マクラーレンF1 GTRが約55億円!モントレー・カー・ウィークでのRMサザビーズオークションは凄まじかった

毎年8月、アメリカ・カリフォルニア州モントレーにて世界最大級のクラシックカーの祭典「モントレー・カー・ウィーク」が開催される。レース、コンクールデレガンス、コンセプトカー/新型車の発表、各種パーティ、そしてオークションからも目が離せない。世界最大級の祭典には世界各国からコレクターが集い、華々しいオークションが開催され、クラシックカー相場動向を伺い知ることができるからだ。

【画像】記録更新の嵐!モントレー・カー・ウィークでのRMサザビーズのクラシックカー/スーパーカー オークション(写真21点)

なかでもRMサザビーズへの注目度は高かった。さすがというか、やはりというか、総落札価格は同社史上最大規模に達した。38件のオークション落札価格記録が更新され、これまで公式記録が存在しなかった9モデルに新たなベンチマークが打ち立てられた。

そんなRMサザビーズのオークションにおいて最も注目されたのは1996年式マクラーレンF1 GTR(シャシー番号10R)である。10Rは1996年仕様として最初に製造された2台のショートテール・プロトタイプのうちの1台で、1995年のル・マン24時間を制した01Rの兄弟車にあたる。1999年からはピンク・フロイドのドラマー、ニック・メイソンが25年にわたり所有していたことでも知られる特別な一台だ。

実はこの車、過去に2度のクラッシュを経験している。通常、修復歴はオークションにおいて評価を損なう要因になり得る。しかし当該車両、いずれの事故もマクラーレン専門のレストア工房による丁寧な修復が施されており、レース由来の希少なプロトタイプという圧倒的な希少性と来歴により、落札価格への影響は皆無だった。

マクラーレンF1系の相場は、この10年余りで劇的な上昇を遂げてきた。2014年1月、アメリカ・アリゾナ州スコッツデールで開催されたグッディング・クリスティーズのオークションにおいて、1997年式マクラーレンF1 GTRロングテールが528万ドルで落札された。これがレース仕様「F1 GTR」単体としては長らく最高額として君臨する記録となった。

その後、ロードカー版(量産公道仕様)のF1も着実に値を上げていく。2015年8月、RMサザビーズのモントレー・オークションでは、LMエンジンを搭載した1998年式F1(シャシー番号073)が1,375万ドルで落札。さらに2019年8月、同じくRMサザビーズのモントレーにて、1994年式のLMスペック(シャシ―番号018)が1,980万5000ドルまで落札価格を伸ばした。

2021年8月には、グッディング・アンド・カンパニーがペブルビーチで開催したオークションで、1995年式F1(シャシー番号029)が2,046万5000ドルを記録。そして2025年12月、舞台はアブダビへと移り、ブルネイ王室が旧蔵していた1994年式F1(シャシー番号014)が、RMサザビーズの手により2,531万7500ドルに達した。

そして10Rは3,465万5000ドル(約55億円!)という落札価格をつけ、レース仕様としての旧落札記録(528万ドル)はもちろん、8カ月前にアブダビで樹立されたばかりのロードカー版の最高額記録をもあっさり上回ってみせた。マクラーレンF1として、そしてイギリス車として史上最高額のオークション記録となった。

もっとも、この夜に記録を打ち立てたのはマクラーレンだけではない。アメリカを代表するスポーツカーにも”歴史的な夜”が待っていた。同じ土曜の夜、1963年式シボレー・コルベット・グランドスポーツが1,870万5000ドルで落札され、コルベット史上最高額のオークション記録を樹立。そして夜のクライマックスを飾ったのが、全額チャリティに充てられた2026年式フェラーリ・ルーチェ「テーラーメイド」だ。

事前の予想落札価格は110万ドル程度とされていたが落札価格は4,000万ドル(約63.5億円!!)に達し、新車として史上最高額のオークション記録を樹立した。落札したのは米国の富豪ハーバート・A・ワーサイム氏。収益はすべて、教育プログラムやコミュニティ事業を支援する公益法人「フェラーリ財団」に寄付される。

興味深いのは、ワーサイム氏がこのフェラーリ財団向けチャリティオークションにおいて、これで2年連続の高額落札者になったという点だ。同氏は前年にも、ワンオフのフェラーリ・デイトナSP3を同じくフェラーリ財団のために2,600万ドルで落札しており、2件のチャリティ落札だけで合計6,600万ドルを投じたことになる。フェラーリにおけるVVIPリスト入りは間違いないだろう。

3日間にわたって開催されたRMサザビーズのオークションでは、そのほかのフェラーリも高値で落札された。1995年式フェラーリF50が1,210万5000ドル、1985年式フェラーリ288 GTOが1,155万5000ドル(旧記録1,091万4012ドルを更新)、2003年式フェラーリ・エンツォが941万ドル、2015年式フェラーリ・ラ フェラーリが869万5000ドル(旧記録858万ドルを更新)、1991年式フェラーリF40が836万5000ドル(旧記録660万ドルを更新)と、いずれも堂々たる結果を残した。なかでも2023年式フェラーリ・デイトナSP3は1,782万5000ドルで落札され、非チャリティ枠としては旧落札価格記録726万5250ドルを大幅に更新した。

もちろん、落札価格の記録更新は”モダン”カーだけにとどまらない。1935年式デューセンバーグ・モデルJNコンバーチブル・クーペ(ロールストン、ボーマン&シュワルツ製ボディ)は往年の名優、クラーク・ゲーブルが所有していたことでも知られる1台で908万ドルにて落札された。旧落札記録59万4000ドルから、実に15倍以上という跳躍を見せた。1937年式ドラージュD8-120Sエアロダイナミック・クーペ(プールトゥー製ボディ)も578万ドルと、クラシカルかつレアなフランス車の底堅い人気ぶりを誇った。

新しめのハイパーカーも落札価格の記録更新が相次いだ。2024年式パガーニ・ウアイラ・ロードスター「エグゼキューター」が803万5000ドル、1989年式ポルシェ959スポーツが704万5000ドル、2024年式フェラーリ812コンペティツィオーネA「テーラーメイド」が484万5000ドルと、いずれも旧落札記録を数百万ドル単位で塗り替えている。

今回のオークションには39カ国から入札者が参加し、出品車両の90%が成約に至った。100万ドル超で落札された車両は69台、500万ドル超が14台、1,000万ドル超が6台、そして3,000万ドル超は2台のみという結果である。モントレーでのRMサザビーズのオークション結果が示したのは、「クラシックカー相場は少なくとも2026年時点では安泰」というシンプルな事実だ。

世界の経済情勢に目を向けてみると、金融緩和策の影響で未だに富裕層の間で局所的な金余りが起きているのか、忍び寄るインフレに備えた現物投資が静かに活性化しているのか、と穿った見方をしたくもなる。それほどの規模の資金がこの3日間で動いたことは間違いない。

真相がなんであれ、確かなのはこの一点だ。「希少性、来歴、そして物語性を兼ね備えた車に対して、資金は惜しまない」、そんな買い手の姿勢が、2026年のモントレーで改めて証明された。

文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)