秋の味覚の代表格・サンマは、近年、全国的に不漁が続いている。2026年も9月末時点では水揚げが振るわないなか、10月11日、東京都目黒区で「第29回目黒のさんま祭」が開催された。この会場で振る舞われたのは、実はすべて宮城県気仙沼産のサンマ。焼き手も気仙沼から駆けつけた人々が務めている。

  • 10月11日に開催された『第50回 目黒区民まつり』には、焼きサンマをを目当てに多くの人々が来場した

    10月11日に開催された『第50回 目黒区民まつり』には、焼きサンマをを目当てに多くの人々が来場した

「サンマは目黒に限る!」から始まった目黒と気仙沼の交流

目黒でサンマといえば、有名なのが古典落語『目黒のさんま』。そこで「目黒区の人たちに美味しいサンマを食べてほしい!」という想いから、気仙沼市が目黒区と協力して始めたのが、目黒のさんま祭だ。1996年に第1回が開催され、コロナ禍での一時中断を挟みつつも、今年で30周年の人気イベントである。

  • 目黒区民まつりのロゴは上下にサンマがあしらわれている

    目黒区民まつりのロゴは上下にサンマがあしらわれている

  • 会場近く、目黒川沿いの遊歩道に並ぶのぼり

    会場近く、目黒川沿いの遊歩道に並ぶのぼり

この祭をきっかけとして、目黒区と気仙沼市は2001年、災害時の相互援助協定を締結。さらに2010年には友好都市協定を結んだ。こうした繋がりが最も強く活かされたのが、2011年3月の東日本大震災だ。

震災後、目黒区は気仙沼市へ義援金などを送るほか、気仙沼市の被災者を区民住宅(応急仮設住宅)へ避難させるなど、気仙沼市への支援を実施。気仙沼市から目黒区へ感謝を伝える「気仙沼からありがとう祭り」も毎年3月頃に開催されている。現在でもイベントを通じ、目黒区と気仙沼市は深い交流関係にあるのだ。

東京都心部に響いた気仙沼の漁師歌

目黒区民まつりの会場・田道広場公園では、朝9時前から慌ただしく準備が進められていた。中でも広い面積を占めるさんま祭のコーナーでは、「気仙沼」と大きく描かれたテントのもと、横一列にズラリと並んだ焼き台が圧巻だ。

  • 開場前のテント前。焼き台で燃料となる炭のセッティング中

    開場前のテント前。焼き台で燃料となる炭のセッティング中

9時から行われた開会式では、目黒区立大鳥中学校の生徒による挨拶に続き、目黒区長や気仙沼市長などが登壇。「献上式」では登壇者が焼きたてのサンマを試食し、気仙沼市のPRキャラクター・ホヤぼーやも登場した。

  • 気仙沼市のホヤぼーや(右)と、さんま祭にカボスを提供している大分県のゆるキャラ「カボたん」(左)

    気仙沼市のホヤぼーや(右)と、さんま祭にカボスを提供している大分県のゆるキャラ「カボたん」(左)

続いて気仙沼市のテント前で行われたのは、大漁を祝う三陸地方の『どや節』。威勢の良い掛け声に手拍子を添えて、気仙沼の人々が勇壮な民謡を歌う様子には、漁師町の気概がみなぎっていた。

  • どや節を熱唱する気仙沼市の方々

    どや節を熱唱する気仙沼市の方々

  • 気仙沼「焼職人」の男性

    気仙沼「焼職人」の男性

晴天のもとで香ばしく色づくサンマ

例年は生サンマを提供することにこだわっているが、今年は漁模様や台風の影響で直前の水揚げが見込めず、気仙沼産の冷凍サンマを解凍して使用した。気仙沼市の担当者によると、祭りの直前まで生サンマの確保を模索していたという。

  • テント下でスタンバイ中の解凍サンマ

    テント下でスタンバイ中の解凍サンマ

  • 大量のサンマを横長の焼き台で一斉に焼き上げていく

    大量のサンマを横長の焼き台で一斉に焼き上げていく

午前10時の開場を前に、気仙沼テント前の焼き台に大量のサンマが載せられ、炭火で次々と焼かれていく。銀色の皮が茶色く色づき、香ばしい煙が立ち上る様は、何とも食欲をそそる。イベント当日は秋のジメジメ天気を過ぎて、久しぶりの晴れ間。気温も上がるなか、焼き台の前は一層もうもうと熱気に包まれていた。

  • 開場直前には芳醇な煙も立ち込め、サンマも食べ頃に

    開場直前には芳醇な煙も立ち込め、サンマも食べ頃に

倍率10倍! 来場者もサンマに感激

午前10時の一般開場と同時に、焼きサンマの引換券を手にした多くの来場客が押し寄せた。今年は引換券発行2,500枚に対して、応募数は実に10倍もの約25,000件。高倍率をくぐり抜けた人々が、秋の味覚へ期待を膨らませ、気仙沼の人々ともサンマのことで楽しく語らっていた。

  •  混雑を避けるため時間指定制だったが、それでも多くの客がひしめいていた

     混雑を避けるため時間指定制だったが、それでも多くの客がひしめいていた

  • 焼き台からの熱気で空気が歪むなか、次から次へと焼きサンマが手渡されていく

    焼き台からの熱気で空気が歪むなか、次から次へと焼きサンマが手渡されていく

サンマを受け取った人々は、横のテントで大分県臼杵市特産のカボスを受け取り、食事席へ。サンマの美味しさに多くの人々が舌鼓を打ち、朝から大盛況だ。

  • 食事席で念願のサンマを味わう人々

    食事席で念願のサンマを味わう人々

数組の家族連れに感想を聞くと、引換券の抽選に当たった嬉しさのほか、今年はサンマが高価なため「今回のイベントで今年初めてのサンマを食べた」という声も多かった。焼き台の熱に耐えつつサンマを焼いている気仙沼の方々への感謝も聞かれ、笑顔でサンマを味わっていた。

  • 皆でサンマをゲットしてご満悦のご家族

    皆でサンマをゲットしてご満悦のご家族

「目黒と気仙沼をつなぐ人々の思い」でつながるお祭り

気仙沼市の担当者によれば、祭りで大切にしているのはサンマの味だけではない。「気仙沼のサンマを送り、東京の人が焼くのではなく、気仙沼市民と目黒区民の交流を意識して実施してきた」という。焼き手との会話も、祭りの楽しみのひとつなのだ。

  • 頭にホヤぼーやを取り付けた気仙沼市の担当者

    頭にホヤぼーやを取り付けた気仙沼市の担当者

「目黒・気仙沼の強く深い絆があるからこそ毎年できているお祭りなので、それを『東京の秋の風物詩』にまで育ててきた先輩方の労苦を、本当に尊敬しています。次に続けていきたいですね」

  • 開場して忙しくなる直前に撮影させていた

    開場して忙しくなる直前に撮影させていた

サンマを焼いている方々のうち、気仙沼出身で現在は東京在住という女性は、今年で目黒のさんま祭り参加20年目になるらしい。気仙沼は大学などがなく、進学とともに東京などへ移り住む人も多いなか、こうしたイベントで地元とのつながりを再確認する気仙沼出身者は少なくないそうだ。「気仙沼の人はお祭り好き」と嬉しそうに話す笑顔が印象的だった。

  • 焼き台の熱気を浴びながらも笑顔の男性

    焼き台の熱気を浴びながらも笑顔の男性

気仙沼市内の建設会社で働く男性も、目黒のさんま祭に長年参加するベテランだ。この催事には気仙沼の水産会社に限らず、市内の企業・店舗・施設から数多く有志が集まっているとのことで、「市民一丸でやっています!」と深い意気込みをのぞかせた。

  • ボランティアの女性は目黒区民まつりのTシャツを着ていた

    ボランティアの女性は目黒区民まつりのTシャツを着ていた

  • こちらの宮城県議会議員は、気仙沼の法被を着用

    こちらの宮城県議会議員は、気仙沼の法被を着用

他にもボランティアの方々や、宮城県議会の議員など、様々な人たちの努力と熱意に支えられている、目黒のさんま祭。来年はサンマが再び豊漁となり、祭もますますの賑わいになっていることを願いたい。