オリックス主催試合としては実に17年ぶりとなる東京ドーム開催の「オリックス・バファローズ vs. 東北楽天ゴールデンイーグルス」戦が、2026年8月3日に行われました。

その試合に特別興行パートナーとして参画して中継制作・放送から関連イベントの企画・実施までさまざまな取り組みを展開し、球団とともに盛り上げたのがスポーツテレビ局のJ SPORTSです(関連記事:T-岡田さんとファンが交流、17年ぶり東京ドーム開催のオリックス主催試合が大盛り上がり!)。そこには、どのような狙いがあったのでしょうか。

今回、オリックス野球クラブ株式会社の馬殿太郎社長と株式会社ジェイ・スポーツの外崎創社長による初の対談が実現。東京ドーム主催試合の背景や両社の事業戦略、今後の展望などを存分に語ってもらいました。

  • オリックス野球クラブ株式会社(オリックス・バファローズ)代表取締役社長オーナー代行の馬殿太郎氏(右)と株式会社ジェイ・スポーツ(J SPORTS)代表取締役社長の外崎創氏(左)

    オリックス野球クラブ株式会社(オリックス・バファローズ)代表取締役社長オーナー代行の馬殿太郎氏(右)と株式会社ジェイ・スポーツ(J SPORTS)代表取締役社長の外崎創氏(左)

創立30周年、J SPORTSが東京ドーム興行に挑んだ理由

──今回、J SPORTSが東京ドーム主催試合に特別興行パートナーとして参画した背景を教えてください。

外崎氏:J SPORTSは今年30周年を迎えました。開局当時と比べると時代が大きく変わってきており、当社ではそれに合わせて事業変革を進めているところです。たとえば、現在力を入れている配信事業は、J SPORTSの売上の3分の1を占めるくらいにまで成長しています。

スポーツ市場を取り巻く状況も変化しており、スポーツ自体の価値はもとより、その放映権や配信権の価値も従来以上に高まってきています。同時にテクノロジーの進化によって配信事業のハードルが下がり、さまざまな企業が参入するようになりました。

そうしたなかで我々はこれまで以上にスポーツ市場の成長に貢献し、ステークホルダーの皆様の期待に応えるため、次の30年を見据えた“新たな価値”の創出に取り組み続けています。そのチャレンジの一つが、今回の東京ドーム主催試合です。

──今回の特別興行パートナーの話は、どのくらい前から検討していたのでしょうか。

外崎氏:オリックスさんとは長年よい付き合いをさせていただいており、数年前から従来の枠組みを超えた新しいことができないか協議を重ねてきました。そして「それぞれが独自にやるよりも、お互いでやった方が価値を生み出せるようなもの」を検討していく中で、今回の話が実現しました。

馬殿氏:今年社長に就任して各地の球場に足を運びましたが、バファローズのユニフォームを着たファンの方が想像以上にいらっしゃいました。なかでも関東圏は人口が多いこともあってその数も多い。それに加え、オリックスグループの社員で関東圏に勤務している人もいますし、お世話になっている企業様も多くいらっしゃいます。我々としてはそうした“東京の可能性”を模索するのも狙いでした。

関西の企業様の場合は、(オリックス・バファローズ本拠地である)京セラドーム大阪に足を運んでいただいてコミュニケーションを取ることができますし、我々も積極的にそういう場を設けております。それが東京ではなかなかできないという現状がありました。今回の試合のような場で取引先の企業様に魅力を感じてもらい、新しくスポンサーになっていただくことができれば、とてもよいサイクルにつながりますよね。

  • 東京ドーム主催試合を通じて東京の可能性を模索したと語る馬殿太郎氏

    東京ドーム主催試合を通じて東京の可能性を模索したと語る馬殿太郎氏

──最初に今回の企画を持ちかけたのは、どちらだったのでしょうか。

馬殿氏:J SPORTSさんとは以前から同じベクトルで同じ想いを抱いていて、お互いによい関係を築かせていただいた中で自然発生的に持ち上がりました。もっとも17年ぶりの東京ドーム開催で、当時のことを知っている人間も現場にほぼいない中での取り組みだったので、いろいろ苦労はありましたが。

外崎氏:J SPORTSとしても新しい取り組みで興行に関しては素人でしたので、ノウハウを含め初めてのことばかり。それに全部向き合うのが大変でした。ただ手応えは大きかったですね。試合の流れもすごく感動的で(※編注:オリックス・バファローズがサヨナラ3ランホームランで逆転勝利した)、あの空間にいられたこと、主催の一人として関われたことは素晴らしかったと思います。

会場のビジョンやサイネージであれだけJ SPORTSの映像が流れたのも初めてだったのではないでしょうか。J SPORTSだけでなく、親会社のJ:COMでも「すごくよかった」と盛り上がったと聞きます。

馬殿氏:京セラドーム大阪とは場所も雰囲気も異なり、球場の構造も違う中での体験で、いつもの試合とは異なる迫力を感じました。ファンの皆さんも取引先の皆さんも社員もみんな喜んでくれたのに加え、選手が「ダイレクトに肌に感じる凄まじい応援だった」と言っていたのが印象的でした。

それがモチベーションになって、あの逆転劇につながったのかもしれませんね。今後も、今回のようにJ SPORTSさんとご一緒できることがあればいいな、継続的にやっていきたいなと思います。

外崎氏:ぜひ継続したいと強く思っています。

  • 外崎創氏は次の30年に向け新しい取り組みを進めていくとした

    外崎創氏は次の30年に向け新しい取り組みを進めていくとした

興行からデータ活用へ、球団とメディアの事業戦略を読み解く

──J SPORTSでは野球以外のスポーツも放送していますが、ほかのスポーツに関しても今回の興行のような取り組みを広げていく考えでしょうか?

外崎氏:他の競技での取り組みについても常々社内で議論しています。今回の興行を通して学んだことも多くありますので、それを活かして今後取り組みを広げていきたいですね。ただ今回に関しては、オリックスさんとの長年の関係があり、その上でしっかりサポートしていただけたからこそ成果を上げることができたと考えています。また“野球”というプライオリティの高いジャンルだったことも大きいです。

たとえば、ラグビーやバレーボールでいきなり今回のような取り組みができるかというと……検討はしていますが、なかなか同じような形ではできないとは思います。スポーツのジャンルによって試合のオペレーションも異なるでしょうし。

そのため、もう少し取り掛かりやすいところからはじめるのが現実的かなと思います。J SPORTSには『ラグビーわんだほー!』というラグビー情報番組がありますが、これまで番組関連のイベントを開催したり、MCの人たちと一緒にファンの方がラグビー王国ニュージーランドを訪れるような企画を実施したことがあります。そういったところからはじめて、それを少しずつ拡大していきたいですね。

ちなみに今回の興行では、我々が取引させていただいている各競技団体の方をご招待して試合やイベントを見ていただく機会を作りました。会場での盛り上がりを見て、すごく興味を持っていただいた競技団体の方も。そこから今後につながっていってほしいですし、そのためにいろいろ模索もしていきたいと思っています。

  • オリックス・バファローズの馬殿太郎氏(右)とJ SPORTSの外崎創氏(左)

    オリックス・バファローズの馬殿太郎氏(右)とJ SPORTSの外崎創氏(左)

馬殿氏:どういう要因であれだけ盛り上がったのかは、これからしっかり分析していきたいですね。たとえば、今回来場者の8割が関東圏在住者でした。また、バファローズ公式チケットサイトの「オリチケ」で初めてチケットを購入されたお客様は46%に上りました。

(本拠地ではない)東京ドーム開催とはいえ、新規のお客様をこれだけしっかり集めることができたのは、球団の人気や企画のよさだけではない要素もあったはず。そのあたりの分析を進めて、我々もまたJ SPORTSさんと一緒に最高の興行ができればいいなと思います。

外崎氏:データに関して言えばJ:COMグループの場合、ケーブルテレビ契約世帯に配布しているSTB(セットトップボックス)で取得できるデータがあります。ロケーションや視聴番組、視聴時間などの視聴行動に関するデータですね。

ほかにも、J:COMと資本関係にあるKDDIが持つ人流データや無料BSチャンネル「J:COM BS」の視聴データがありますし、我々が提供する配信サービス「J SPORTSオンデマンド」の視聴データも蓄積されています。8月3日の東京ドーム主催試合はJ:COM BSでも生中継しましたが、非常によい視聴結果が出ています。

もちろん、いずれのデータもお客様から同意をいただいた上で、個人が特定できないよう細心の注意を払って取り扱っています。これらのデータを分析することで、たとえばオリックス戦はこのエリアで多く見られている、このエリアはオリックスファンが多そうだ、といったことも分かります。

データの利活用に関しては、まだこれからの段階ですが、今後いろいろ共有しながら何か新しいことをやっていけたらと考えています。

  • オリックス・バファローズ公式マスコットの「バファローベル」(ベルちゃん)と、J SPORTSオフィシャルキャラクターの「ビクトリ」も対面(写真:球団提供)

    オリックス・バファローズ公式マスコットの「バファローベル」(ベルちゃん)と、J SPORTSオフィシャルキャラクターの「ビクトリ」も対面(写真:球団提供)

──球団側では、今後J SPORTSとの関係で期待したいことはありますか?

馬殿氏:これまでの友好関係のもとで、またいろいろ湧いてくる企画もあると思いますので、それに期待したいと思います。今回の成功で立ち止まっているわけにはいかないので、これからも共に頑張っていきたいですね。

──J SPORTSの今後の展望を改めて聞かせてください。

外崎氏:冒頭でもお話しした通り、J SPORTSはスポーツ専門放送局として30年の歴史を歩んできました。時代とともに競争のあり方も変化し、それに合わせて配信事業へのシフトなどを試み共存を図っていますが、長い目で考えるとそれだけでは心許ない、放送・配信に加え“第三の柱”を作らなくてはと考えています。

もっとも、完全な飛び地を狙うのはなかなか大変ですので、我々の強みがどこに活かせるのかを社内でよく議論しながら、既存事業の周辺領域から模索を続けて“柱”を目指します。今回の興行もその一環で始めたこと。J SPORTSにとっても衛星放送業界にとっても新しい取り組みでした。

馬殿氏:これまでも興行権を地方の放送局に販売する形はありましたが、今回のようにメディアと球団という異業種異文化の両者が互いの強みと弱みを知り、ここまで協議しながら興行を実現したのは球団としても新しい試みだったと思います。

外崎氏:こうした取り組みは、今現在も進行中です。たとえば、パ・リーグですと東北楽天ゴールデンイーグルスさんとも今回と似たようなお話はさせてもらっています。

楽天さんが東北各県を巡って主催試合を行う「東北シリーズ2026」では、9月1日の秋田県の試合で、チケット販売の部分のみになりますがCNA秋田ケーブルテレビさんと共同でやらせていただきました。今後も実績やノウハウを積み重ね、さらなる拡大を図っていきたいと思います。

  • 8月3日の試合はオリックス・バファローズ夏の恒例イベント「Bs夏の陣2026 supported by SAMTY」の初陣。「J SPORTS野球好きデー」として開催された(写真:球団提供)

    8月3日の試合はオリックス・バファローズ夏の恒例イベント「Bs夏の陣2026 supported by SAMTY」の初陣。「J SPORTS野球好きデー」として開催された(写真:球団提供)