MILLENNIUM PARADE「Blue」徹底解説 常田大希、Saya Gray、Daniel Caesarの邂逅が描き出す新たな地平

MILLENNIUM PARADEによる約2年ぶりの新曲「Blue」が配信開始となった。放送が始まったTVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』では、King Gnuの新曲「GO GHOST」がオープニング・テーマに、この「Blue」がエンディング・テーマに起用されており、本稿で取り上げる「Blue」にはサヤ・グレー(Saya Gray)、ダニエル・シーザー(Daniel Caesar)という2人の世界的アーティストがフィーチャーされている。

「Blue」が使用されている『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』ノンクレジットエンディング映像

「Blue」に至る3人の出会い

常田大希は「Blue」について、「3年前にサヤとスタジオに入って作ったこの曲に、旅先で出会ったダニーも参加してくれることになり完成を迎えた」とコメントを寄せている。

熱心なファンや洋楽リスナーの間で、かねてよりこの三者の交流は注目されていた。当時のSNS投稿はすでに削除されているため正確な時期は定かではないものの、最初に交流が明らかになったのは2023年3月。ダニエルのTikTokに常田が登場し、一緒にギターをかき鳴らす動画が投稿されたのがきっかけだった。その後、同年8月にも常田のスタジオで共同レコーディングを行う光景が投稿され、常田もインスタライブでその旨を公表。さらに同年12月には、来日公演のため日本を訪れていたダニエルに加えて、サヤも交えてセッションする様子を常田がInstagramのストーリーズに投稿していた。

翌2024年5月、イギリスの音楽メディア・NMEに掲載されたKing Gnuのインタビューで、ダニエルとのスタジオ入りについて尋ねられた常田はこのように回答している。

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常田:ダニエルのバンドでベースを弾いているサヤ・グレーというミュージシャンがいるんですけど、彼女を通じて知り合いました。一緒に3曲ほど制作したので、近い将来にリリースされる予定です。(※筆者訳)

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日本人の母親とカナダ人の父親のもと、トロントで生まれ育ったサヤは、The 1975やリナ・サワヤマ、ビーバドゥービーらを擁するレーベル〈Dirty Hit〉の大型新人として2022年に来日。筆者がそのとき行ったインタビューで、彼女はMILLENNIUM PARADEと常田大希が好きだと語っていたが、おそらくその後すぐに知り合う機会があったのだろう。のちに彼女は「大希は母のお気に入りアーティストの一人なんです」とも教えてくれた。

その後、サヤは2025年発表のデビューアルバム『SAYA』の制作にあたり、2023年の秋に3カ月をかけて日本全国を巡るロードトリップへと旅立った。三味線奏者だったという曾祖母の故郷・静岡や京都などに足を運んだほか、短い期間ながら東京にも滞在し、その際にもMILLENNIUM PARADEの制作に参加したそうだ。『SAYA』リリース時に実施した2度目のインタビューで、彼女は常田へのシンパシーについてこう語っていた。

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サヤ:彼と出会ってから一緒に曲を作って、誰に参加してもらおうか話し合っていたときに「ダニエルなんてどう?」と私が提案して。ダニエルとは長い付き合いで、何年も彼のバンドでベースを弾いてきたから。それで彼を紹介したらファッション、アート、カルチャー……夢中になっているものが似ているから2人は意気投合して。で、一緒に何かやることになって。

大希は東京のカルチャーのハブみたいな存在だと思っているし、西洋のアーティストとコラボするのは素晴らしいことですよね。そろそろ世界に知られるべき時が来ている。大希も(サヤと同様)完全な自己プロデュース型で、同じ「言語」を話す……何となくわかるんです、彼の言いたいことが。彼もいろんな楽器を演奏するし、何でもやるから、出会ったときも「うわぁ、自分とすごく似ている」っていろんな意味で感じて。彼はすごく謙虚で、才能に溢れているから、いい意味で自分の尻を叩かれる気がするんです。

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「Blue」のレコーディングは、LAにあるダニエルのスタジオと東京の2拠点で進められ、セッションの模様は常田のInstagramで公開されている。和やかに談笑する一方で、シリアスに意見を交わし、真摯に演奏に取り組む姿からも、常田、サヤ、ダニエルの3人が国境を越えて共鳴し、刺激を与え合っているのが伝わってくる。

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ダニエルとサヤ、交差する2人の歩みとルーツ

ダニエル・シーザーとサヤ・グレーは、共にカナダ出身の1995年生まれ。先述したNMEのインタビューでも常田が言及しているように、サヤはシンガーソングライターとしてソロ活動を本格化させる以前、ダニエルのツアーバンドにベーシストとして参加し、2019年にダニエルがフジロックに出演した際もステージに立っている。

サヤ・グレーがベーシストとして参加した、ダニエル・シーザーの「Tiny Desk Concert」パフォーマンス(2018年)

ダニエル・シーザーはR&Bの未来を切り拓くシンガーソングライターとして、20代前半からシーンにその名を轟かせてきた。出世作となった2017年のデビューアルバム『Freudian』はグラミー賞3部門にノミネートされ、収録曲「Best Part」で最優秀R&Bパフォーマンス賞を受賞。2021年にはジャスティン・ビーバーの「Peaches」に客演として迎えられ、全米シングルチャート1位を獲得している。2025年の4thアルバム『Son of Spergy』では、キャリア最高位となるビルボードR&Bアルバムチャート1位を達成したほか、「カナダ版グラミー賞」と称されるジュノー賞で最優秀ソングライター賞に輝いており、名実ともにカナダの今を象徴するアーティストだ。

彼を唯一無二たらしめるもの、それはゴスペルをルーツに持つ「祈り」の歌声だ。牧師にしてゴスペルシンガーでもあったという父のもと、厳格なキリスト教徒として育った彼は、パワフルな熱唱とは真逆の、つぶやくように穏やかで内省的なトーンを体得していった。サンファやボン・イヴェールらが参加した最新作『Son of Spergy』ではゴスペルを再探訪しており、そこで際立っているボーカルの親密さは、今回の新曲「Blue」の空気感にもそのまま息づいている。

かたや音楽一家に育ったサヤは、幼い頃から兄と共にさまざまな楽器を習得。教会でセッションを重ね、ジャズシーンにも出入りするようになると、やがてベーシストとして世界中をツアーで回るほどの腕前を磨き、本人いわく「遊牧民のような」日々を過ごしてきた。好きなベーシストにジャコ・パストリアスや(新井和輝と同じく)デリック・ホッジなどを挙げる彼女の実力は折り紙付き。ダニエル・シーザーのツアーを支えてきたほか、ウィロー・スミスのバンドで音楽監督を務めたこともある。

しかしサヤはその裏で、ミックスルーツの女性として差別を経験し、日本人でも白人でもない「はぐれ者」としての孤独を抱え続けてきた。そうしたパーソナルな葛藤こそが、彼女をシンガーソングライターへと突き動かす原動力となる。断片的なコラージュアートを展開した初期作を経て、デビューアルバム『SAYA』では剛健なバンドアンサンブルを構築しつつ、同郷の大先輩であるジョニ・ミッチェルの影響をにじませたメロディアスなフォークにアプローチ。より洗練されたソングライティングを推し進めている(これは余談だが、ジョニの代表作として名高い1971年の名盤といえば『Blue』だ)。

さらに、彼女はみずからを「ボーカルの振付師」と形容しているように、自身の声を楽器の一種として扱い、ハーモニーを重ねたり、エフェクティブに音響加工を施したりすることも得意としている。そういったサヤとダニエルの持ち味を踏まえたうえで、改めて「Blue」を聴き直すと、両者の魅力を引き出しつつ、そこに常田とMILLENNIUM PARADEのカラーが絶妙なバランスで融合していることがよくわかるだろう。

「Blue」が描き出す新たな地平

2024年の改名以降、MILLENNIUM PARADEは「GOLDENWEEK」「M4D LUV」といったダンストラックを経て、「KIZAO」ではラウ・アレハンドロやタイニーという現代ラテンシーンの巨頭たちとタッグを組み、レゲトンとシティポップの野心的な融合を標榜していた。そこから久々のリリースとなった「Blue」は、その頃のダンサブルな作風とは明らかに毛色が違う。どちらかといえば、今では「ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ」という表記になった旧時代のサウンドを、当時よりはるかに精緻で風通しのよいプロダクションで昇華させているようにも感じた。

その全容を掴むべく、まずは演奏面のクレジットを整理しておこう。サヤはボーカルだけでなくエレキベースも演奏し、ダニエルはセッション映像でも捉えられていたように、常田とともにギターも弾いている。さらに新井和輝がエレキベースとシンセベース、石若駿がドラム、宮川純がピアノ/オルガンで参加と、おなじみのエキスパートが集った。

約2分半のコンパクトな楽曲は、J-POP/グローバルポップ双方の定型から軽やかに逸脱しつつ、サウンドの景色を移ろわせていく。数曲分のアイデアをマッシュアップしたのではないか、と思わずにいられないほどの情報量だが、そこで安易なマキシマリズムを回避し、滑らかに聴かせるスマートなコントロールも聴きどころだ。

まずイントロでは、厳かなピアノとともに深海を思わせるサウンドスケープが広がり、左右のチャンネルへ交互にパンされるファットな重低音が、楽曲をさりげなく引き締める。続く0:25〜0:50でダニエルとサヤが紡ぐメロディアスなパートは、両者の最新作で探求されていたフォークやゴスペルの要素を感じさせるが、そこへオーケストレーションのように音色が塗り重ねられていくのはミレパならでは。

やがて楽曲はドラマティックな展開に突入。0:50〜1:15のパートでは、ダニエルとサヤの美しいハーモニーとともに、ダイナミックなドラムが高揚感を盛り立てる。そして白眉なのは、その後に続く10秒間、ほぼ弦楽器のリフだけが鳴り響くくだり。ギターのように聴こえるが、J-WAVE「SPARK」での新井和輝の解説によると、彼が弾くベースがこのセクションの軸になっているそうだ。ここで一旦思いきり音を引き算することで、1:27〜のグルーヴィーな終盤がいっそう躍動する。コンピューターの自動音声を思わせる無機質な歌声が、ラップともスポークンワードとも解釈できそうな形で届けられ、この楽曲に込められた「Blue」な感覚を強調する。

全編英語詞の「Blue」で歌われるのは「喪失」だ。それは例えば、恋愛の終わりといった目に見える関係性の破綻だけを指すのではない。かつて瑞々しい緑(green)を湛えていたはずの瞳が、いつの間にか冷たい青(blue)へと色褪せていく──その不可逆な変化に対する戸惑い。手からこぼれ落ちる砂粒のように、決して元には戻らないもの。失われた青春とあの頃の純真。取り返しのつかない現実を前にして、歌詞の主人公は〈Do you leave me?〉(僕を置いていくの?)と自問を繰り返す。

そのヒリヒリした喪失感は、もしかしたら常田大希の内面とも地続きなのかもしれない。とはいえ、この曲はただ「Blue」に沈んで終わるだけではなく、拭いきれないやるせなさを抱え、その痛みを受け入れながら前に進むことを促しているようにも映る。

MILLENNIUM PARADE

『Blue』

配信リンク:https://millenniumparade.lnk.to/Blue

「Blue」が使用されている『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』ノンクレジットエンディング映像

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