
空冷ポルシェの価値が高まる一方、本格的なレストアには長い期間と、完成まで見通しにくい費用が伴ってきた。そこでR-GOが新たに始動するのが、対象を911の964型と993型に限定し、入庫から完成までを原則4カ月とするレストアプロジェクトである。熟練の技術と蓄積した知見を、明確な工程と予算の中で提供する新たな試みをオクタン日本版が継続して追う。
【画像】「R-GO」で行われている空冷ポルシェレストアの様子(写真10点)
オリジナルを尊重する姿勢
2022年5月、東京・原宿のアートスペース「StandBy」に、ライムグリーンの1974年式ポルシェ911Sが展示された。コンクリート打ち放しの空間に浮かぶように置かれたその車の背後には、「Old Porsche is new Porsche」という言葉と「R-GO」のロゴが掲げられていた。価格表示も販売を促す説明もない。そこにあったのは、古いポルシェを商品として並べるのではなく、一台の工業製品、あるいは時間を内包した造形物として見せようとする姿勢であった。
そのR-GOが新たなレストアプロジェクトを始動する。対象となるのは空冷911の最終期を担った964型と993型である。最大の特徴は対象車種をこの2世代に限定することで作業内容を体系化し、入庫から完成までの期間を原則4カ月と明確に定める点にある。費用についても、車両の状態と希望する仕上げに応じた一定の基準を設け、従来のレストアに付きまといがちであった納期と予算の不透明さを、可能な限り取り除こうとしている。
964と993は年式や仕様による違いこそあるものの、これまでに蓄積した整備データ、部品調達の経験、分解と組み立ての手順を共有しやすい。複数の車種を個別の方法で扱うのではなく、対象を絞り込むことで、作業の順序、必要な人員、部品の手配、各工程に要するスケジュールを事前に組み立てることが可能になる。
実際、R-GOのファクトリーに入ると、まず作業環境の整然さに目を奪われる。車両と部品は工程ごとに管理され、板金、塗装、機関、内装を担当する技術者が、それぞれの専門領域を受け持つ。一人の職人が最初から最後まで抱え込む方法ではなく、各分野の技術者が連携する分業体制である。この組織的な作業こそ、品質を維持しながら4カ月という期間を実現するための重要な基盤となる。
もちろん、短期間で見た目だけを美しく仕立てることが目的ではない。R-GOが重視するのは、車が本来備えていた機能と佇まいを取り戻し、その状態を長く維持できるようにすることである。作業は徹底した洗浄と状態確認から始まり、エンジン、トランスミッション、サスペンション、ブレーキ、ステアリング、電装系、ボディ、内装へと及ぶ。再使用できる部品は安易に交換せず、必要な修理と処置を施して生かす。一方、安全性や信頼性に関わる部分については、外観に問題がなくても状態を確認し、必要に応じて交換またはオーバーホールを行う。
仕上げにおいても、単にすべてを新品同様に見せるのではなく、その車が生産された時代の質感が尊重される。タイヤハウスや床下まで過剰に光沢を与え、現代のショーカーのように仕立てることが正解とは限らない。塗装の肌、金属部品の表情、内装材の質感、ボルトや金具の仕上げに至るまで、新車時の姿と製造方法を考証しながら整える。必要に応じて当時の仕様に合う部品を選び、後年に加えられた改造は元に戻す。オリジナルを尊重するとは、古く見せることでも、何も手を加えないことでもない。機能と時代性の双方を正しく読み解く作業なのである。
永く乗り続けるために
ポルシェ964と993は、いまや単なる中古車ではない。964は伝統的な911の骨格を残しながら、ABSやパワーステアリング、ティプトロニック、四輪駆動などを本格的に採用し、近代的な911への転換点となった。993は空冷水平対向6気筒エンジンを搭載する最後の世代であり、より洗練されたシャシーとマルチリンク式リアサスペンションによって、911の走りを新しい段階へ進めた。両者とも現在の交通環境で実際に走らせられる性能を備える一方、製造からすでに30年前後が経過している。外観が美しく、通常走行に不具合がない車両でも、ゴム部品、配線、油脂類、シール、ブッシュ類などは確実に時間の影響を受けている。
だからこそ、今回のプロジェクトが目指すのは、展示するためだけのレストアではない。エンジンが正しく始動し、操作系が滑らかに働き、ブレーキや足まわりが本来の応答を取り戻し、安心して距離を重ねられる一台へと仕立てることである。見た目の美しさと機械としての健全さを両立させ、オーナーが再びステアリングを握りたくなる車にする。それがR-GOの考える「蘇らせる」という言葉の意味である。
オクタン日本版では、この新しい試みの対象となる964または993のオーナーを募集する。レストア費用はオーナーの負担となるが、取材車両として協力いただくことで、R-GOが車両の状態と真正面から向き合い、各工程を一層丁寧に進めていく。入庫時の診断から分解、補修、組み立て、調整、完成までの過程は継続して紹介する予定である。
愛車をこれからも長く乗り続けたい。かつての走りと佇まいを取り戻したい。あるいは、次の世代へ確かな状態で受け継ぎたい。そう考えている964、993のオーナーがいれば、ぜひ手を挙げていただきたい。空冷911を過去の遺産として保存するだけではなく、再び道を走り、次の時間を刻む存在にする。4カ月後、その一台から新たな物語が始まるはずである。
文:堀江史朗(オクタン日本版) 写真:R-GO
Words:Shiro HORIE(Octane Japan) Photography:R-GO
レストアプロジェクト モニター募集概要
対象車種:ポルシェ911 964 型/ 993型
※部品調達の関係で今回は正規輸入車に限る
作業期間:車両診断後、入庫から原則4カ月で納車
費用:車両の状態および作業内容に基づきR-GOより提示
費用の目安(税別)
・総額 1000~1500万円
・外装 400~500万円
・内装 150~250万円
・エンジン 350~550万円
・足回り等 100~200万円
条件:オクタン日本版による作業工程取材にご協力いただける方
応募締切:2026年11月中旬
募集台数:1台(選考のうえ11月末までにご連絡を差し上げます)
※ R-GOより、モニターご協力特別価格をご提示いただきます
応募はこちらから
https://forms.gle/NBC1ZuC22wVd5WCG7
R-GO
〒194-0215 東京都町田市小山ヶ丘6丁目3−9
電話:042-774-0911