北海道電力の京極発電所(北海道京極町)のトンネルで約1年間熟成させた日本酒とジンが、10月20日に発売された。温度や湿度が安定した発電所のトンネルで熟成すると、酒の味わいはどう変わるのか。10月14日に開かれた試飲会で、熟成前後を飲み比べた。
なぜ発電所のトンネルで酒を熟成?
このプロジェクトは、北海道電力が水力発電所の設備を活用して酒を熟成する実証事業として、2024年に始めたもの。熟成の場となるのは、北海道京極町にある、京極発電所の水圧管路管理トンネルだ。
このトンネルは遮光性が高く、温度・湿度も年間を通じて安定しているのが特徴だ。
2025年は上川大雪酒造の日本酒を搬出しており、今回が2回目の搬出となる。2025年9月にトンネルへ運び込んだ3種類を造ったのは、二世古酒造と積丹スピリットの2社。北海道電力の事業共創推進室長の逢坂美保氏によれば、以前から付き合いのある両社に取り組みを紹介し、参加が決まったという。
二世古酒造は、倶知安町で日本酒を醸す家族経営の酒蔵だ。北海道の地酒の魅力を知ってもらおうと、使用する米は道産米を100%使用。酒米の作付面積の拡大や、羊蹄山麓の近隣農家の米の活用にも取り組んでいる。
今回熟成させたのは、精米歩合35%の純米大吟醸原酒と、アルコール度数19度の本醸造原酒。二世古酒造 蔵元杜氏の水口渉氏は、「純米大吟醸は甘みが増し、熟成香が加わって味の幅が広がりました。一方、磨きの少ない本醸造は変化がより分かりやすく、度数を感じさせない口当たりになりました」と話した。
積丹スピリットは、積丹に自社農場を持ち、数十種類のボタニカルを育ててクラフトジンを製造している。フレッシュな原料を贅沢に使うのが同社の最大の特徴だ。
今回熟成させたのは同社のクラフトジンの代表作「火の帆」だ。熟成後のものは「KIBOU Tatae」と名付けられた。ジンは一般的に熟成を行う酒ではないため、プロジェクトに参加した当初は、本当に味が変わるのか、半信半疑だったという。
「ところが飲んでみると、もともとリッチなテイストがよりふくよかになり、ワインが熟成するように味が増幅されていました。とても意外な結果でした」(中村氏)
日本酒はまろやかに、ジンはふくよかに - 熟成前後を飲み比べ
熟成によって、日本酒とジンの味わいはどのように変わったのか。筆者も、熟成前と熟成後を飲み比べ、1年間の変化を確かめた。
まずは日本酒から。純米大吟醸原酒は熟成後の方が甘みが強くなっており、角が取れ、飲みやすさも増していた。本醸造原酒は、大吟醸よりガツンとした力強さがあり、熟成前はかなり刺激的な印象だったが、熟成後はやはり角が取れ、旨みが増していた。また、どこか、焼酎のような味わいも感じられた。
どちらも原酒のため、水口氏いわく、少量ずつゆっくり飲んで味わってほしいとのこと。純米大吟醸は冷やでいただき、温度が上がるにつれて変化する味わいを楽しむのもおすすめとのことだった。本醸造は冷やしても、ぬる燗でも楽しめるそうだ。
続いて、ジンを試飲した。「火の帆」のキーフレーバーはアカエゾマツの新芽で、熟成前はトップノートにその柑橘の香りが立っていた。ジュニパーベリーも合わさり、ジンらしい香りだった。
熟成後の「KIBOU Tatae」もその香りは感じられたが、口当たりが柔らかくなり、余韻にも違いが出ていた。熟成前はシャープでドライな印象だが、熟成後はアロマが膨らむような余韻となっていた。
発電所の新たな活用法に、北海道電力が期待
発電だけでなく、酒の熟成場所や観光資源としての活用など、さまざまな価値を生む可能性を持っている水力発電。北海道電力は、地域の資源と掛け合わせて、新しい価値を北海道に生み出していきたいと考えているという。
「今回のプロジェクトを通じて、エネルギーとは異なる視点で見たときの、発電所の価値にも気づいてほしい」と逢坂氏は話す。「数に限りはありますが、日本酒やジンがもともと好きな人のほか、これらに初めて出会う人や、普段あまりお酒を飲まない人、北海道外の人にも飲んでほしいですね」と、期待を寄せた。
熟成酒は10月16日から札幌市内の百貨店で先行販売され、10月20日からは二世古酒造、積丹スピリットの店舗などで一般販売が始まっている。10月下旬には、北海道電力のECサイト「きらめくストア」でも販売を開始する予定だ。
発電所のトンネルで1年、静かに眠っていた日本酒とジン。そのふくよかな味わいを、ぜひ確かめてほしい。
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。





