6月の衝撃の出会いから2カ月、7~8月の「八戸三社大祭」に再び青森・八戸を訪れた。ユネスコ認定された八戸三社大祭を見て満足した著者に、祭りを紹介してくれた小笠原修会長(八戸三社大祭山車祭行事保存会会長と八戸山車振興会会長を兼務)から、衝撃の「祭りはこれだけじゃない」の一言。奥深い日本の伝統文化を知ることになる。

  • 「加賀美流 騎馬打毬」は真剣勝負、だけが見所ではない

    「加賀美流 騎馬打毬」は真剣勝負、だけが見所ではない

ルールは簡単! 弾を奪い合う

「八戸三社大祭」で見た絢爛豪華な山車とは違う、古式ゆかしい祭りが今なお、八戸には根付いていた。毎年8月2日に長者山新羅神社にて開催される「加賀美流 騎馬打毬」という祭りで、八戸藩8代藩主・南部信真が文政10(1827)年に馬術のひとつとして始めたのが始まりだ。現在で言うと、ポロのような競技である。

  • 紅白のチーム制の勝負。ルールは球を自陣に入れるというシンプルなもの

    紅白のチーム制の勝負。ルールは球を自陣に入れるというシンプルなもの

馬に乗った武将姿の若者たちが紅白のチームに分かれ、ルールは球を自陣に入れるというシンプルなもの。自分のチームカラーの球を自陣に入れるためなら、相手の球を隠したり遠くに投げたり、また、妨害もオーケー。草や馬糞の下に隠すような、思わずクスリと笑ってしまうようなシーンもあれば、激しく馬と馬がぶつかり合うようなシーンも見られる。

  • 馬に乗った武将以外にも歴史を感じさせる衣装に身を包んだ人々が

    馬に乗った武将以外にも歴史を感じさせる衣装に身を包んだ人々が

神社にできたすり鉢状の競技場には、自然と階段のような場所ができている。昔から村人がここに座り、競技を楽しんでいたんだろうな~と、想像するにたやすい。現在この騎馬打毬が見られるのは、宮内庁と八戸、山形の3カ所だけという貴重な祭りにも関わらず、全く宣伝がされていないのか地元の人しかおらず、時間ギリギリに行ってもとってもいい場所から見ることができた。もったいない話である。

  • 弾を自陣に入れるためにあらゆる手を尽くす

    弾を自陣に入れるためにあらゆる手を尽くす

地元民の食堂であったか惣菜をあれもこれも

競技が終わる絶妙な時間に。小笠原会長が迎えに来てくれた。

小笠原会長: 「どう? すごいでしょ? これも」

著者: 「すごいです! 歴史を感じました。東京で知ってる人なんてほとんどいないと思います」

小笠原会長: 「うんうん、食べながらそれ話そうか? 何食べたい? お刺身食べに行こうか?」

  • 小笠原修さん(八戸三社大祭山車祭行事保存会会長と八戸山車振興会会長を兼務)に、またオススメのグルメを案内してもらう

    小笠原修さん(八戸三社大祭山車祭行事保存会会長と八戸山車振興会会長を兼務)に、またオススメのグルメを案内してもらう

著者: 「お刺身は昨日たらふくいただいたので、もっと町の人が日常的に食べている、食堂みたいな観光客が絶対来ないような店に行きたいです」

小笠原会長: 「え~いいの? 若い娘さんたちが行くようなきれいな場所じゃないよ?」

著者: 「若くないし、"きたなシュラン"大好物ですから(笑)」

小笠原会長: 「本当? 大丈夫かなぁ」

  • 「地元の人が普段使いするお店」というお願いで紹介してもらったのが「宝来食堂」

    「地元の人が普段使いするお店」というお願いで紹介してもらったのが「宝来食堂」

と、連れて行ってくれたお店がここ、「宝来食堂」だ。「………」絶句して立ちすくしている筆者に会長が「大丈夫?」と、一言。「大丈夫も何も最高です! これですよ。会長! ナイスジョブです」。がっちり握手した。

  • 4卓あるテーブル席は基本相席。次から次へと人が来るので、地元民同士譲り合って座っている

    4卓あるテーブル席は基本相席。次から次へと人が来るので、地元民同士譲り合って座っている

お昼には作り置きのお惣菜がカウンターに並び、お客さんが「これちょうだい」と言ったものを手際よく皿にもって出してくれ、「これでいくらだよ」と、言われる。一皿数十円代からあるので、1,000円も頼むと食べきれないほどのお惣菜を食べることができる。

  • おいしそうなお惣菜は一皿数十円代から

    おいしそうなお惣菜は一皿数十円代から

  • ジューシーなお稲荷さんも含め、5皿で350円。本当に激安である

    ジューシーなお稲荷さんも含め、5皿で350円。本当に激安である

優しい気持ちになれるラーメン1杯200円

そして、宝来食堂で人気ナンバーワンなのはこのラーメン。なんと一杯200円。「お母さん、これ原価じゃないの?」と、驚くほどちゃんと具も載っていて、鶏ガラ、昆布、煮干し、野菜を3時間煮出して作った出汁もおいしかった。麺は柔らかめの細麺。あっさりした魚介系の醤油ベールなので、お年寄りでもしつこくなくいただける。

  • この完成度でなんと200円!

    この完成度でなんと200円!

昼はおなかいっぱいになりたい学生さんが、夜は飲んだ〆をここで食べに来る男性客が後を絶たない。夜遅くまで開いているこのお店は、八戸市民のホームグラウンドだ。

ちなみにここは、14時から居酒屋タイムに変わる。お惣菜だった料理はおつまみとして扱われ、同じ並びに日本酒と焼酎の瓶が並べられる。客は勝手によそって自己申告制。日本酒は一杯200円、焼酎は一杯150円。

平均来客数100人、平均予算300円、日の売り上げ3万円のお店が、40年もどうしてこの価格でやってこれたのだろうと不思議でならなかったが、店主板橋さんの「安くておいしいご飯をおなかいっぱい食べてもらいたい」という志を聞いて納得。原価を下げるために業者を使わず、買い出しも自分で行っているんだそうだ。

  • 「一枚撮らせてください」と言うと、照れながらも笑顔を浮かべてくれたこの方も、お店の常連さん

    「一枚撮らせてください」と言うと、照れながらも笑顔を浮かべてくれたこの方も、お店の常連さん

お店の常連さんたちは自分でよそったり、片付けたり、食器を運ぶ姿がよく見られた。人件費を常連客がまかなう。板橋さんの心意気に感動したお客さんが従業員となって働いてくれていて、このお店が成り立っていることを知って、本当に心が温まる思いだった。

●information
宝来食堂
住所: 青森県八戸市廿六日町40
アクセス: JR八戸線「本八戸駅」から徒歩10分
営業時間: 11:30~
定休日: 不定休

著者: 「会長、今回もありがとうございました。とってもおいしく楽しい時間が過ごせました。祭りのことも知れたし、たくさんの人たちに会えて本当に楽しかったです」

小笠原会長: 「や、それなんだけどさ。まだ見てないんだよね。全部を」

著者: 「え? 騎馬打毬も撮影しましたよ?」

小笠原会長: 「いやいやいやいや。さっき田遊びの話してたでしょ」

著者: 「あ、日本中で廃れていく……」

小笠原会長: 「そうそう、その田遊びがね~2月にあるんだよ。『えんぶり』っていうの」

著者: 「……会長もしかして……」

小笠原会長: 「2月もおいでよ。蟹がおいしくなってるよ」

著者: 「行きます!」

※記事中の情報は2017年8月取材時のもの
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