自己啓発(自己投資)にがんばって取り組んでいると「意識高いですね(笑)」などと揶揄されることがしばしばあります。でも、自己啓発はそれほど「バカにされるようなこと」なのでしょうか。

仕事の成果や成長は結果(出力)です。そしてその結果は、いつだって必ずプロセス(入力)から生まれます。正しいプロセスを踏んでいれば(正しい努力を続けていれば)、成果が出るまでの時間は人によって違うものの、結果に結びつかないはずはないのです。

僕の周りの「一流の職業人」や「第一人者」たちは、例外なく勉強家で努力家です。自己啓発をバカにする成功者はいません。ぜひ自信を持って全力で自己啓発してください。

  • 自己啓発は全力で行うべき

この世で最もリターンが大きい投資先は「自分自身」

「未来への投資」として、株式や投資信託に取り組む人がいますが、僕個人は「この世で最も投資リターンが大きい投資先は“自分自身”」だと思っています。

例えば、「将来が不安だから、毎月3万円を貯金する」としましょう。1年で36万円、10年で360万円。銀行に預ければ(ゼロ金利なので)10年後もほぼ360万円のまま。投資信託を活用し、年3%の複利で運用すれば、10年で1.16倍の419.2万円になります。10年で「360万円の貯蓄」と「59.2万円の儲け」です。

一方、毎月3万円分の本を読み、仕事に活かすことで年に3%の昇給をしたらどうでしょうか。仮に年収400万円からスタートし、それ以外の昇給がないとしたら、昇給した10年間ののべ(合算)金額は724万円です。

投資信託をしていた人の同じ条件下での年収は、10年後も400万円のままですが、こちらの場合は10年間で360万円の自己啓発費を投じ、724万円のリターンを得た(生涯所得を上げた)計算です(投資収益率は2倍)。

ここで最も重要な論点は2つあります。

1つ目は、この10年で得たリターンは「お給料」としての「お金」だけでなく、そのお給料を生み出す知識習得とそこから生まれる職務遂行能力を「資産」として形成している点。

2つ目は、投資信託と同様、知識や職務遂行能力も複利で効くことです。複利とは利子に利子がつくことです。新たに加わった知識やそれに関連する経験に利子がつき、その利子にまた利子がつくのです。これが複利の効果です。

では、読書などの自己啓発に使う費用は、どれくらいが適切なのでしょうか? 目安などありませんから、生活が持続可能で、なおかつ使う先が「怪しい情報商材」でなければ、若いうちは限界まで使ってしまって良いと思います。

1つの尺度としては、手取り給与の5分の1です。僕の持つ投資リターンのイメージは、20代のうちから月に5万円(年に60万円)、50代まで40年続けて総額2,400万円を自己啓発投資し、生涯所得を1.5倍(3億円→4.5億円)にするプランです(投資リターンは6倍です)。

自分を育てる最強の自己啓発は「読書」

では、何に投資をすれば良いのか? ずばり本です。本ほど効率的に知を学ぶ方法は、この世にありません。そして、読書よりもコストパフォーマンスが高い方法もありません。

たった2,000円前後で、先人が積み重ねた知識、知恵、経験を極限まで抽象化し、最高レベルで整理整頓してくれている情報パッケージはこの世に存在しません。

たまに「評判が良いから買ってみたけれど、期待はずれだった」という声を聞きますが、本というものは、たったの1行でも琴線に触れることがあれば、それで十分元はとれているのです。その「たったの1行」が、あなたの小さな意識を変え、行動を変え、いずれ人生に影響を与えるのです。

では、どのくらいの冊数を読めば良いのでしょうか? 大富豪を含む富裕層と年収300万円以下のビジネスパーソンの読書量を調べたアメリカの研究データ「Business Management Degree」によれば、富裕層の88%が1日に30分以上の読書をしているのに対し、年収300万円以下の層はたったの2%しか存在していません。

さらに日本のビジネスパーソンの読書量は、20~30代の平均が1カ月に0.26冊(4ケ月で1冊、年換算で3冊)なのに対し、30代で年収3,000万円を稼ぐ層は1ケ月9.88冊(年換算で約120冊)と、38倍もの開きがあります。

僕は20代の頃、年間100万円分の本を読んでいました。もちろん自腹です。1冊1,800円とすると、年間で約500冊。月に40冊購入することになります。

とはいえ、激務をこなしながら、しかも人一倍遊びながら、月に40冊の本を読むことは現実的には不可能です。だから、精読することを目的とせず、1冊の本をできる限り高速で吸収することを目的とする読み方になります。

まえがきを読み、著者の略歴を読み、あとがきを読み、目次を熟読する。「この本にはこんなことが書いてあるんだな」と全体を概観したうえで、まずは1回、最後までざーっと目を通す。そこから、気になったところをある程度しっかり読んでいく。

この年間100万円読書を4~5年続けた結果、見える景色が変化しました。クライアント先で、同じ担当者から、同じ話を聞いても、キャッチできる情報が格段に増加しました。アンテナが大きく、鋭敏になったのです。

また、街を歩いていても、以前は見えなかったものが見えてきます。いろいろな背景や思惑が読み取れるようになりました。知らないことは見ていても見えていなかったのです。それによって、アウトプットの量、質、スピードは何十倍にも上がったと思います。今の自分があるのは、あの頃の圧倒的なインプットのおかげです。

セミナーは本を5冊以上読んでから参加する

「読書よりもセミナーのほうが好き」と言う人がいますが、セミナーは受動的です。PC やスマホをネットにつなげて、あとは聞いているだけで良い。一方の読書は、自分で読み、解釈していかなければならない。

本書で再三にわたってお話ししてきましたが、「ラクな道」は大きな成果につながりません。新しいことを「頭に入れる」ためには、一定量のストレスがかかります。自ら考え、解釈するプロセスが必要なのです。

もう1つ、セミナーの弊害があります。それは、オンライン化の進展によって「ながら視聴」ができるようになったことです。耳だけセミナーを聴講し、目はPC 画面で仕事をしている。マルチタスクというやつです。

セミナーは、まずは自分で5~10冊の本を読んだあとに聴講するようにしましょう。ストレスのかかる読書によって体系的な知識を頭に詰め込み、消化不良を起こしているときにセミナーでそれらの知識を「つなげる」のです。これがセミナーの賢い利用法です。

著者プロフィール:池田紀行(いけだ・のりゆき)

株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長。300社を超える大手企業の広告宣伝・PR・マーケティング部に対するデジタルマーケティングやソーシャルメディアマーケティングの支援実績を持つ。『自分を育てる「働き方」ノート』(WAVE出版)など著書多数。