見た目はそっくりなのに正反対で、傷つけ合う双子の姉妹――山姫(さき)と海姫(みき)。

Cygamesが運営する漫画配信サービス「サイコミ」で連載中の『黒衣の妹は私を許さない』。本作の原作をつとめるのは、嫁と姑の戦争のようなやりとりを描いたレディースコミックの名作『かんかん橋をわたって』(集英社、電子版はぶんか社)の草野誼先生。そして作画を、新宿・歌舞伎町を舞台に承認欲求を巡る光と闇を描いた「サイコミ」の人気作『東京深夜少女』のもてぃま先生が手がける、双子の姉妹・山姫と海姫の“怖くてかわいい”愛憎劇だ。

  • 『黒衣の妹は私を許さない』コミックス1巻・2巻 "呪いと祈り。苛烈と無垢。いじわると可哀想" そっくりで、正反対な双子、山姫と海姫の歪な宿命。 草野誼の少女漫画世界を、もてぃまが甘く残酷な筆致で描く。

    『黒衣の妹は私を許さない』コミックス1巻・2巻 "呪いと祈り。苛烈と無垢。いじわると可哀想" そっくりで、正反対な双子、山姫と海姫の歪な宿命。 草野誼の少女漫画世界を、もてぃまが甘く残酷な筆致で描く。

「法廷バトルかと思ったら刑務所漫画が始まった」「毎回読み味が違う」――読者からそんなコメントも多数寄せられている本作。先の読めない展開と、おこんじょう(いじわる)が炸裂する“草野節”全開の草野誼先生の原作を、甘くかわいらしい絵柄の中に毒っ気も漂わせる、もてぃま先生の筆致で描く。レディコミの名手と令和の新鋭による異色のタッグが実現し、SNSでも話題を集めている。

今回は9月30日のコミックス第2巻発売を前に、『黒衣の妹は私を許さない』原作の草野先生にインタビュー。実質活動休止中だった草野先生に届いたオファー、もてぃま先生との共同制作による相乗効果、読者コメントによって見えてきた山姫の“狂気”――。作り手と読者の反応が重なり、作品が動き出していく過程を担当編集さんも同席いただき話を聞いた。

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※本記事は作品の一部に関するネタバレを含みます

『黒衣の妹は私を許さない』原作者プロフィール

草野誼(くさの・よしみ):漫画家。本作の原作を担当。代表作に『かんかん橋をわたって』(集英社、電子版はぶんか社)、『ガレージ・ママ』『愚者の皮』(ぶんか社)など。なお、プロフィール画像の左にいるリスは担当編集さんとのこと。

「草野先生の活動休止は、出版業界の損失」

――そっくりで正反対な双子、姉の山姫(さき)と妹の海姫(みき)の愛憎を描いた『黒衣の妹は私を許さない』は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

草野:この作品の連載を始める前は、他の企画もうまくいかず、毎日ご飯を作って洗濯をして、「何か動きがないな」と思いながら自転車で田んぼ沿いの道をぐるぐる走って“田んぼパトロール”をしていましたね。そんなときに、編集担当さんに声をかけてもらったんです。

編集担当:もともと学生時代から、草野先生の作品の大ファンなんです。今はどうされているのだろう……と思いブログを拝見したところ、「現在は活動を休止している」という一文が目に入って。「これは出版業界の損失だ!」と思って、声をおかけしました。

また、草野先生の作風と「サイコミ」は、とても相性が良いんです。女性の欲望や深層心理をとても深く理解して描かれる草野先生の作品には、展開が予測できない魅力があります。そういった題材やコンセプトの選び方は「サイコミ」の女性読者さんに刺さると思いました。また、「サイコミ」にはコメント機能があるのですが、読者さんと一緒にライブ感を持って楽しみ、コメント欄が盛り上がるところを見たいと思ったんです。

  • 双子の姉・山姫に複雑な感情を抱く妹・海姫(『黒衣の妹は私を許さない』第1話「山姫と海姫」より)

    双子の姉・山姫に複雑な感情を抱く妹・海姫(『黒衣の妹は私を許さない』第1話「山姫と海姫」より)

“怖くてかわいい”を駆け抜ける、もてぃま先生の作画

――本作の作画に、もてぃま先生を起用した理由を教えてください。

草野:もてぃま先生の『東京深夜少女』を拝見して、ポップな雰囲気やフルカラーの画面の力に圧倒されました。さらに、過去作の『食人鬼ヒナちゃん』(wwwave comics)という作品を拝見し、インパクトある描写に惹かれました。

『黒衣の妹は私を許さない』には「怖くてかわいい」というコンセプトがあります。もてぃま先生はその“怖くてかわいい”を全力で表現して、駆け抜けてくださる。引き受けてくださり、感謝しています。

編集担当:草野先生から「作画は別の人にお願いしたい」と相談を受けたとき、頭の中には、すでにもてぃま先生が浮かんでいました。草野先生が「サイコミ」に来てくださるなら、人気作『東京深夜少女』を手がけてきたもてぃま先生に引き受けていただくことで、より強い相乗効果が起きると思ったんです。もてぃま先生は、女の子に好まれるかわいらしくてキラキラした画面づくりをされる一方で、えぐみのある表情や、毒っ気のある女の子も描かれます。その振り幅が本作にぴったりと思いました。

  • 歪んだ表情を見せる海姫。かわいさとえぐみが混在する表情も、もてぃま先生の魅力(『黒衣の妹は私を許さない』第1話「山姫と海姫」より)

    歪んだ表情を見せる海姫。かわいさとえぐみが混在する表情も、もてぃま先生の魅力(『黒衣の妹は私を許さない』第1話「山姫と海姫」より)

――実際の、もてぃま先生の原稿を見ていかがでしたか?

草野:小さく描かれた人物のきょとんとした顔や、戸惑う顔にも情報が詰め込まれているんですよね。ただ表情が良いだけでなく、その前後まで感じさせる。また、決めゴマを絶対に決めるというプロ根性もあります。また、海姫は読者に嫌われるギリギリまでいじわるに描きつつ、「まんざら嫌いでもないよ」という人もいてほしいキャラクター。もてぃま先生のかわいらしいタッチに救われている部分は大きいですね。

独自の世界観を持つクリエイター、調和の鍵は

――草野先生、もてぃま先生の二人三脚でやり取りを重ねるなかで、当初の制作方法や構想から変わったところはありますか?

草野:最初は自分が考えたキャラクターの絵で、ラフなネーム原作を描いていました。でも、もてぃま先生の作画を見てからは、「もてぃま先生の海姫、山姫を描きたい」という気持ちになり。今は、先生の絵を練習しているところです(笑)。

もてぃま先生の絵で描かれたときに一番映えるものが、一番良い。コメントでもてぃま先生の絵が褒められるととても嬉しくて、これは原作者にしか得られない喜びだと思っています。

  • 妹・海姫を「絶対に幸せにしてあげたい」と想い続ける姉の山姫(『黒衣の妹は私を許さない』第1話「山姫と海姫」より)

    妹・海姫を「絶対に幸せにしてあげたい」と想い続ける姉の山姫(『黒衣の妹は私を許さない』第1話「山姫と海姫」より)

編集担当:草野先生も、もてぃま先生も、とても独自の世界観を持つ作家さんです。ですので、作画に入る前に、お二人の世界観が調和するポイントを探ってもらいました。今回はもてぃま先生が手掛けた『イデアリリーの女王~人造乙女は繁殖したい~』(wwwave comics)にも通じる、少し毒のあるゴシックな少女漫画の方向に整えています。

  • 草野先生曰く、“もてぃまナイズ”がとくに発揮されたシーン(『黒衣の妹は私を許さない』第15話「はじまりの場所」より)

    草野先生曰く、“もてぃまナイズ”がとくに発揮されたシーン(『黒衣の妹は私を許さない』第15話「はじまりの場所」より)

また、作画担当がもてぃま先生へ決まった後、草野先生のネームも大きく変わられました。すごく“もてぃまナイズ”され、「もてぃま先生が作画したら、こうなるだろう」というイメージがネームに落とし込まれたうえで作品になっている点も、見どころだと思います。

「山姫もクレイジー」読者コメントのドライブ感

――「サイコミ」には読者のコメント投稿機能があり、様々な感想で盛り上がっています。印象的だったコメントはありますか?

草野:私は基本的に、まっすぐで人のために行動する人物を描くことが多いんです。『かんかん橋をわたって』の主人公・萌(もえ)もしかり、山姫もそんな女性。真面目で優しいお姉ちゃんで、いじわるな妹をもつ世界名作劇場の主人公のような気持ちで描いていました。

ですが、読者の方から、「山姫、やばくない?」「お姉ちゃんのほうもクレイジー」といった反応が寄せられまして。「え、そうなの?」と意外に感じる一方で、何もかも自分でコントロールするのではなく、自分が描いたものとは異なる受け取り方で反応してくれる、その“ドライブ感”の面白さに気づきました。これは編集担当さんとの出会い、もてぃま先生の参加、読者の反応など、ほかの要素が入って初めて生まれるのだと思います。

  • 妹の婚約者を不慮の事故で殺してしまい収監される姉・山姫。かたくなに妹を優先する思考回路が見え隠れする (『黒衣の妹は私を許さない』第2話「罪(1)」より)

    妹の婚約者を不慮の事故で殺してしまい収監される姉・山姫。かたくなに妹を優先する思考回路が見え隠れする (『黒衣の妹は私を許さない』第2話「罪(1)」より)

――紙媒体の雑誌と比べて、Webやアプリで読む「サイコミ」ならではのことはありますか?

草野:雑誌の反響は、ファンレターでいただいていました。例えるなら、自分でお弁当を作って重い荷物を背負い、山を越えて町まで売りに行くような感覚ですね。それが今は、カウンターのすぐ向こうにお客さんがいて、発表するたびに反応が返ってくる。即時性があり、読者のノリを意識しながら掛け合いができる。ありがたい状態で、今の時代まで生き延びてよかったと思います。

「サイコミ」は少女漫画も青年漫画もある、幅広い総合雑誌のような媒体です。読者さんがジャンルをまたいで読んでくれて、許容範囲も広い。たとえば、献身的な母親が「ご飯を作りたくない」と精神的に追い詰められた姿のシーンに「今日の私じゃん」「飯作りたくねーは同意」「全国のおかあさんたちの化身あらわる」という反応を続々といただいて、「やった!」と思いました。自分の作品に限らず、「サイコミ」のコメントを読むのが大好きです。

  • キャロットラペの角も面取りをする「家族のために愛と献身を惜しまない理想の母親」の末路は… (『黒衣の妹は私を許さない』第19話「柊の棘(1)」より)

    キャロットラペの角も面取りをする「家族のために愛と献身を惜しまない理想の母親」の末路は… (『黒衣の妹は私を許さない』第19話「柊の棘(1)」より)

『きらきら星変奏曲』のように描く双子の愛

――本作で特に描きたいこと、作品のテーマを教えてください。

草野:ふたりは基本的に、お互いのことが大好きなんです。対立から始まり、共通の問題に向き合うなかで、ある瞬間には協力し合うようになっていく。妹の気持ちが少し見える回を挟みながら、すぐに言葉にはできないお互いへの愛を描いていきたいと思っています。

たとえば『きらきら星変奏曲』は、同じ旋律を調やテンポを変えながら繰り返しますよね。それと同じように、ふたりの想いを角度やテンポを変えて何度も描き、その積み重ねによって伝えたいです。

企画段階では、身体が結びついた双子の姉妹ユージーとユーシーを描いた、萩尾望都先生の短編『半神』(小学館)のことも考えていました。16ページだからこその奇跡的な作品ですが、「このような作品を、長編で描くことはできるのだろうか……」と、かなり恐れ多いことを考えたんです。

同じモチーフを、角度を変え、調を変え、テンポを変え、時間を逆算するなど、いろいろなやり方で何度も描けば、長編にできるのではないか。

  • 山姫に執着する海姫(『黒衣の妹は私を許さない』第3話「罪(2)」より)

    山姫に執着する海姫(『黒衣の妹は私を許さない』第3話「罪(2)」より)

山姫と海姫の本質にある想いは、あまり変化しないかもしれません。お互いをすごく大切にしているけれど、自分にとって一番大切なものが、自分ではなく相手の側にあるようなもどかしさがある。それを何度も繰り返すことで、物語の芯をつくれると考えています。

海幸彦と山幸彦、昭和少女漫画から生まれた双子

――姉の山姫と妹の海姫という双子の発想は、どこから生まれたのでしょうか。

草野:もともとのモチーフは、日本神話の海幸彦と山幸彦です。弟・山幸彦が兄・海幸彦から借りた釣り針をなくし、代わりの針をたくさん作っても許してもらえない話を子どものころ教科書で読み、「この世界にたった一人のきょうだいなのに、お兄ちゃんがめちゃくちゃ怖い」と強く心に残ったんです。この話を、いつか現代で再現したいと思っていました。

主人公を女の子の双子に。また、昭和の少女漫画をオマージュし、貧乏、いじわる、お母さん、バレエシューズといったモチーフも混ぜています。

  • 山姫に贈られたバレエシューズ(『黒衣の妹は私を許さない』第2話「罪(1)」より)

    山姫に贈られたバレエシューズ(『黒衣の妹は私を許さない』第2話「罪(1)」より)

――海姫という人物をつくるうえで、意識したモデルはありますか?

草野:昔読んだ作品が、年を重ねて今に生きていますね。海姫には、『キャンディ♡キャンディ』(原作:水木杏子、作画:いがらしゆみこ、講談社)のイライザや、アニメ『小公女セーラ』のラビニアなど、さまざまな“いじわるな女の子”が入っています。なかでも大きいのは、大島弓子先生の『野イバラ荘園』(朝日ソノラマ)に登場する芙蓉です。

海姫は全員に好かれなくても、10人中ふたりくらいに「ひょっとしたら好き」と思ってもらえる線を狙っています。もてぃま先生が魅力的に描いてくださっているので、「もてぃま先生が描いているうちは大丈夫」と、毎回いじわるな言動をさせています。なぜなら、私がそういう人物を好きだからです(笑)。

――双子の山姫と海姫を、台詞や外見ではどのように描き分けていますか?

草野:妹・海姫の衣装は、『黒衣の妹は私を許さない』というタイトル通り、常に「黒衣」です。一方、姉の山姫は服装にこだわりがなく、海姫の言うままに服を着る人物として設定しています。山姫がいろいろな服を着る回では、もてぃま先生に服装を「お願いします!」と頼みました(笑)。

  • 常に黒衣をまとう、婚約者を失くした海姫。「死を弔うためではない」というその意図は…… (『黒衣の妹は私を許さない』第3話より)

    常に黒衣をまとう、婚約者を失くした海姫。「死を弔うためではない」というその意図は…… (『黒衣の妹は私を許さない』第3話より)

作品は「キャンプのカレー」、読者は“第3のクリエイター”

――草野先生、もてぃま先生の二人三脚で漫画をつくられています。これまでの制作体制とどのように変わりましたか?

草野:もてぃま先生の最大パワーを借り、編集担当さんを巻き込み、そしてお二人だけでなく、「サイコミ」読者さんの反応も加わることでドライブ感が生まれています。自分が全部コントロールしていたときには動かなかった何かが、やっと動き出しました。キャンプでカレーを作っているときのように、誰がどこを作ったかわからないけれど、テーブルにどんと置かれて「なんかおいしいな!」となる。みんなで漫画を描いているような気持ちですね。

――今後、読者に注目してほしいところを教えてください。

草野:これから物語が進むと、もっと悪い男も出てきます。「サイコミ」は男性も女性も読む媒体です。悪い男を出すときは、男性から見ても「こいつは絶対に嫌だ」「ひどい目に遭ってしまえ」と思えるように描くことを大事にしたい。男性読者の皆さまにも、安心して読んでいただけたらと思っています。

山姫と海姫については、ふたりの愛を育てつつも、「仲良く、その後いつまでも幸せに暮らしました」という終わり方にはならないはず。完全にそうではないと言い切ることもできませんが、その過程をしっかり描いていきたいです。

  • 幼少期から続く、妹・海姫の姉・山姫への執着(『黒衣の妹は私を許さない』第3話「罪(2)」より)

    幼少期から続く、妹・海姫の姉・山姫への執着(『黒衣の妹は私を許さない』第3話「罪(2)」より)

編集担当:このインタビューを通して、草野先生からもてぃま先生への愛が限界突破していることが伝わったと思います(笑)。ネームを受け取って「これはもてぃま先生へのラブレターだな」と感じることも多いんですよね。その目線で読んでもらえると、より楽しんでいただけるかもしれません。

それから、打ち合わせのたびに名言が飛び交うので、実は草野先生には内緒で“草野先生語録”をノートに書いています。たとえば最近あったのは「もてぃま先生は、漫画の神様が降ろしてくださった姫君」。そうした草野先生のお人柄も、作品から感じてもらえたら嬉しいです。

草野:要約すると、もてぃま先生は女神ですね。

――最後に、作品を読んでいる方、これから読む方へメッセージをお願いします。

草野:本作のコメントには『かんかん橋をわたって』を読んでくださった方もたくさんいらっしゃいます。当初は「全く知らないところで始める」つもりでいたので、とても助けられた気持ちでした。

また、もてぃま先生ファンの方も本当にありがたいです。「『東京深夜少女』も、今回も面白い」と言っていただけるよう、期待を裏切らない話をつくっていくことも目標のひとつです。最後には『東京深夜少女』のオマージュを込めた場面を描きたいという野望もあります。

それから読者の皆さまは、もてぃま先生、私とともに『黒衣の妹は私を許さない』を描いていく “第3のクリエイター”です。これからも本編を読んで、コメントを寄せていただいて、一緒に作品をつくっていきましょう。どうぞよろしくお願いします!

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『黒衣の妹は私を許さない』第2巻は9月30日発売!

  • 「――そうよあれは もうひとりのわたし あなた達の手で 自由にしていいわたし」

    「――そうよあれは もうひとりのわたし あなた達の手で 自由にしていいわたし」

妹の婚約者を殺した罪を償い、刑期を終えて出所した山姫。 彼女を迎えたのは、かつて共に暮らした家で待つ双子の妹・海姫だった。 だが、その家には見知らぬ男たちが住み着き、海姫もまた、妖しい笑みを浮かべ――。

光と闇、姉妹の執着が絡み合う、草野誼×もてぃまタッグの暗黒ワールド、第2巻!

(C) Yoshimi Kusano・Moteima / Cygames, Inc.