前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

チーを僕の実家に連れて行くことになった。といっても、両親に結婚の報告をするためではなく、ただ単純に僕の故郷である大阪旅行を楽しもうというわけだ。

前回、確かに僕らは結婚をなんとなく誓い合った。しかし、まだ具体的な段階ではなく、日取りに至っては「いつか時期が来たら」といった曖昧な口約束だ。だからして、その大阪旅行に関しても代金を節約するために僕の実家を宿泊場所に選んだだけであり、両親には事前に「今度の連休に彼女を連れて帰るけど、ただ大阪で遊ぶだけで深い意味はないからね」と釘を刺しておいた。

というわけで、ある連休の初日、僕とチーはいざ大阪へ。もちろん愛犬のポンポン丸くんも伴って、昼すぎ頃に家を出た。ちなみに僕らにとって付き合ってはじめての旅行である。僕の中で大阪はただの故郷であり、旅行先でもなんでもないのだが、それでもチーと数日間ずっと一緒というのは今回がはじめてだ。

かくして、僕らは家を出た直後から異様なテンションだった。駅までの道中、チーはなぜか鼻歌まじり。一方の僕も足取りがいつもより軽やかで、ついついスキップなんぞをしたくなる。ポンポンもポンポンで、どういうわけ道中のマーキング回数が急増。東京を離れることをなんとなく察知し、自分の臭いを残そうとしているのか、それとも単に興奮していただけなのか。いずれにせよ、みんな浮かれていたのだ。

ところが駅に着いた途端、僕とチーはいきなり喧嘩してしまった。

きっかけはほんの些細なことで、電車を待っている間、僕がチーに「少し家を出る時間が遅れちゃったね。今度から予定の時間をちゃんと守ろう」と言ったからだ。

その瞬間、チーの下唇が豪快にめくれた。

「なにそれ!? わたしの準備が遅いって言いたいの? そんなの自分が一番わかってるんだから、なんでわざわざ水を差すようなこと言うのよ!!」

「いやいや、誰もそんなこと言ってないよ。ただ単純に"今度から遅れないようにしよう"って言っているだけじゃん」

「ああ、なんか酷く責められてる気がするっ」チーはそう言って、頭を抱えた。「タカちゃん(そう呼ばれてます……)に色々言われると、上から目線で責められてる気がしちゃうんだよね。七つも年下だからって馬鹿にしてるんでしょ!?」

「なんでそうなるんだよ!」僕は思わず声を荒らげた。「誰もチーを責めてないじゃん! 俺は遅れないようにって言っただけで、年下と年上とか関係ないだろ!!」

しかし、この言葉が余計にチーの怒りに火をつけた。

「駅で大声出さないでよ! 恥ずかしい!!」

「いや、しょうがないじゃん! 大声出したくもなるだろ!!」

「うるさいっ。恥ずかしいから黙ってて! 無駄にでかい声なんだから!!」

「な――っ」思わず息が詰まりそうになった。返す言葉が見つからない。いつのまにか、口論のポイントが「家を出る時間が遅れた」という点から「僕の声が大きい」という点に見事にすりかわっており、そこに僕はかなりの違和感を覚えたものの、だからといってそれを冷静に指摘しても無駄な気がする。おそらく今度は「また上から目線で責められている気がする。七つも年下だからって馬鹿にしてるんでしょ!」とチーに返され、同じループがぐるぐると続いていきそうな予感がするのだ。

その結果、僕らはどうなったかというと、新幹線に乗るまでずっと無言の状態になった。重い空気が二人の間に充満し、はじめての旅行の楽しさなんか微塵もなくなってしまった。正直、僕の気分は最悪だ。どうしても自分が悪いとは思えないため、素直に謝る気にもなれない。けど、このまま重い空気が続く旅行なんてまっぴらごめんだ。そう考えると、ここは年上の僕がグッと我慢して謝るべきなんだろう。

果たして、新幹線の中で僕はチーに謝罪した。

「大きな声を出してごめんなさい」

すると、チーは小さく息を吐き、ようやく頬を少し緩めてくれた。

「ほんとだよ。次から気をつけてね」

「はい……」なんだか釈然としないが、ここは堪えるしかないだろう。せっかくの旅行が台無しになるよりかはましである。僕は腹の中の憤りを必死で抑えた。

しかし、それからわずか数分後、僕は一転してすっかり上機嫌になっていた。

「このササミチーズカツ、うまいなあ!」チーが作ってくれた弁当が美味しかったからだ。我ながら単純な男である。

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