【オールド・タイマー 209号[2026年8月号]】 極東開発工業70周年 オート三輪再生の軌跡 DAIHATSU CO10D 〈1964〉 荷台の板金作業編

オールド・タイマー207号の「気になるレストア1」で展開した、極東開発工業のオート三輪レストアプロジェクト。こちらは同社の70周年記念事業の目玉企画であり、本誌ではその発端や経緯、完成した車両の姿を掲載した。ここでは、あらためて同社内で行われたレストアの工程を紹介する。

ないないづくしの修復

極東開発工業がレストアしたダイハツCO10Dは、オート三輪の新車シャシーに油圧昇降型のダンプ荷台を架装したものである。架装とはいえワンオフの特注車両ではなく、れっきとしたダイハツのカタログモデルだった。当時の架装メーカー数社が、ダイハツから指示された仕様に基づきダンプ荷台を製造・架装しており、極東開発工業はそのなかの1社だったということになる。

今回レストアされたCO10Dは、荷台に残る銘板から極東開発工業で製造されたものと判明しており、これが70周年記念事業に取り入れられる決め手となった。車両本体のレストアは専門業者に任せることになったが、かつて自社で製造した荷台部分のレストアは、同社の社員が行うことに決めたのである。

極東開発工業に搬入されたCO10Dは、長年にわたる酷使と風雨にさらされた影響で、キャビンや荷台はひどく腐食が進んでいた。当時はまだ防錆鋼板の採用が進んでいなかったことも原因で、特に砕石などでキズのつきやすいダンプトラックは、サビ始めると進行が早い。

今回、荷台の修復作業をおもに担当したのが、極東開発工業の三木工場(兵庫県)を拠点とする「開発部試作課」。ふだんは新製品の開発に伴い、必要となる部品などの試作・製作を担う。鉄板を切る、曲げる、溶接するを日常的に行っており、まだ存在しないものを図面から作り出すことは得意分野。難しい板金加工が予想される作業には同課が適任と思われた。

●極東開発工業の営業マンが九州地区某所で発見したダイハツCO10D。三木工場に運び込まれたのは2023年5月のことである。現車はダンプトラックで、荷台には当時の社名である「極東開発機械工業」の銘板がしっかりと残っていた

●ベース車から外された荷台のサイドゲート。写真ではわからないが下部を中心に腐食がひどく、再生は困難と思われた。写真はロック機構を再使用するため、パネルを切断しているところ

●テールゲートの腐食は比較的少なく、再使用することに決定。ただし曲がりとゆがみがひどく、定盤となる架台に置いて万力で押さえるなどして修正した。この作業には、溶接ゆがみを修正するふだんの技術が活かされたという

スキルを活かす再生作業

だが、工場に運び込まれた現物を前に、開発部試作課の河上佳賢さんや山下恵さんは大いに悩むことになる。そもそもレストアは本業ではなく、どうやって直すかを判断するための経験値に乏しい。そこで、レストア作業は通常業務の延長線上にあると考え、持てるスキルを活かしつつ、“自分たちにできるレストア”を考え抜いたという。結果、当時稼働していた痕跡を残すため、使えるところは使いながら、不足する部品、サビがひどい部品を新規製作する方針が決定した。

とはいえ、じつは図面もなかった。1995(平成7)年の阪神・淡路大震災の際、当時の図面を保管していた本社工場内(兵庫県西宮市)の倉庫が倒壊し、その後の降雨も重なって図面そのものが失われてしまっていたのだ。ある程度、現物から図面を起こすこともできるだろうが、欠損部分やゆがんだ部分は難しい。

そこでほかの国内拠点を当たってみたところ、横浜工場にほぼ同じ仕様の図面が残されていることが判明。それを活用することで、ある程度は修復への道筋をつけることができた。

かくして、先人たちの創意と工夫をたどる修復作業が始まったのだった。

●横浜工場に残されていた当時の図面(型番DR2-11S)。描かれるのはいすゞの二代目エルフで、シャシー側との結合部など細部の違いはあるが、基本設計はCO10D用と共通する。このほか、部品ごとの図面があり復元に役立った

●コピー荒れのため判読しづらいが、サイドゲート部の図面。鉄板の厚み(2.3トン)、曲げ部分の寸法やアールを知ることができた。メインとなるパネルは、現行品にはない10回曲げという複雑さ。これには福岡工場の設備が対応できた

●テールゲート下の荷台と一体構造のテールパネルは、サビもさることながら往時の働きぶりをしのばせるゆがみがひどかった。「できるだけ元の部品を使う」方針に基づき、修正を試みる

●テールパネルは薄い鉄板(2.3トン)で出来ている。シャコ万と当て金を駆使し、ガス溶接のトーチであぶりながら修正を繰り返した。作業前と比較し、ラインがストレートになりつつあるのがわかる

●荷台のデッキ(底面パネル)は腐食とゆがみで再使用を断念。溶接部をはがし、欠損のない骨組みのみサビを落として再生する。工場にレストア用の道具はなく、サンダーなどを使い、地道に作業した

●後輪フェンダーは先端部に腐食による欠損が見られ、一部はゆがみも激しいため4枚すべてを作り直すことになった。写真は製作途中で、さらに補強パネルが接合される。こうした板金はお手のものだ

●(写真上→下)ゲートを固定する柱の、腐食した部分に新規の鉄板を切り継いだ。つまり世間のレストアと同じ手法である。鉄板の加工、溶接は開発部試作課の得意分野。これまでの業務で培った技術が、そのままレストアに転用できたわけだ

●サビを落とした荷台裏の骨組みを、新規に製作したデッキパネルに溶接。使った材料は図面に従い、当時と同じSPHC(熱間圧延鋼板)である。ヒンジの位置など、ダンプ荷台の構造がよくわかる

●だいぶ形になってきた。複製部品は、福岡工場内にある「プレスブレーキ」という機械で鉄板を曲げて溶接組み立てをした。図面の項でも触れたように曲げ回数が多く、正しい工程を踏まなければ作ることができない

●写真は荷台前方、サイドゲートのロック機構のツメが入る穴を加工しているところ。ロックがかかりやすいよう、あぶりながら形状を整える職人芸の世界だ。赤茶色の塗装は、製缶(パネルの組み立て)後に塗られるサビ止め

●美しくよみがえった三方開きの荷台。左右の固定柱、テールパネルなどに往時の痕跡がわずかに見て取れる。新規製作したサイドゲートも完璧な出来栄え。キャビンと同色の仕上げは、レストア専門店で調色した塗料を使い、三木工場で塗装を施している

〈文=神山雅道(オールド・タイマー編集部)〉

〈写真=極東開発工業/岡 拓〉

〈取材協力= 極東開発工業