例えば「入学金と授業料は親が出し、生活費はアルバイトで子どもがまかなう」「入学金と授業料の半分を親が出し、残りは奨学金、生活費は子どものアルバイトでまかなう」といった分担も考えられます。進学の直前にこんな話をしたら、子どもはびっくりして親に見捨てられたと思うかもしれません。子どもとは日頃から家計の話をしておきたいものです。

小学校の5年生以上になれば、社会科で様々なことを学びます。お父さんとお母さんは結婚が遅かったので、その分お金のやりくりに工夫が必要なのだと伝えましょう。子どもの性格や能力についても日頃から把握し、一方的に親の事情を押し付けるのではなく、子どもの気持ちや進学の希望にも耳を傾ける必要があります。コストパフォーマンスの高い教育費のかけ方を親子で模索したいものです。

奨学金という借金を抱えて社会に出るのは大変な重荷です。このことを肝に銘じ、なるべくそうならないように、早めに工夫していくことですね。しかし、どうしようもないときは、進学のために整えられた制度を活用して、より納得のいく職業に就けるようしっかり勉強する。職業が細分化され、専門的な技能や知識が必要な時代ですから、高等教育機関で学ぶことは、きっと子どもの将来に役立つはずです。

貯め上手な人から、なかなかお金が貯まらない人まで、たくさんの人を取材しましたが、お金をしっかり貯めている人の中には、奨学金を借りていた人が実はけっこう多いのです。「学生時代、みんなが楽しそうに遊んでいるときには節約し、社会人になったばかりでまだ給料が少ない中から返済するのは大変でした。1日も早く返して、お金を貯めたいと思っていました。2度と借金はしたくない」と、たいていの人は語ります。

また、奨学金ではなく親のお金を子どもに貸し付けて、社会人になったら毎月一定額を返済させる親もいます。「親子だからといって、なあなあで許してくれる性格の親ではないことがわかっていたから、必死で返しました。借用書ももちろん書かされましたよ。うちは姉も私もそうでした。利子が付かない分、外で借りるよりも得だと言われて…」。こういう親なら、子どもは、おのずとしっかりします。

奨学金や借金で気を付けたいことは、借りている状態が当たり前で、いつも返しているという状態にならないようにすることです。

住宅のハードルは、教育、老後を考慮して位置をずらす

子どもが誕生した時点で教育費がもっともかかる時期はわかります。子どもが16歳から22歳までです。親のリタイア時期もほぼ決まっています。勤務先にもよりますが、現在の雇用制度では60歳から65歳です。アラフォー結婚で子どもを授かったら、子どもが16歳から22歳の時期に親がいくつになっているかを即座に確認する必要があります。

そして、さっそく教育費と老後資金の準備を始めます。住宅を買いたいなら、どの時期がいいかを慎重に検討しましょう。教育費と老後資金を考慮せずに、行き当たりばったりで住宅を買い、その際に頭金として貯蓄を使ってしまうと、後で困ったことになります。

子どもの教育のメドが立ってから、老後の生活を見据えて住宅を買う方法は、アラフォー結婚には有力な選択肢です。教育資金と老後資金は、必要な時期を自分の判断でずらすことは難しいけれど、住宅資金については、いつ買うか、買うか借りるかは、まさに自分たちの判断です。

今後20年から30年の生活と、それにかかる費用をシミュレーションし、しっかり準備してください。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。