夏休みの旅行や帰省の際に、頭痛薬や胃腸薬、酔い止めなどを持ち歩く人も多いのではないでしょうか。薬を飲んだ後、空になったおくすりシートは、そのままゴミ箱へ――という人がほとんどだと思います。
実はそのおくすりシート、リサイクルしやすいとはいえない存在です。そんな中、使用済みのおくすりシートを新たな資源として活用しようという取り組みが広がっています。
今回は、意外と知らないリサイクルの仕組みとともに、おくすりシートの新たな可能性について紹介します。
おくすりシートはなぜリサイクルが難しい?
医薬品の包装として使用される「おくすりシート(PTP包装)」は、プラスチックとアルミニウムからなる複合素材です。そのため、素材の分離が難しく、これまでは焼却やサーマルリサイクルが中心でした。
こうした背景から、おくすりシートをどのように再資源化するかは、長年の課題の一つとなっていました。
そもそもリサイクルには3つの方法がある
「リサイクル」という言葉自体は聞いたことがあっても、それが実際にどのような方法で行われているのかまでは意識したことがない人も多いかもしれません。
実はリサイクルには、大きく分けて3つの方法があります。
1.マテリアルリサイクル
廃棄物を粉砕したり溶かしたりして、新たな製品として再生する方法。ペットボトルを新たなボトルに再生したり、アルミ缶をアルミ製品として活用したりするケースが代表例です。
2.ケミカルリサイクル
廃棄物を化学的に分解し、化学原料として再利用する方法。脱炭素社会の実現に向けた技術としても注目されています。
3.サーマルリサイクル
廃棄物を燃やした際に発生する熱エネルギーを発電などに利用する方法。現在、日本で最も多く採用されているリサイクル方法でもあります。一方で、燃焼時にはCO₂が発生することから、近年はサーマルリサイクル以外の選択肢にも関心が高まっています。
日本の廃プラスチックの多くは「燃やして活用」
「資源ごみとして出せば、新しい製品として生まれ変わる」と考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし、2024年の日本の廃プラスチック処理実態を見ると、有効利用率は89%と高い一方、その内訳はサーマルリサイクルが67%、マテリアルリサイクルが20%、ケミカルリサイクルが3%となっています。
つまり、多くの廃プラスチックは新たな製品として再利用されるのではなく、熱エネルギーとして活用されているのが現状です。
こうした背景もあり、化学原料として再利用できるケミカルリサイクルには大きな期待が寄せられています。
おくすりシートに新たな再生ルート
こうした中、おくすりシートの新たな再資源化に取り組んでいるのが第一三共ヘルスケアです。
同社は2022年から横浜市で「おくすりシート リサイクルプログラム」を開始しました。2025年には東京都東大和市にも取り組みを拡大しており、生活者参加型のおくすりシートリサイクルプログラムとしては日本初の取り組みだといいます。
これまで回収したおくすりシートは、トレーやボールペン、ベンチなどへ再生するマテリアルリサイクルに活用されてきました。
さらに今回、JFEエンジニアリングの廃棄物ガス化技術「C-PhoeniX Process」を適用したケミカルリサイクルの実証試験を実施。使用済みのおくすりシートに含まれるプラスチック部分をガス化し、化学品原料となる合成ガスの安定生成に成功したと発表しました。
今回の取り組みは、おくすりシートに新たな再生ルートが開かれる可能性を示したものといえそうです。
おくすりシートはどのように生まれ変わるのか
今回の実証試験では、回収したおくすりシートなどの使用済みプラスチックに対し、JFEエンジニアリングの廃棄物ガス化技術「C-PhoeniX Process」を適用したところ、水素(H₂)や一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO₂)などを含む合成ガスの生成に成功したといいます。 さらに、この合成ガスからメタノールやエタノールを生成し、将来的にはプラスチック原料として活用できる可能性があるそうです。
おくすりシートを回収
↓
ガス化して合成ガスを生成
↓
化学原料へ転換
↓
新たなプラスチック原料として活用する
という循環が実現すれば、これまでとは異なる再生ルートが生まれることになります。
現在は小規模スケールでの実証段階ですが、今後は2031年3月を目途に大規模スケールでの実証試験完了が予定されているそうです。
普段は何気なく捨てているおくすりシートの裏側で、新たな資源として活用するための技術開発が進んでいます。
次に薬を飲み終えたとき、手元に残ったおくすりシートが将来は新たな資源として循環していくかもしれません。


