三井住友海上火災保険 兵庫支店は9月8日、法人向けに『自転車の交通ルールと企業のリスク対策』をテーマにしたセミナーを開催。20社を超える企業の担当者が、経営リスクの専門家の解説に耳を傾けた。
会社が徹底すべきこととは?
2026年4月1日施行の改正道路交通法では、16歳以上の自転車運転者による一定の交通違反に“青切符制度”が導入された。これにより、従業員の自転車通勤を認めている企業の間では「違反・事故時のトラブル対応」について関心が集まっている。三井住友海上火災保険 MS&AD経営サポートセンターの山下賢二氏が解説した。
その冒頭、山下氏は「自転車通勤中の事故と会社の使用者責任ですが、基本的な考え方としては『業務との結びつきが強いか弱いか』に依ります」とする。たとえば、自転車を使用して通勤していた、あるいは業務外で使っていた場合は、会社に責任が生じる可能性がある。逆に、現地直行・直帰を業務命令として指示していた、業務に使用することを会社が当たり前のように黙認していた、自転車に会社のステッカーを貼っている、という場合は会社に責任が生じるという。これを踏まえ、山下氏は会社がやるべきこととして、
従業員が安全に自転車通勤できる環境を整えること
自転車の業務使用性を排除し、会社の安全配慮義務を問われないようにすること
と説明する。
では具体的に、会社が「自転車通勤制度」で定めるべきことは?
山下氏は、1. 対象者、2. 自転車の要件、3. 安全基準、4. 事故発生時の対応、5. 法令順守、6. 保険加入、を挙げる。
1: 対象者については「会社に申請を出して許可を得た人とします。パート、アルバイトを含む、全従業員を対象にして下さい。通勤距離は『何km以内』と定めます。自転車を運転できる健康体、といった要件も必要です」。
2: 自転車の要件については「通勤自転車としてふさわしく、安全かつ整備された車両である必要があります。電動アシスト自転車は(型式認定TSマークなどの)基準を満たしていること。ペダル付き電動バイクは原付なので、自転車ではありません。電動キックボードは法令上、自転車とは異なる区分になります。自社の通勤制度の対象に含めるかどうかも含め、利用基準を定めてください。」。
3: 安全基準については「ライト、反射板、尾灯、警音器(ベル)、ブレーキなど、安全に整備された自転車であることを確かめます」。
4: 事故発生時の対応については「会社で勉強会を開くことをオススメします。事故時、人は必ず焦ります。たとえば朝、通勤時に子どもとぶつかってしまった、子どもは『大丈夫です』と言っている、そんなときにどうするか。基本的には、人命救助・救急車の手配・車両の移動、警察に連絡、そのうえで会社に連絡します。最悪なのは、逃げるように現場を立ち去ってしまうことです。どうやって会社に報告するか、そのマニュアルも用意しておきましょう」。
5: 法令順守については「自転車の交通ルールやマナーを遵守することです。自転車安全利用五則を徹底してください。改正道路交通法により、取り締まり(検挙)の手続きが変更になりましたが、交通ルールそのものが変わったわけではありません」。
特に、企業の規定にも明記しておくべきこととして、飲酒・酒気帯び運転、運転中のスマートフォンの操作、運転中のイヤホン・ヘッドホンの使用は厳禁、とする。「よくあるのは、居酒屋で飲んで電車で帰って、最寄り駅から自転車に乗ってしまう事例です。絶対にダメです。そこで赤切符の対象になった場合、普通自動車の免許も一定期間の停止、もしくは免許取り消しになる可能性があります。そのことを会社に報告できず、業務で営業車に乗ってしまう――。これは企業にとっても最悪の状況になります」。
6: 保険加入については「自転車損害賠償責任保険等に入っていることはもちろん、その内容についても、改めて確認して下さい。古い保険のままだと、現代の事故に対応できないケースがあります」。近年、裁判所において1億円に迫る高額な損害賠償が命じられる事例も珍しくなくなった。このため、賠償保険金額1億円以上の保険加入が必須とのこと。
このほか、通勤手当に絡めた問題について「従業員には、通勤経路・通勤手段を正しく申告してもらってください。『電車で来ます』『バスで来ます』と申告していたのに、実際は自転車通勤して定期券代を浮かせていた、というケースがあります」。
懲戒処分にできる? 労災は?
では自転車通勤中に事故を起こした場合、企業は従業員を懲戒処分にできるのだろうか? 「基本的には、この事故により企業名がマスコミ報道にさらされた、SNSで炎上した、取り引き先からの信用が低下した、という場合は懲戒処分の対象となり得ます。ただ、いきなり懲戒解雇など重い処分を下すことは『懲戒権の濫用』とみなされるリスクもありますので、慎重に行う必要があります」と山下氏。
「何か重大な事故が発生したとき、『企業としてやるべきことはやっていた』と説明できるよう、自転車通勤管理規程のルールの明文化・周知徹底は大事です。就業規則(規程)の一部として正式に明文化しておくと、業務命令の効力が強まります。規程の整備は『企業として適切な管理を行っていた』という証明になるでしょう」
自転車通勤中の事故は、どこまでなら労災の対象になるのだろうか? 基本的な考え方としては「通勤は『業務』ではありませんが、労災保険の対象になります」と山下氏。
工事などによるやむを得ない迂回も、合理的な通勤経路として認められる場合がある。また、経路近くの公衆トイレを利用したり、自動販売機で飲み物を買ったりする程度のささいな行為は、通勤の逸脱・中断には当たらないという。
一方、日用品の購入や病院への立ち寄りなど、日常生活上必要な行為を最小限の範囲で行った場合は、その行為中を除き、合理的な通勤経路に戻った後は再び通勤災害の対象となる。
「終業後、帰宅途中に子どもを迎えに保育園に寄って、その後、合理的な経路に戻って起こした事故は、通勤災害になります。終業後に通勤途上にあるパチンコ店に立ち寄って2時間後に合理的な経路に戻って起こした事故は、通勤災害になりません。パチンコ店に寄ったところで、通勤途上ではなくなります」
最後に、山下氏は「自転車通勤は便利です。企業は、その利便性とリスクのバランスを意識してください。事故を防ぐ、従業員を守る、会社を守る、という3つの視点から、自転車通勤管理を整備してください」と呼びかけた。











