
埼玉西武ライオンズの柘植世那捕手が、与えられた出場機会の中で存在感を高めている。プロ7年目の今季は攻守で結果を残し、捕手併用制の中でも着実に役割を果たしている。その裏には、「試合に出ているつもりで見る」という出番を待つ時間への向き合い方と、「自分の中で一番苦しかった」と振り返る昨季の経験があった。(取材・文:灰原万由)
プロフィール:柘植世那
群馬県出身。高崎健康福祉大高崎高では甲子園を3度経験し、卒業後は社会人野球のホンダ鈴鹿に進んだ。2019年ドラフト5位で西武から指名を受けると、ルーキーイヤーから一軍出場を果たす。プロ7年目の今季は打率も向上し、攻守で存在感を高めつつある。
出番を待つ時間も“試合の一部”
[caption id="attachment_272363" align="alignnone" width="1200"] 取材に応じた西武・柘植世那【写真:編集部】[/caption]
今季、西武の柘植世那捕手が存在感を示している。17試合に出場し、30打数10安打、打率.333(7月2日終了時点)。守備でもここまで失策はなく、攻守両面で躍動している。
西武の捕手陣は今季、古賀悠斗、小島大河、柘植が試合ごとにマスクをかぶる併用制を敷いている。固定された一人が全試合を任される形ではなく、各捕手が役割を果たしながら投手陣を引っ張っている。
捕手が流動的に起用される中では、出場間隔が空くこともある。その難しさを認めながらも、「その分、準備もできます。その空いた期間でどう次の試合に向けて準備するかが大事」と、次の出番へ向けた時間の使い方に意識を向けている。
出番を待つ間も、「試合に出ているつもりで見る」ことを欠かさず、相手打者の特徴、カウントごとの狙い球、打席の中で見せる反応まで細部を逃さないようにしている。目の前の一球に直接関わっていなくても、試合の中に入り続けることは、出番を待つ柘植にとって信頼を得るための土台でもある。
細部を見逃さない姿勢は、6月7日の中日戦で表れた。
「隙があったので行けるなと」日々の準備が生んだプレー
[caption id="attachment_272366" align="alignnone" width="680"] 埼玉西武ライオンズの柘植世那【写真:産経新聞社】[/caption]
6月7日の中日戦。1―1で迎えた延長11回裏2死満塁。一打サヨナラの緊迫した局面で、柘植は一塁走者の動きを見逃さなかった。
1ボールとなった直後、一塁方向に目を向けると、一塁手のタイラー・ネビンも呼応するように動き出した。すると柘植がミットを下げたタイミングで、上田大河投手が一塁へ送球。塁を離れていた走者を刺し、最大のピンチを切り抜けた。
延長11回の守備で流れを断ち切ると、直後の12回に長谷川信哉のソロ本塁打、古賀の2点適時打で西武が勝ち越し。決して派手ではないが、勝負どころでの柘植の判断が勝利を呼び込んだ。
「チームとして、キャンプから練習していたプレーでした。それがあの場面に来て、相手の隙があったので行けるなと思って」と、柘植は冷静に振り返った。
だが、その冷静さの裏には、昨季に味わった悔しさがあった。
「自分の中で一番苦しかった」得られなかった信頼感
[caption id="attachment_272364" align="alignnone" width="1200"] 取材に応じた西武・柘植世那【写真:編集部】[/caption]
昨季の一軍出場は13試合にとどまり、打率も.125。「出場機会が減り、悔しいシーズンでした。調子が良くない状態を引きずってしまい、もったいなかった」と、その言葉にはチャンスをつかみ切れなかった悔しさがにじんでいた。
今季につながる反省として、重く受け止めているのは“信頼を得られなかった”ことだ。
「与えられたところで結果が残せなくて。結果が残せないと信頼も失われていくので、その信頼感を得られなかったのが自分の中で一番苦しかったです」
昨季に味わった悔しさは、今季の一試合、一打席への向き合い方にも生きている。
「試合で困らないように、準備の段階を一番意識しています。一試合一試合がもう本当に勝負なので、その積み重ねで信頼が得られる」
任された場面で迷いなく入れるように、準備を怠らない。その積み重ねが、攻守で存在感を示す今季の姿につながっている。
[caption id="attachment_272362" align="alignnone" width="1200"] 取材に応じた西武・柘植世那【写真:編集部】[/caption]
「同じ打球速度が出るように」自主トレとキャンプでの“打撃改革”
[caption id="attachment_272367" align="alignnone" width="1200"] 埼玉西武ライオンズの柘植世那【写真:産経新聞社】[/caption]
今季は、打撃面でも変化がある。昨季は16打数2安打に終わったが、今季は30打数10安打、打率.333、OPS.755(7月2日終了時点)。打席数は多くない中で、結果につなげている。
打撃向上の土台となっているのは、オフの取り組みだ。自主トレで岸潤一郎外野手と過ごした時間が、打撃を見直すきっかけになった。
「今年は自主トレから岸さんと一緒にやっていて、スイングの軌道などを直すところから始めて、やってきたことをキャンプでも継続して今に至ります」
一度整えた形をキャンプ以降も崩さず、試合の中で結果に結びつけている。
スイングの形を固めるうえでは、感覚だけに頼らず、練習での打球を数字でも確認している。
「打球速度が、平均で何キロ出てるとかは見ています。やっぱりムラがあるのは良くないので、ずっと同じ打球速度が出るように意識して練習しています」。限られた打席で結果を出すため、練習の段階から状態の波を小さくしようとしている。
また、個人の取り組みに加え、今季の西武の強みについても口にした。それは、チームの一体感だ。
“ベテランと新戦力”が生む一体感。柘植が語るチームの雰囲気
[caption id="attachment_272421" align="alignnone" width="1200"] 取材に応じた西武・柘植世那【写真:編集部】[/caption]
柘植の目にも、今季の西武は「雰囲気はめちゃくちゃいいチーム」として映っている。試合に出場している選手だけでなく、控え選手も声を出しながら同じ方向を向いている。
「スタメンの人とベンチの人があまり離れていないというか、みんなが試合に入っている感覚は結構あります」
そうした一体感は試合の流れにも表れており、「攻撃に勢いがつくようなプレー、守備というのが結構わかりやすく出ます」と、チーム全体で流れをつくる感覚を口にした。
その一体感を支えている存在として挙げたのが、今季限りで現役生活に区切りをつける栗山巧外野手だ。4月18日に一軍へ合流して以降、ベンチの空気が変わったという。
「めちゃくちゃ声を出してくださいますし、それに僕たちが乗っている感覚でやっていて。それを今でも続けられています」
背中で示してきたベテランが声でもチームを動かす姿は、若手や中堅にも自然と伝わっている。
「本当に、栗山さんが(一軍に)上がってきた時からチームの雰囲気が良い方に変わったと思いました。より引き締まったし、勢いも出るし。栗山さんがまた一軍に戻ってきた時は、もっともっと(雰囲気が)上がるはず」
一方で、チームに新たな風を吹き込んでいる存在もいる。今季から加入した桑原将志外野手だ。柘植がまず魅力として挙げたのは、プレーから伝わる気持ちの強さと、温かい人柄だ。
「プレーでものすごく気持ちが伝わってくるところも僕はすごいなって思うんですけど、人柄がめちゃくちゃいいですし、本当にチームの中心」
選手への声かけやベンチを盛り上げる姿もチームを支えており、「桑原さんはミスした選手とかのケアだったりとかもすごいしてくださるので、チームにとってもプラスでしかない」と、その存在の大きさを語った。
そうしたチームの力を追い風に、柘植自身も目の前の一試合へ全力を注いでいる。
「チームとしてはもちろん優勝したい」という思いを持ちながらも、「その時、その時を必死にやるだけ」と日々の姿勢は変わらない。任された場面でできることを尽くし、シーズンの最後に「いいシーズンだったな」と思える時間を目指す。
その目標を実現するために、捕手として果たすべき役割も明確だ。
「やっぱりキャッチャーなので相手のデータをしっかり頭に入れて、ミスがないようにしっかり準備をして、勝ちに貢献していきたいです」
守備で流れをつくり、打席でも応える。任された場面で存在感を示しながら、チームを勝利へ導いていく。
(取材・文:灰原万由)
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『獅子回顧録』渡辺久信 著
「ライオンズは強くなければいけない」
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栄光と苦悩と激動の20年
本書は、選手、監督、フロントとしてライオンズに長く関わってきた私が『獅子回顧録』と題して、チームづくりを振り返る一冊となる。
幸せなことに、愛するライオンズで現場のトップとフロントのトップの両方を務めさせてもらった。選手時代を振り返る章もあるが、2004年に二軍の投手コーチとしてライオンズに復帰してから、GMを務めた2024年までが中心となる。
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【了】