
歴史的にみてランボルギーニにおける「SV」の二文字は、単なる高性能グレードを意味してこなかった。ミウラ以来、フラッグシップモデルとしてその時代における最も純度の高い走りを与えられたモデルに許されてきた称号でもあった。
【画像】ミウラ、ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドール、そしてレヴエルト。「SV」の名を冠した歴代ランボルギーニ(写真15点)
1971年に登場したミウラSVは、ミウラ(P400)、ミウラSと受け継いだミドシップV12スーパーカーコンセプトをさらに研ぎ澄ませた最終進化形である。最高出力は385psに高められ、ワイド化されたリアトレッドや改良されたサスペンションに、機能的な冷却・潤滑系への見直しによって、速さだけでなく高速域の安定性と信頼性にも手が入った。つまり初代SVは、数字上のパワーアップ以上に、”ランボルギーニの頂点を、より確信をもって走らせるための進化”、だったのだ。
カウンタックの時代に正式なSVは姿を見せなかったものの、ウォルター・ウルフとジャンパオロ・ダラーラによる空力デバイス、ワイドタイヤ、さらなる大排気量化という進化の方向性そのものは、ミウラSVが示した”過激化と精密化の両立”を別の形で受け継いでいたと言っていい。ウルフカウンタックは確かにSVであった。
SVの名称が本格的に復活するのは1990年代のディアブロだ。ディアブロSVは、よりシンプルでダイレクトな後輪駆動へと先祖返りし、軽量化と出力向上によって、当時のスーパーカーに求められたレスポンスの鋭さと荒々しさを前面に押し出した。標準モデルがAWD化や快適装備によって万能性を高めた一方で、SVはあえてドライバーと巨大なV12との距離を近づける方向へ振られていたのだった。
2009年のムルシエラゴLP670-4 SVでは、その哲学はさらに現代的へと昇華される。カーボンファイバーの積極的な採用による軽量化、専用のエアロパーツ、引き締められたシャシー設定により、単に直線で速いだけではない、サーキットでの応答性を意識したSV像が明確になっていく。
続くアヴェンタドールLP750-4 SVでは、自然吸気V12の咆哮、カーボンモノコック、AWD、可変エアロへと向かう技術の流れが統合され、さらにSVJではさらに伝説のネーミングである”Jota”の名を加えることで、ニュルブルクリンクでのラップタイムに象徴される極限性能の証明へと発展した。ここに至ってSVは、懐古的なバッジではなく、各時代のランボルギーニが持つ最先端技術を惜しみなくオンロードで表現したことの証明になった。
そして、V12プラグインハイブリッドのレヴエルトSVである。創業年にちなんで1,963台限定生産とした。システム最高出力は1,065CV、最大トルクは1,425Nm、0-100km/h加速は2.4秒、0-200km/h加速は6.7秒、最高速度は345km/h超である。重要なのは、これが単なるハイブリッド化による数値の上積みではないという点だ。電動領域の持続力を高め、専用の空力システム、サスペンション、ブレーキ、タイヤ、そしてドライバーが限界域で介入量を選び取れる新しい走行モードによって、SVの伝統である”より速く、より鋭く、より濃密なドライビングエクスペリエンス”を電動化時代の文法で再構築した。
そのSVらしさとはいったい、実際の走りのなかではどのように立ち上がってくるのだろうか。歴代モデルと同様に、数字だけでは語れない領域でその本質を示すはずである。確かめるべきは、この新しいスーパーヴェローチェがどれほど歴代SVの血統を感じさせ、そしてどれほど新しい時代へ踏み出しているのか、という一点だった。
5月初旬にランボルギーニからメールで届いた招待状には、「レヴエルトPMプロジェクトのプロトタイプテスト」とだけ記されていた。まだ正式発表前で車名は明かされていない。だが、それがSVであることはわかっていた。サンタアガタはその少し前から、歴代SVを振り返る広報キャンペーンを展開していたからである。彼らがヘリテージに触れるとき、その先にはたいてい、現在進行形の新作が控えている。そうした近年の流れを思えば、この招待状の行間に”スーパーヴェローチェ”の文字を読むのは難しいことではなかった。
場所はイタリア南部、プーリア州ナルド。ナルドといえば直径約4kmにも及ぶ巨大な高速周回路が有名だが、この日、カモフラージュラッピングをまとったレヴエルトSVが並べられていたのは、一周およそ6.2kmのハンドリングサーキットだった。発表前のプロトタイプらしい緊張感が、無機質なプルービンググラウンドの空気によく似合っている。
モントレーにも姿を見せたツートーンのレヴエルトSVが、デザイン責任者ミッティア・ボルカートの手でアンベールされる。その姿を目に焼きつけたあと、私はカモフラージュをまとった個体へと乗り込んだ。最初のプログラムは、ローンチコントロールの加速テストである。
左足でブレーキを深く踏み込み、右足でアクセルも床まで押し込む。エンジンが轟音をはっし、爆発寸前にまで張りつめた。左足をさっと解放する。するとどうだ、派手なスキール音とともに暴れ出すのかと思いきや、タイヤが短く”ギュッ”と鳴いたその瞬間、車体はほとんどスリップもしないで前方へと弾き出されたではないか。空気の層を切り裂きながら、水平に射出されたと言ったほうが近いか。タイヤの存在すら意識から消えてしまった。まるでリニアモーターカーのように、路面との摩擦を超えた場所で加速しているかのようだった。
続いて標準仕様レヴエルトへ乗り換える。ここからはいよいよサーキットテストだ。先導するのはプロのドライブするテメラリオ。未知のコースであっても、そのテールを追えばラインもブレーキングポイントもつかみやすい。こちらがレヴエルトでなければ、序盤から置いていかれていたかもしれない。
標準のレヴエルトは、いまなお超一級のスーパースポーツであると言っていい。とてつもなく速いという印象は少しも薄れていない。加速も減速も質感が高く、すべての動きが洗練されている。どの領域からでも滑らかに振る舞い、気がつけば常識を軽々と飛び越えた速度域を楽しんでいる。にもかかわらず、ドライバーを過度に緊張させることもない。1000cvを超える力を、これほど自然に解き放てること自体が、レヴエルトという車の凄みであろう。
ナルドのハンドリングサーキットは観客席を備えたサーキットではない。あくまで車両開発のためのプルービンググラウンドであり、通常舗装の路面は荒く、コーナーのつながりもどこか意地が悪い。気持ちよくリズミカルに旋回をつないでいける場所は少なく、切り返し、ブレーキング、荷重移動のたびに、ドライバーはもちろん車にも負担を強いる。レヴエルトでなければ、攻めあぐねていたに違いない。
3ラップを精一杯走り終えても、汗は脇にうっすら滲む程度だった。これこそがレヴエルトの真骨頂だ。どこまでも車が上手で、ドライバーの能力を一段も二段も引き上げてくれる。標準仕様の完成度は、いまだ疑いようもなくトップレベル。だからこそ、SVへの期待は高まる。同時に、ひとつの疑問も頭をもたげた。さらにこの上を行くSVとは、いったい何ものなのだろうか。本当に必要だったのか。
その答えは、ふたたびカモフラージュのレヴエルトSVへ乗り込んで、走り出した数秒後にやってきた。標準車よりも、車との一体感が明らかに強い。ステアリングを切る、ブレーキを踏む、アクセルを開ける。その一つひとつに対して、車体が遅れなく、濁りなく応答する。すべてを思いどおりにこなせるのではないかという、ある種の奇妙な自信が湧いてくる。言い換えれば、”超一級のスーパースポーツ感”が、走り出してすぐに身体へ入り込んできたのである。
ドライブモードは今回新たに加わったレースを選んだ。標準車と比べて、シフトアップのダイレクト感は明らかに増している。コーナーが先ほどよりもずっとずっと早く迫ってきた。それでもクリップポイントへノーズを向けることは容易い。新開発ブレーキシステムのコントロール性が素晴らしいからだ。ノーズが随分と短くなったようにさえ感じる。鼻先だけではない。車体全体がひと回り小さくなったスーパーカーを操っているような感覚があった。
エアロダイナミクスの進化は、高速域のドライブフィールをも、まるで別物に変えていた。5速で進入した高速コーナーでは、安定感の高さに思わず目を見張る。路面に食らいついて離れようとしないマシンを、こちらの意思でさらに奥へ、さらに高い速度へと導いていく楽しさがあった。ストレートエンドでは、標準車より10km/h速い298km/hを記録。数字としても確かに速い。だが、それ以上に印象的だったのは、その速度に到達するまでの過程に不安がほとんど介在しないことだった。
レヴエルトSVではモーター出力も高められている。けれども、主役の座にいるのは依然としてV12エンジンだ。標準車よりも力強く、より明確な意志をもって回っているように感じられる。高回転域でのサウンドはさらに官能的で、電動化によって薄まるどころか、V12の存在感はいっそう際立った。信じがたいパフォーマンスを味わいながらも、自分の手足で車を支配しているという感覚は、標準車よりはるかに濃い。それこそ、レヴエルトSVが”SVを名乗る理由”であろう。
文:西川 淳 写真:アウトモビリ・ランボルギーニ
Words: Jun NISHIKAWA Photography: Automobili Lamborghini