インターポールが語る「成長と前進」──NYの象徴的バンドが生んだ新たなマスターピース

今バンドが非常に充実した状態にあるのが手に取るように伝わってくるだろう。デビューから早25年以上、ゼロ年代のニューヨークを象徴するバンドの一組、インターポール(Interpol)の通算8作目となる新作『This Mirror Weighs A Ton』は、脂が乗り切ったバンドアンサンブルと旺盛な実験精神、さらには政治的なメッセージ性までもが一体となっている。間違いなく、円熟期を迎えた現在の彼らの代表作となるであろうマスターピースだ。

このアルバムが音楽的な野心に満ちていることは、冒頭に置かれたタイトルトラックが物語っている。トリップホップを連想させるドラムのブレイクビーツに、深い霧の中を進むようなキーボードのアトモスフェリックなサウンド、そしてポール・バンクス曰く「マッシヴ・アタックと比較しても異論を唱える人はいない」ベースライン。これまで以上に挑戦的な方向性に打って出ようという彼らの前のめりな姿勢が、ここからは明確に伝わってくる。

実際、バンド最初期の姿がフラッシュバックする漆黒のポストパンク「See Out Loud」のような曲がある一方、ダンサブルなパーカッションが新鮮な「Wake Up」、ロマンティックなピアノバラード「Enemy」、荒々しいガレージロック「Wings On Fire」など、そのサウンドはいつになく冒険的で多彩。ほとんどの曲でキーボードやストリングスが導入されているのが効いているし、音響面での実験も刺激的だ。おそらくこれは、ストリングスアレンジやキーボード演奏も担当したプロデューサー、アンドリュー・ワイアットの貢献が大きいだろう。だが、振れ幅が広く実験的なサウンドに一本の芯を通しているのは、ワールドツアー直後のレコーディングで、まだ勢いに満ちているバンドの緊密な演奏である。

また、ポールがThe Guardianに語ったように、「Wounded Soldier」の歌詞はウクライナ戦争のドローン攻撃映像に着想を得ており、「Iron City」はAI社会への不安をSF的に綴っている。ポールが社会問題に踏み込んで歌うのは珍しく、その点でも彼らは挑戦的な作品を作ったと言えるだろう。

今回のインタビューに応えてくれたのは、ギタリストのダニエル・ケスラー。今年5月にデフトーンズとのジョイントでオーストラリア/ニュージーランドのアリーナツアーを行った後、日本に立ち寄った際に話を訊いている。まだ音とジャケット写真以外の資料がほぼ手元にない状態での取材だったが、ダニエルは一つひとつ丁寧に紐解いて教えてくれた。

ツアーで磨かれた一体感と「新機軸」

―デフトーンズとオーストラリア/ニュージーランドツアーを回ってきたばかりですよね?

ダニエル:そうだね。デフトーンズとやったのは、新しい経験だったよ。これまでと全く違う客層だったし。たぶん重なる部分も多少あるとは思う。お互い、アプローチは違えど、ダークな部分があるっていう。とは言え、自分たちのことをほぼ知らない観客に対して演奏するのは楽しいよね。何が起こるか全くわからないし、常に気を張ってないといけない。そこにはチャレンジがある。こういうことを試しにやってみて、何が起こるか見てみる貴重な機会を断る理由はないよね。

―その通りだと思います。では早速、『This Mirror Weighs a Ton』について訊かせてください。このアルバムにはインターポールらしいパワフルなロックソングもあれば、これまでにないアトモスフェリックな曲やダンサブルな曲もあるなど、とても幅広いサウンドが展開されています。と同時に、どの曲でもバンドの一体感が伝わってくるような、タイトな演奏が全体を貫いていると感じました。

ダニエル:「タイトな演奏」だと指摘してくれたのは面白いね。というのも、2年半のツアーを終えてすぐにレコーディングを始めたから。ツアーを終えたのが2024年12月で、レコーディングを始めたのが2025年1月だ。バンド全体での演奏部分の大半を、2025年の1月と2月に録った。タイトさの理由の一部は、あれだけ長くツアーを一緒にやってきたことで、お互いの演奏がすごく調和していたからだと思う。それが功を奏しているんだ。

―ツアー直後にレコーディングをしたのは初めてですか?

ダニエル:今までやったことがなかったよ。普通は、終わったら1年オフを取って、僕が家で曲を書いて、それからみんなで集まって、インターポールの曲を仕上げていくんだけど。でも今回はスケジュールの都合で、プロデューサーのアンドリュー・ワイアットと組むには、どうしても2025年1月には作業を始めないといけなかった。だから、ツアーの合間を縫って作業することになったんだ。曲の土台になる部分は、ほぼ僕が一人で書いていて、そこからみんなで一緒に組み立てていくわけだけど、それも短いツアーの合間にやった。それも含めて、個人的には今作は他とは違う点がたくさんあると感じる。

―具体的には?

ダニエル:長年ツアーを一緒にやってきたベーシストのブラッド(・トゥルーアックス)と、一緒にレコーディングした初めてのアルバムでもある。彼は素晴らしくて、バンドとの付き合いも長い。あとプロデューサーのアンドリュー・ワイアットにしても、彼は長年の友人だけど、彼のオーケストレーションとキーボードも信じられないくらい素晴らしい。おかげで本格的に取り入れて、探求することができた。結果、今作でやりたいと思ってたアトモスフェリックな部分がぐっと増えた。自分としては、バンドにとってすごく大きな進化、前進のように感じている。インターポールらしさもちゃんとあって。自分たちは変わらず同じ人間だけど、バンドとして、これまでとはけっこう違う部分もあると思う。でも、それは意図して作ったものというより、一緒に演奏した結果であり、同じ部屋の中でいろいろ試した結果なんだ。無理強いしたものではなく、どれも自然に生まれたものだよ。

―親密で穏やかなトーンだった前作『The Other Side Of Make-Believe』がコロナ禍にリモートで制作されたのに対し、今作は再びバンドでひとつの部屋に集まってレコーディングされた作品ですよね? そのエナジーが作品に反映されているように感じますが、ご自身の実感としてはどうですか?

ダニエル:そうだね。前作に関して、あれはあれで良かった部分もあったんだ。なかなか全員で集まるわけにはいかなくて、いろんなことをリモートでやるハメになったのは確かで、もちろん一緒にレコーディングはしたけど、曲作りの間はネットでやり取りして、お互い素材を送り合わなきゃいけなかった。面白かったのは、同じ部屋にいなくても、化学反応みたいなものはちゃんと感じられたってこと。

―ええ。

ダニエル:でも、今作は同じ部屋にいることがすごく大事だと思った。今の時代、多くのバンドがファイルを送り合うだけで曲作りが成立して、それが普通になってるとは思うんだけど、自分たちにとっては、たとえ全員が同じ街に住んでいなくても――実際に住んでないわけだけど、昔からずっとやってきたやり方、つまり同じ部屋で一緒に曲を書くっていうやり方をしたかった。だから、また一緒に集まってやることがすごく大事だったし、それがアルバムからも感じられると思う。エネルギーが伝わるはずだ。リズムセクションにタイトさがあるよね。

―プロデューサーのアンドリュー・ワイアットは、映画『バービー』のスコアからロザリアやリアム・ギャラガーのソロまで、幅広い作品を手掛けています。今回彼を起用した狙いは何だったのでしょうか?

ダニエル:彼とは仲の良い友達で、一緒にやったらどうなるだろう、と興味があったんだ。彼が仕事ですごく成功してるのも、もちろん知ってた。でも一緒に出かけたりするときは、音楽のことより人生のことを話すことが多くて。たまに、「今何してるの?」「自分はこんなことをしてる」みたいな話をする程度。音楽の話はあんまりしない。でも彼の音楽的知識がすごいってことは知っていた。自分は独学でギターを覚えて、音楽の理論については何も知らない。曲を書くときに音楽のルールについて考えるのは好きじゃなくて、感覚だけでやることに解放感を感じるタイプなんだ。でもアンドリューは、譜面も書けるし、弦楽器のパートも書けるし、オーケストラのためのアレンジも書ける。実際、映画のためにそういう仕事をしてきた人だしね。だから、そういう頭脳が、自分たちが当時書いていた曲に何を加えてくれるのか、すごく興味があったんだ。

―なるほど。

ダニエル:それで、彼に興味があるか聞いてみたら、乗り気になってくれて。あと、メンバーのポールがRZAとやってるプロジェクトがあって(Banks & Steelz)、そこでアンドリュー・ワイアットが1曲プロデュースしてる。その時ポールがすごくいい経験をしたっていうのも知っていた。実際にやってみて、本当にうまくいったと思う。アンドリューがこのレコードに加えてくれたものは、まさに自分たちが求めていたものだったから。前作にはキーボードがほとんど入ってなかった。僕が1、2曲でピアノを弾いたくらいで。でも今作は、全部の曲にキーボードか弦楽器か、何かが入っている。インターポールの作品としては今までで一番多いと思う。すごく広がりのある、多次元的な作品になったし、それはまさにこれらの楽曲に加えたいと思っていたものだった。

―実際、今回は新機軸がたくさんありますよね。

ダニエル:たくさんあるよ。本物の弦楽器を使っているし。アンドリューが弦楽器のアレンジを書いてくれて、弦楽団に演奏してもらった。あとパーカッショニストもいる。ドラマーのサムがちょっとしたパーカッションをプレイしている曲もあるんだけど、本物のプロのパーカッショニストにも参加してもらった。より躍動感のあるリズムを加えてくれているのは、新機軸と言えるね。あと、ペダルスティールギターの奏者に数曲参加してもらった。前にも一度やったことはあって。2枚目のアルバムで1、2曲ちょっと演奏してもらったことがあるけど、今回はもっと本格的なんだ。他にも、キーボードや弦楽器のアレンジ、サウンドデザインみたいなものもたくさん取り入れている。どれもすごく新しく感じたよ。何より、すごくエキサイティングで、有機的な感じがしたんだ。つまり、「これを入れなきゃ」って決めてやったわけじゃなくて、もっと自然な流れで生まれたものだった。曲が出来上がっていく中で、こういう要素がその曲を定義する一部になる余地ができていった、っていう感じだったんだ。

―オープニングトラックの「This Mirror Weighs a Ton」は、とてもアトモスフェリックで、インターポールが新しいサウンドを携えて帰ってきたということを強く印象付けます。

ダニエル:その曲はいろいろ形が変わっていったんだ。もともとのアイデアは、ブラッドが持ってきたベースパートで、ループだったと思う。最初は必ずしも曲になりそうな感じじゃなかった。始めはちょっとしたアイデアにすぎなかった。そのベースパートは別の曲、「So Rides a Reindeer」の僕のギターパートが元になってるんだけど、すごくアトモスフェリックなインストゥルメンタルの曲になっていって、そこからアンドリューが映画で使われそうなサウンドデザインのオーケストレーションを作ってくれた。キーボードで弾けるようなものですらない、これまでやったことのない感じだった。そしたら、ポールがはっとするようなメロディと歌詞を思いついて、その歌詞の一つが結果的にアルバムのタイトルになって、その曲のタイトルにもなった。自分たちでも、この曲がいったいどんな可能性を秘めているのか、どんな曲になるのか、発見の連続だった。それを体験できたのは、すごくエキサイティングだったよ。自分たちにとっての新機軸だし、実際に曲が完成しつつあるとき、これはアルバムのオープナーとしていいんじゃないかって思った。

―ええ、まさにぴったりだと思います。

ダニエル:たとえば、最初のアルバムの1曲目もほぼインストゥルメンタルで、ポールが歌う4行の歌詞がマントラみたいに繰り返されるだけだった。だから、この曲もアルバムへのいい導入になるんじゃないかと思ったんだ。キャッチーな曲やロックンロールな曲じゃなくて、もう少し聴き手に負荷をかけるような、聴き手を惹き込んで、アルバムの世界に入り込んでもらう曲がよかった。これから聴いてもらう、バンドが奏でる物語を伝えるのに、ちょうどいい入り口になる気がしたんだ。

現代社会への眼差し、映画が導くソングライティング

―「See Out Loud」はまさにインターポールらしいダークなロックソングで、2回目のヴァースではあなたもボーカルを取るのが嬉しい驚きでした。あなたが歌うのはデビューシングルの「PDA」以来だと思うのですが、これはどのような経緯で実現したのでしょうか?

ダニエル:あれは、ポールが思い出させてくれたパートなんだ。ローワーイーストサイドにあるアンドリューのスタジオで、彼がこの曲のボーカル録りをしていた時に、ポールは奥の部屋で作業をしてて、メインルームにアンドリューがいて、楽器のセットアップが全部そこにあったんだ。自分はたぶん、ポールにボーカルのアイデアを提案したんだと思う、「こういうアプローチで歌ってみたら?」みたいな。でも、その時は特に何か形になったわけじゃなくて、ポールは引き続きその曲に取り組み続けた。それから4ヶ月くらい経って、彼が「このヴァース、お前が歌ってみたら?」って言ってきたんだ。実は自分が彼に歌ってもらうのに提案したアイデアがきっかけだったなんて、その時は知らなかったんだよ。僕はシャイだし、歌いたいわけではなかったんだけど、彼に説得されてやってみたら、結構楽しかった。メロディはもちろん彼が書いたもので、歌詞もそう。でも楽しい経験だったね。ポールが住んでるベルリンで録ったんだ。

―では、『This Mirror Weighs a Ton』というアルバムタイトルには、どのような意味合いが込められているのでしょうか?

ダニエル:歌詞を書くのはポールだから、的確な解釈ができるかはわからないけど、自分なりの解釈ならできる。タイトル曲の「This Mirror Weighs a Ton」の歌詞は、自分の中では、自分を省みることとか自己内省を語る上ですごく雄弁なフレーズだと思う。その重みも含めてね。初めて聞くはずなのに、英語でよくある言い回しみたいに聞こえるんだよ。実際は完全なオリジナルなんだけど。しかも、すごく真実味があるフレーズだと思う。実際の歌詞の意味については、正直わからない。でも、今作には心に刺さる歌詞がたくさんある。その中でも特に印象的なのはこのタイトル曲で、自分を見つめ直すこと、自己と向き合うこと、そしてその重さについての曲だと解釈しているよ。

―アルバムのジャケット写真は、シャンデリアに無数の監視カメラがつけられたもので、そこには政治的・社会的メッセージが込められているように感じます。このアートワークのアイデアについて教えてください。

ダニエル:あれは実は、実在するアート作品を気に入って採用したものでね。今の時代にぴったりだと思うんだ。「監視カメラのシャンデリア」みたいなものなんだけど、それって、自分たちが今生きている世界そのものでもあると思う。自覚しているかどうかは別として、自分たちは何らかの形で常に見張られてる。どんな活動をしていても。このまま文明が進歩していくにつれて、今後さらに増えていくと思う。個人的に気に入っているのは、ジャケットのアートワークがそれで、裏面にはInterpolの文字が、すごくラフな、落書きみたいな、ペンキっぽい感じで書いてあって、そのちょっとした荒々しい、宣言みたいな感じが、表面の緊張感といい対比になっていること。自分たちにしてはすごく珍しい。普段はもっとミニマルで、きちんと整然としたグラフィックでバンド名をデザインしているからね。

―(取材時点で)まだ歌詞をもらっていないので完全な推測でしかないのですが、「Wounded Soldier」というタイトルなどは、世界中で戦争が絶えない今の状況に対するリアクションのようにも思えました。今作のポールの歌詞について、あなたが思うところを教えてもらえますか?

ダニエル:歌詞がはっきりと心に刺さる瞬間はいくつかあると思う。政治的な観点から見て、世界の状況について否定しようのない発言みたいなものもある。自分たちは厳密には政治的なバンドじゃないし、今まで一度もそうだったことはない。でも、今世界で起きていることや、政府の行動に対して、自分なりの考えを持たずにいるのは難しい。たとえば、「Wounded Soldier」はすごくパーソナルな曲だと思う。ポールの人生についての歌ではないけど、特に歌詞の面ですごく残酷な曲だと思うんだ。詳しく話していいか彼に確認しなきゃいけない部分もあるけど、戦争についての、かなりはっきりした主張になってる。政治的だと思える歌詞は確かにあるし、そういう歌詞が、世界で起きている何らかの政治的な傾向や行動を示唆してるって結論づけても、間違いではないと思うよ。

―ストロークスがコーチェラでのライブの最後に、アメリカの戦争犯罪を糾弾する映像を流したことは、どのように感じましたか?

ダニエル:その映像は見てないんだ。あの夜、彼らのショーは少し観た。自分たちの出番がその夜あったから、客席にいたんだけどね。僕が観た限りでは、ライブはすごく良かった。でも最後までは観てなくて、(映像については)話だけ聞いたんだ。だから彼らがとった行動については、見てないから語れないけど、すごく大きな世界的反響があったみたいだね。今こうして話してるくらいだし、本当に響いたんだと思う。聞いた限り、みんなポジティブに受け止めたみたいだし、大きな爪痕を残したのは確かだと思う。

―今作にインスピレーションを与えたアーティストや作品は、何かあったのでしょうか?

ダニエル:正直、どのアーティストも答えられない。たぶん、十分に音楽を聴けてないんだと思う。今日みたいに、街を歩きながら曲を聴くときも、自分の作品──今回のアルバムじゃなくて、ちょっとしたアイデアを聴いてることが多いんだ。このレコードを作ってる間も、自分たちが書いてるものばかり聴いていたし。そこに全神経を集中させてるんだよ。良くも悪くも、いつもそうで。でも、自分にとって一番の影響源は映画かな。家にいるときはほぼ毎日1本映画を観るよ。何かを書くためにね。今作の曲は、ピアノの曲を除いて全部、映画を見ながらギターを弾いて、それを録音するところから始まってる。具体的にどの映画とは言えないけど、映画という表現形態そのものが、自分にとって一番の影響源なのは間違いないね。

―このアルバムを書いているときは、どんな映画を観ていたんですか?

ダニエル:とっさには思い出せないな、ごめん。でも自分にとっては、感情的な側面を持った映画じゃなきゃいけなくて。自分自身のことを考えるのをやめさせてくれるようなものじゃなきゃいけない。自分について考えるのをやめて、ただギターを弾き始める。そうすると、いつの間にか映画を見ていなくなっていて、ギターを弾きながら何が起きてるか、ということの方に興味が向いてる。もし、(何も見ずに)ただ座って曲を書こうとしたら、自分に意識が向きすぎてしまう。自分がどこか別の場所に行くための道具みたいな役割が必要で、映画を見ることで、それがいつもうまくいくんだ。10代の頃からこれをやってて、今でも10代の時と同じくらい、やっていて楽しいよ。

―なるほど。面白いですし、理に適った作り方だと感じます。

ダニエル:朝起きてまずやるのは、映画を再生して、コーヒーを飲んで、14歳の時に母親がくれたクラシックギターを弾くこと。ひどいギターなんだけど、それでいい音を出せれば、バンドで演って、壮大な音が出せる録音スタジオでなら、もっといい音を出せるってわかるから。だから自分にとっては、そのギターでまずいい曲かどうかを見極めるんだ。映画を見ながら何か思いついた瞬間ほど、いい気分になることはないよ。「これだ!」って感じる瞬間は、恋に落ちるみたいなものでね。子供の頃と同じくらい、今でも大好きなんだ。映画を見ながら適当に弾いてて、もし自分が弾いてるものに興味が向いたら、映画を一時停止して、そっちに集中するんだけど、そういう録音が何千とあるんだよ。本当に終わりなく続くんだ(と言って、スマホに録音された無数の音源データを見せる)。

―うわっ、すごいですね。ちなみに、一番好きな映画は?

ダニエル:それもまた答えるのが難しい質問だね。でも小津安二郎の映画は大好きだよ。美しい映画で、本当に感情に響く映画だから。

ソンバーら次世代との共鳴

―少し話題を変えますが、ソンバーのようにあなたたちを敬愛する若い世代のポップスターが登場したり、ザ・デアのようにゼロ年代インディへの憧憬を隠さない新しいインディアーティストが出てきたりするなど、若い世代からの注目が再び高まっていることはどのように感じていますか?

ダニエル:すごいことだと思う。すごく光栄なことだし、名誉なことだよ。次世代の、自分たちの1stアルバムが出た時にまだ生まれてもいなかったような人たちが、そういう影響を受けてるっていうのは、決して当たり前のことじゃないと思ってる。そう言ってもらえるのは本当に嬉しい。それとは別に、単純に、インターポールのコンサートで、1stや2ndアルバムが出た時にはまだ生まれてなかった人たちが、あんなに熱く歌詞を歌ってるのを見ると信じられないって思う。1stを出した時には夢にも思わなかったことだよ。本当に美しいことだと思う。

―ソンバーやオリヴィア・ロドリゴのようにインディロックを取り入れるポップスターが人気を博すなど、一昔前と比べると、ヒットチャートにロックのサウンドがだいぶ戻ってきたように感じます。また、ギースのように、注目を集める新世代のバンドも出てきました。全般的にロックへの注目度が高まっているように思いますが、そういった状況はどのように捉えていますか?

ダニエル:専門家じゃないから詳しくはわからないけど、そういう流れはあるように感じる。ギースの成功は凄くいい話だと思う。彼らは本当に素晴らしいミュージシャンで、実際に楽器も弾ける。しかも、若いのに、多くのことをやり遂げてる。長くバンドをやってきてるし、見ていてもクールなことだと思う。彼らは若い客層にも年上の客層にも、両方と強いつながりを持ってるよね。まあ、「ロックは死んだ」というのは、ずっと言われ続けてるんだ。90年代でさえ、プロディジーとかケミカル・ブラザーズがすごく人気になった時も、みんな「もうロックは終わりだ」と言っていたし。

―ええ、確かに(笑)。

ダニエル:ある種、巡り巡るものなんだと思う。でも何がクールかって、今の時代、周りにこれだけテクノロジーがあって、限られた努力で何でもできてしまう時代だからこそ、特に若い人にとって、自分を追い込んで、練習して、時間をかけて、焦らずに何が起こるか見てみる、っていうのはいいことだと思う。ソングライティングにしたって、一晩でうまくなるものじゃないから。5年でも足りないかもしれない、15年かかるかもしれない。あるいは2年で名曲が書けるかもしれない。いずれにしても、みんなが十分な時間をかけて何かを達成することはいいことだと思うし、それが誰かに楽器を手に取らせるきっかけになるかもしれない。ロックのためになるからっていうよりも、自分自身のために、自分に何ができるか試してみる、という意味でもいいことだと思う。自分でも驚くかもしれない。曲を書けるかどうか試してみたら、素晴らしい表現手段だと気づくかもしれないからね。

―今あなたが共感できる、もしくは刺激を受ける同時代のアーティストを挙げるとすれば、誰になりますか?

ダニエル:正直な話、ちょっと最近の音楽には疎いんだ。しかも、新しい音楽を作ってる時は、他のものを全然聴かないし。君の質問をはぐらかしてるわけじゃなくて、それが正直な答えなんだ。自分が何を聴いているか、Spotifyを確認してみたい誘惑もあるけど(笑)。

―確認してくださいよ(笑)。

ダニエル:でも一つ、最近一緒にツアーをやったバンドで、すごくいいバンドがいた。彼らの録音した音楽もいいんだけど、ライブが信じられないくらいいい。モデル/アクトレス(

Model/Actriz)っていうニューヨークのバンドなんだけど、本当にセンセーショナルなんだ。コーチェラの週末の間に、彼らと何本かライブで一緒になったんだけど、彼らを見てると、自分も早く演奏したくなるね。それが自分にとって、いつも「いいバンド」の基準なんだ。一緒にツアーしているバンドで、ライブを見た時に、「自分たちも出番が待ちきれない。早く演奏したい」って思わせてくれるバンド。モデル/アクトレスは本当にエキサイティングなバンドだ。もし日本に来ることがあれば、強くお勧めするよ。本当に楽しいバンドだから。

―では最後に、『This Mirror Weighs a Ton』は自分たちのどんな側面、あるいはどんな時期をキャプチャーしたアルバムだと思うか、改めて訊かせてください。

ダニエル:インターポールのロックンロール的な精神を持った曲、という意味でインターポールらしい曲もあるんだけど、もっと多面的というか、多彩さがあると思う。サウンド的にもっと広がりがある。間違いなく成長と前進だと言える。今のバンドをそのまま捉えたもの、ではある。それに、もし何か早急に伝えたいものがなければ、このアルバムは作らなかったと思う。あれだけ長いツアー、つまりインターポールの歴史の中で一番長いツアーサイクルだったんだけど、その直後に、これだけ早く作ったっていう事実もそうだし、それでも準備ができてて、やりたくてたまらなかったっていうのが、全てを物語ってると思う。今でもバンドとして強い化学反応があるからこうしてるんだし、一緒に音楽を作りたいという強い欲求がまだあると感じる。それがある限り、続けていくよ。曲を書くときは、濃密で情熱的なものを感じるし、そうじゃなきゃいけない。今作には本当にそれが全部詰まってる気がする。聴いてもらえば、間違いなくその熱量を感じてもらえると思う。すごく誇りに思ってるよ。

インターポール

『This Mirror Weighs a Ton』

発売中

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