
地球温暖化による気候変動は、スポーツの世界にも深刻な影響を及ぼしつつある。夏の酷暑・豪雨により屋外活動(練習や試合)は縮小を余儀なくされ、冬の降雪不足によってウィンタースポーツも存続の危機にさらされているという声も上がる。
そんな中、サッカー元日本代表の小野伸二氏が、サッカー教室を通じて小学生に気候変動について学ぶ機会を届けている。去る1月23日に神奈川・川崎市のAnkerフロンタウン生田で開催されたイベントは、何と33回目を数える。小野氏が子どもたちに伝えたい思いとはどんなものなのか、ご紹介しよう。
2100年、気温が高いのは沖縄? 北海道?
1月下旬、日本全国を襲った大寒波。晴れて日差しはあるものの、日陰に入ると思わず“寒い!”と口にしてしまう。そんな日の午前中、天然芝の広々としたグラウンドの広がるAnkerフロンタウン生田に小学生たちが集まり始めた(取材は午前中の4~6年生の部。午後には1~3年生の部も開催された)。さすが元気いっぱいの小学生、中には半袖のシャツを着ている子もいる。
この日参加したのは、事前の抽選で集まった小学生60名余。サッカー教室が始まる前、屋内で主催者の挨拶などを聞いた後、いよいよ講師の小野氏が、特別ゲストで同じく元日本代表の稲本潤一氏と共に登場すると、会場の雰囲気が一気に変わる。
そして子どもたちに小野氏が呼びかけ、気候変動について学んでもらう“サステナトーク”が始まった。
「さて、これからはサッカーにとって大事なものをみんなで考えていこうという時間です。みんなサッカーするのに大事なものというと何を思い浮かべるかな?」(小野氏)
ボール、ゴール、身体、チームプレーなど、いろいろな声が上がるが、中に「天気」と答えた子どもがいた。そこで、日本各地14ヵ所の気温が記された日本地図のイラストが示される。北海道と沖縄の気温のみ隠されていて、2100年にはどちらが高温になっているかという問いが出された。
ほとんどの子どもたちは沖縄と答えたが、実は正解は北海道。沖縄も北海道も海に囲まれているという条件は同じだが、北海道の方が陸地面積が広く、その分暑くなりやすいのだという。
「こんなになったら、みんなサッカーできなくなっちゃうでしょ? 僕たち私たちは地球がこんな風に暑くならないためにできることはいっぱいあるんだけれども、今日は森について考えてみよう」(小野氏)
次に出てきたのは、2つの森のイラスト。ひとつは木がまばらに生えていて、鳥が飛んでいて日が差し込み、全体的に明るい。もうひとつは、木が隙間なくぎっしりと生えていて、日の光が差し込まず暗い。どちらが地球温暖化の速度を緩やかにしてくれるだろうかという問いが出された。
答えは、明るい森。木が多い方が地球に良いのではないかと考えた子どもが多かったが、こちらも実は逆だった。
「地球が暖かくなっているのは、大気圏で上空に二酸化炭素が増えて、暖かい洋服を着ているみたいになっているから。二酸化炭素を吸って呼吸をしているのは植物なんですが、光が当たらなくて密になっている暗い森では、木が息をしづらくて二酸化炭素を吸ってくれないんですよ。だから、こういう暗い森を減らして明るい森を増やすことが、僕たちにできる大事な方法なんです」(小野氏)
わかりやすい説明に大きく頷く子どもたち。その後、稲本氏が所属していたことのある川崎フロンターレでは、選手とサポーターが力を合わせて多摩川を掃除し、地球環境の整備に努めているということが紹介された。

30分弱ほどのサステナトークのあとは、いよいよ寒空の下に飛び出して、サッカーの練習。ドリブルやリフティングで身体を温めた後は、ゼッケンの色ごとに6チームにわかれ、総当たり戦が行われた。どのチームも1回は小野氏、稲本氏を含む講師チームとあたる。元日本代表から直々のアドバイスを受けるなど、子どもたちにとっては、またとない大事な時間となったに違いない。力一杯、自分たちに向かってくる子どもたちを見て、小野氏も稲本氏もとても嬉しそうな笑顔を見せているのが印象的だった。
子どもたちの未来が輝く環境を整えたい
約1時間ほどのサッカー教室のあと、講師である小野氏と稲本氏に話を聞いた。子どもたち対象のサッカー教室だけではなく、気候変動について知ってもらう時間を持つことはふたりにとってどういう意味を持つものなのだろうか。
「サステナトークとサッカー教室を一緒にやると聞いたときは、正直戸惑いました。でも、地球の温暖化をどうやったら遅らせることができるのか、僕自身も勉強したりするうちにいろいろな気づきが生まれて。一人ひとりのちからは小さくとも、その一人を少しずつでも増やしていくことができれば大きな力に変えられる。取り組み続ける姿勢が大事なのかなと思いますし、自分のやることは世のためになっているという感覚を一人でも多くの子どもたちに持ってもらえたら、きっと地球の環境は良い方向に変わっていく。そう思って、今は違和感なく取り組んでいます」(小野氏)
小野氏自身、子どもの頃に参加したサッカー教室がとても楽しくて、その喜びが今でも心に残っていると言う。それが33回という回数を数えることに繋がっているのかもしれない。
「久しぶりのスマイルフットボールツアーでしたが、子どもたちが楽しんでプレーしてくれているのが見られて本当に良かったです。今回で33回目になりますが、回を重ねる毎に、いろんなことに気づきがあって、携わる多くの皆さんの協力の下に開催できることに感謝しています。これからも続けて行く予定ですが、もっともっと子どもたちが楽しめるものを提案できたらいいなと思います」(小野氏)
稲本氏は1月10日に川崎フロンターレのFrontale Relations Organizer(FRO)に就任後、これが初めての仕事になったという。FROとは、「アカデミーおよびスクールにおける育成・普及活動」「地域貢献・プロモーション活動」などを担当する役割だが、このイベントにも関わりは少なくないだろう。

「僕自身にとっても、サステナビリティを改めて学ぶ機会になって良かったです。今後は、FROの立場でフロンターレの活動にもどんどん活かしていきたいですね。小野さんはやはり子どもたちを引きつけるものがあって、さすがだなと思いました。僕自身はちょっと衰えたなと感じて、もっとトレーニングしなければと思いました。子どもたちは本当に無邪気で、隙があるとすごい突っ込んできます。そういう気持ちを僕も忘れずに、無邪気にもっともっと突っ込んでいこうと思いました」(稲本氏)
このスマイルフットボールツアーは、全国に60あるクラブの本拠地で開催しており、今回は33回目となるが、ひとくちに33回といっても続けるのは簡単なことではない。ずっと取り組み続けようという小野氏の原動力は何なのだろうか。
「このままではサッカーができなくなるという危機感もそうですが、僕たちというより今日ここに来た子どもたちはもちろん、これからこの世に生まれ出てくる子どもたちの未来をいいものしていきたい、素晴らしい環境を整えてあげたいという思いが強いですね。一人ひとりができることというのは、本当に些細な小さなことかもしれないですが、そういう気づきを得て行動に移すことで、小さい成果が大きく変わってくることにつながると思うので、子どもたちを見ていろいろなことに気づきながら取り組んでいきたいなと思っています」(小野氏)
2025年6月には気候変動に取り組むために、スポーツ基本法が14年ぶりに大幅に改定され、「気候の変動への対応」が初めて法文に明記された。もう待ったなしの状況下で、未来を担う子どもたちの環境を整えようと取り組むアスリートの活動は、小野氏の言うように些細なことかもしれないが、子どもたちの表情を見ていると、心にしっかりと根付いているという感触を得た。
※スマイルフットボールツアーは、現在も継続中。参加希望者は公式HPでチェックを。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Yuji Nomura