稟議書とは、取引先との契約締結や物品購入などにおいて、会社から承認を得るための書類。起案書とか決裁書といった呼び方をしている会社もあります。
この稟議書、会社の規模や、所属する部署や立場によって、頻繁に書く人、まったく書く機会がない人と差があるうえ、取り立てて書き方を教えてもらえることも少なく、我流になりがち。なかなか稟議が通らず、じれったい思いや悔しい思いをしている人も少なくないでしょう。
そこで、ビジネススキル研修事業の責任者である、リクルートマネジメントソリューションズの河野洋士(こうの・ひろし)氏の監修の下、稟議書の書き方のコツやポイントについて解説していただきました。
駄目な稟議書のポイント
不確実性の高い世の中である現在、事業の実行スピードが、競争を勝ち抜くための要です。稟議書の起案から決済までの流れがよりスムーズに、そしてスピーディーになれば、結果、事業の実行スピードも上がっていきます。
つまり、社員一人ひとりが良い稟議書を書けるか否かは、事業の成否を分けることにもつながっているのです。では、良い稟議書とはどういうものなのでしょうか。それを知るために、駄目な稟議書のポイントを挙げてみましょう。具体的には大きく3つあります。
(1)必要な項目が書かれていない
(2)決裁者の立場に立って書かれていない
(3)文章表現がおかしい
このように、読み手に、時間的、精神的負担をかけてしまうものが、駄目な稟議書です。中でも、2つめの「決裁者の立場に立って書かれていない」が、稟議が保留されたり却下されたりする大半の理由。具体的には、稟議内容の前提や背景など、経緯の説明が不足していることが多いということです。
通常、稟議書は社内の複数の人=決裁者がチェックし、その全てから承認をもらう必要があります。しかし、それらすべての人が、あなたのことやあなたの仕事の状況についてよく知っているとは限りません。
あなたが承認してもらいたいことについて、その前提や背景などの説明をすることなくわかってもらえるのは直属の課長くらいまで。部長やそれ以上の役職の人には、経緯の説明なしでは内容は伝わりません。そうした場合に、否認されることはなかったとしても、「これってどういうこと?」と手戻りが起こってしまいます。
稟議書を早く通すコツ
そもそも稟議書は、会議の代わりに行う承認プロセス。遅延や保留が起こってしまっては、元も子もありません。できるだけ効率的に、効果的に通すことが重要です。
それには、赤の他人でもわかるように丁寧に書くこと。現場の事情が分かっていない決裁者が承認するために必要な情報は何かを考え、きちんと伝えること。稟議内容の前提、背景、理由、目的などを、明確に記すことが大切なのです。
また、決裁者の特徴を知ることも大事。「この人は過去にこういう質問をした」「こういうところが気になる人」ということを想定すること。そうした情報を現場の中で積み上げておくことも、稟議を早く通すポイントです。
稟議書は、決裁者の立場に立って、抜け・漏れがないよう網羅的に書く。と同時に、ダラダラと長く説明をする文章ではなく、必要なことを簡潔に書く。それが、多くの稟議書を日々決裁する上司にとっての望ましいスタイルであり、「稟議書を早く」「確実に通す」秘訣です。
稟議書は、ビジネス文書の中でも重要な書類の1つ。正しい書き方、上手な書き方のノウハウは、社会人なら誰もが知っておきたい、身に付けておきたいスキルです。逆にいえば、スキルなので誰でも磨くことができます。
会社に伝えたいこと、届けたいこと、承認してほしいことがあるのに、スキルがないために否認されたり、書類の良し悪しで「やる気がないのではないか」と思われたりするのはもったいない。ぜひとも、スキルを身に付けるための努力をすることをおすすめします。
監修者
河野洋士(こうの・ひろし)
リクルートマネジメントソリューションズ
事業開発部 スキルデザイングループ
マネジャー
米国ビジネススクールにて経営学修士(MBA)を取得。卒業後、大手経営コンサルティング会社を経てリクルートマネジメントソリューションズに入社。営業担当として数々の営業表彰をうけ、そのかたわら、「営業モデルの構築」や「中途入社者の育成モデルの構築」などをプロジェクトとして経験し、大きな成果をあげる。2014年、東日本支社長に就任。2016年4月より現職。