「179の自治体に179の課題がある」といわれる北海道。人口減少が進むなか、広大な地域には交通、獣害、医療・福祉、産業の継承など、多種多様な地域課題が存在する。

こうした課題をデジタル技術で解決しようと、北海道庁が開催しているのが地域課題解決型ピッチイベント「UPDATE 179」だ。課題解決につながるソリューションを持つ企業と道内自治体をつなぎ、対話やマッチングを通じて実証、さらには地域への実装につなげることを目指している。

3回目となる今回は、医療MaaSやAIを活用したヒグマ対策、水道管の劣化診断などを手掛ける道内外14社が登壇。さらに、自治体と企業が直接対話する「共創ミートアップ」も初めて独立したプログラムとして設けられた。2026年7月31日、札幌市のHooK EVENT LOUNGEで開催されたUPDATE 179から、北海道の地域DXを大きく前進させる取り組みをレポートする。

  • UPDATE 179の会場となった、2026年夏開業のスタートアップ拠点「HooK」

    UPDATE 179の会場となった、2026年夏開業のスタートアップ拠点「HooK」

3回目で初めて“共創”に向けた交流プログラムを実施

プログラムは「第1部・地域課題解決型ピッチ」「第2部・共創ミートアップ」の2部構成。第1部は企業が自社のソリューションについて5分程度のプレゼンテーション(ピッチ)を行い、その後に司会者から投げられる質問に答えるスタイルで進行した。ピッチに登壇したのは道内外14社で、ソリューション分野は保健・福祉、交通、鳥獣対策、一次産業、地域創生、暮らし、インフラと多岐にわたっていた。

第2部では、各企業のピッチに興味を持った自治体がその企業と自由に交流し、自治体が抱える課題の相談や情報交換を行う。前回も同様の場がピッチと同時進行で設けられたが、他のピッチも聴きたいとの要望に応え、今回は独立したプログラムとして前半のピッチと分けて設定された。

また1部と2部の間には、これまでのUPDATE 179等の取り組みを機に企業と自治体のマッチングが行われた事例について、双方の担当者が取り組みを紹介するトークセッション「マッチング事例に学ぶ地域のDX」も開催された。

自治体は現地参加に加えてオンラインでもピッチを視聴。各企業のピッチ後はその都度スマートフォン等から「もっと話をきいてみたい!」「また次の機会に!」の2択で答えるアンケートが実施された。ちなみに、市町村および地域関係者の参加者は会場とオンラインを合わせて約200人だった。

医療MaaSからAIヒグマ対策まで、北海道の課題に挑む14社

まずは事業主体となる北海道経済部の青山大介氏が登壇し、「北海道は課題の先進地といわれますが、裏を返せば日本の未来を切り開く可能性が高い地域だと考えています。新しい技術をアップデートし、現場で実証して社会実装につなげ、地域の課題を解決していくことが大事です」と挨拶を行った。

  • 冒頭、挨拶を行った北海道経済部 次世代社会戦略監 青山大介氏

    冒頭、挨拶を行った北海道経済部 次世代社会戦略監 青山大介氏

続いて、第1部の地域課題解決型ピッチがスタート。14社のピッチでは、北海道が直面する地域課題の幅広さを映すように、多様なソリューションが披露された。

MONET Technologiesは、医師と患者をオンラインで接続し、患者の自宅を訪れる車に看護師が同乗して検査や処置を実施する医療MaaSのソリューションを紹介した。同ソリューションはすでに網走市で導入され、今年度から周辺自治体での広域利用の試行も始まっている。

NTTドコモビジネスは「見つける・知らせる・近づけない 共存型熊対策」と題して、通信やドローン、AI、管理システム等を活用した、監視から追い払い・初動探索、関係者間の情報共有、定期巡回、市民への出没周知まで一気通貫のヒグマ対策ソリューションを説明した。また同じくヒグマ対策では、酪農学園の認定ベンチャー企業であるインターリージョンが、GIS(地理情報システム)を利用してヒグマのゾーニング計画の策定を支援するソリューションを紹介していた。

NINAITEは、地域の働き手として期待される外国人雇用において手間となるビザ申請の手続きや管理、採用マッチング、定着支援をAIで支援するソリューションを解説。またFracta Japanは水道管の劣化をAIで診断して漏水確率を算出し、見える化するソリューションをプレゼンした。

  • 地域課題解決型ピッチの様子

    地域課題解決型ピッチの様子

1部と2部の間に行われたマッチング事例のトークセッションでは、幕別町とはんぽさきによる「地図情報アプリを活用した組織内情報の共有と可視化」、石狩市とCarbonNestによる「寒冷地におけるDACを活用した大気中からのCO2直接回収の実証実験」の2つの事例に関して、両自治体および両企業の担当者が「自治体と事業者が動き出した瞬間」「連携の中でぶつかった壁」の2つのテーマで語り合った。

  • 幕別町×はんぽさき、石狩市×CarbonNestの各担当者がマッチング事例を紹介するトークセッション

    幕別町×はんぽさき、石狩市×CarbonNestの各担当者がマッチング事例を紹介するトークセッション

第1部終了後、企業と自治体の次の対話につながる「もっと話をきいてみたい!」という回答は、計134票に達した。

  • ピッチ後は参加者がスマートフォン等から投票するアンケートが実施された

    ピッチ後は参加者がスマートフォン等から投票するアンケートが実施された

「知ってもらう」から「次のアクション」へ、UPDATE 179が目指す共創

イベント後、事業主体である北海道経済部で地域DX推進係長を務める森永陽一朗氏、同事業の委託事業者で事務局を務めるNTT MEの高橋裕太氏がインタビューに応じてくれた。

  • 左から、北海道経済部 AI・DX推進局 DX推進課 地域DX推進係長の森永陽一朗氏、NTT ME 北海道ブロック統括本部 テクニカルリレーション部門 エリアプロデュース担当課長の高橋裕太氏

    左から、北海道経済部 AI・DX推進局 DX推進課 地域DX推進係長の森永陽一朗氏、NTT ME 北海道ブロック統括本部 テクニカルリレーション部門 エリアプロデュース担当課長の高橋裕太氏

森永氏はデジタル技術の力を活用して道内市町村の地域課題を解決していく施策を推進する立場で、まずは「イベントが無事に進行して安心しました」と胸をなでおろしていた。

今回で3年目になるUPDATE 179の目的について、森永氏は次のように語った。

「北海道では全国を上回るスピードで人口減少や少子高齢化が進んでおり、さらにはこの広大な地域という特性も重なって、担い手不足や交通、医療の確保、防災、インフラの維持など多種多様な課題が存在します。ただ、一方では課題の解決につながるような、AIを含めた先進デジタル技術とそれを活かしたソリューションも次々と生まれています。UPDATE 179は企業の皆様に自社の技術やサービスを紹介いただくだけではなく、市町村をはじめとする地域の皆様と企業の皆様がこの場で直接対話し、地域の課題やニーズを共有して掘り下げ、新たな連携や実証実験、さらには地域社会への実装まで進むきっかけになることを目指し開催しています」

高橋氏もこう話す。

「市町村職員も、企業が提供するサービスを自分たちだけで調べるのはやはり限界がありますし、実際にどう探せばいいかわからない、アプローチの仕方がわからないという声もよく聞きます。その点、スタートアップから大企業までさまざまな企業のソリューションを知ることができ、さらにマッチングまで発展できるところが、このイベントの大きな意義だと考えています」

今回のUPDATE 179で重視されたのは、企業のソリューションを自治体に「知ってもらう」だけで終わらせず、その先の具体的なアクションにつなげることだ。そのため、企業と自治体が直接対話する共創ミートアップを独立したプログラムとして設けた。森永氏はその狙いを次のように説明する。

「昨年度までも、企業が持つソリューションを市町村に知っていただく機会としては大変好評で、効果もあったと思っていますが、今年はさらに地域が取り組む課題やニーズについて具体的に話し合っていただき、次のアクションにつながるきっかけづくりまでご支援したいと考え、ピッチ直後に直接対話できる共創ミートアップを設定しました」

  • ピッチ直後に直接対話できる共創ミートアップの様子

    ピッチ直後に直接対話できる共創ミートアップの様子

ピッチ後のアンケートは前年までも実施されたが、「興味ある」「興味なし」の2択だった。今年は「もっと話をきいてみたい!」「また次の機会に!」の2択に変更。この理由は「UPDATE 179はピッチを順位付けするコンテストではなく、できるだけ多くのマッチングにつなげようという場ですので、この場でより共創の芽が生まれやすい行動ベースの質問に発展させました」(森永氏)という。

また、マッチング事例をベースにしたトークセッションについては「初めてこのイベントに参加する方にも“イベントのその先”をイメージしていただくため、実証に結びつくまでのプロセスや苦労話、工夫などをお伝えするプログラムとして初めて設定しました」と森永氏は語る。

こうしたマッチングは、すでに具体的な成果にもつながっている。2025年度の同事業では、実証やその前段階となる覚書締結等に至った事例が12件生まれたという。そのトークセッションで森永氏は「事業者と自治体担当者の熱量や、実際の予算化につなげるまで共に悩んだ話」に最も注目したという。

生まれ始めた成果を今後さらにドライブするために

今回のUPDATE 179は、この夏に開業したばかりの新たなスタートアップ拠点・HooKが会場になった。ここで開催する意味について森永氏は「HooKでは、これからまさにスタートアップ企業や支援機関などさまざまなプレイヤーが自治体等と連携して共創を行い、新しい事業を生み出していきます。その意味で、HooKという場所はUPDATE 179のコンセプトとも非常に親和性が高いと考えています」と説明した。

NTT MEは、北海道からの委託を受け、共に事業を推進している。「具体的にはUPDATE 179の企画・運営・オンライン配信対応や登壇企業の調査・選定などを推進してきました。また、このイベント後も引き続き地域課題の解決に向け、マッチングの推進をサポートしていきます」と高橋氏。前年からUPDATE 179に関わっているが、この1年の変化として「市町村側の受け入れる意識、事業者側の市町村と共に活動していこうという意識は着実に高まっていると感じますし、実際に事例が生まれているように、良い取り組みとして発展しています」と話した。

今後について森永氏は次のように語る。

「これまでと同じ方法では地域の暮らしを支える行政サービスの維持が難しくなっています。これからも本イベントと事業を通じてマッチング事例を生み出し、さらには同様の課題を抱える道内他地域にも横展開したいと思っています。また、最後はやはり“人”ですので、地域へのデジタル技術の実装をコーディネートするキーパーソンの育成にも取り組んでいきたいと考えています」

「NTTグループとしても、道内外のネットワークを活かしながら北海道の地域課題解決につながる取り組みを引き続き実践していきます」と高橋氏。「併せて、この事業を通じて北海道は地域課題解決の取り組みが活発だというイメージを生み、他の地域でも『自分たちもできる』という意識や機運の醸成につなげていければと思います」と語った。