
数々のカーデザイナーを輩出している名門美術大学、アートセンター・カレッジ・オブ・デザインで学ぶのは、どんな感じなのだろうか。『Octane』が取材した。
【画像】アメリカの名門アートセンター・カレッジ・オブ・デザインでカーデザイナー志望の若者たちが学ぶ(写真10点)
アートセンターは、長年にわたって世界中のエンスージアストを魅了してきた。スチュードベーカー・アヴァンティとコルベット・スティングレイは、どちらも同校の卒業生がデザインした。ビュイック・リヴィエラ、フォード・ブロンコ、シボレー・コルヴェア。これらもすべてアートセンター卒による。もっと最近なら、ポルシェ・ボクスター、マツダ・ミアータ(ロードスター)、ダッジ・バイパーもそうだ。
アートセンター・カレッジ・オブ・デザインは、1930年に、アートセンター・スクールの名称で、ロサンゼルスの市街地に創設された。オートモーティブ・デザイン学部は1948年に設立され、1965年に校名がアートセンター・カレッジ・オブ・デザインに変わり、パサデナにある現在のヒルサイド・キャンパスへは1976年に移転した。創設者で初代学長は、広告業界出身の”ティンク”ことエドワード・アダムズだった。アダムズは、美大の卒業生の作品に不満を抱き、これを変えるためにアートスクールを創設した。そして、現役のプロフェッショナルを招いて、外の世界で求められているレベルにまで学生たちの力を引き上げた。2024年には、新しいマリン・トランスポーテーション・デザインセンターをパサデナの中心部に開設した。
私たちは中間審査のまっただ中に訪問し、学部長のマレク・ジョルジェヴィッチと、レクサスのデザイナーで講師を務めるイアン・カルタビアーノから話を聞くことができた。ジョルジェヴィッチは、ロールス・ロイス・ファントムVIIのデザイナーとして有名だ。学部の未来を方向づける役割を担う、生粋のエンスージアストである。アートセンターが成功した理由は、ティンク・アダムズのビジョンを忠実に守っているからだと彼は考えている。南カリフォルニアは、国際的なカーデザインの中心地で、世界中のブランドのサテライトスタジオが居を構える。アートセンターの自動車関連の学生は、なんと94%が卒業と同時に就職できるという。 だが、在学中は睡眠不足の過酷な日々が続く。落第は許されない。ジョルジェヴィッチは1991年に同校を卒業し、2005年には、自分がデザインした新しいロールス・ロイスに両親を乗せて、ビバリーヒルズを走っていた。そのデザインを任されたときから、並大抵の仕事でないことは分かっていた。なにしろBMW傘下になって最初のモデルであり、21世紀最初にして、100周年を迎えるロールス・ロイスの唯一のモデルだったのだ。
「入学を認められるだけで大変なことです」。ジョルジェヴィッチは、当時はユーゴスラビアだったベオグラードから、このキャンパスにやってきた。クラスはたった6人の少人数で、彼はモチベーションに溢れていた。成功するか、さもなくば帰国して軍に入るかだった。アートスクールは今も留学生の割合が高く、さまざまな文化と多様な感性が混ざり合う場所だ。
「デザインの世界では勇気が必要です。流行は移り変わりますから、どんな事態や困難にも対応できるように学生を育てることが私たちの責務です。とくにテクノロジーですね。私の学生時代より、はるかに重要です。実験的にやっているのですが、才能のある学生のほうが、AIを使ってよい結果を出します。AIは才能の代わりを務めるのではなく、才能を開花させるのです。スケッチをするときも、AIにバリエーションを作らせます。デザイナーのチームと作業しているようなものですよ」
ジョルジェヴィッチは、卒業生のその後にも目を向けている。「業界の指導的立場の人たちを対象にする修士課程を新設できればと考えています。現状では、デザイナーになれてもリーダーシップや時間管理の訓練は受けておらず、自動車会社のポートフォリオの扱い方や、成功につながる思考の枠組みを定義、発展、維持する方法も学んでいません。メンターがいればラッキーといえます。デザイナーには、それぞれの企業に合ったデザイン哲学を生み出す責任があるのです」 一方、イアン・カルタビアーノは学生たちと一緒だった。カーデザインの課程は8つの学期に分かれており、一般に3~4年で修了となる。6、7学期にはインターンシップに申し込み、実地で仕事を経験したあと、学校に戻ってそれを活用し、実社会に出る準備をする。「戻ってきた学生たちは、実用的なスキルが向上し、以前より効率的に、的を絞った作品を次々に生み出すようになります」
カルタビアーノは、ニューポートビーチにあるトヨタのデザインセンターで、インターンを年に最大3回受け入れている。私たちが訪問した日に行われていたアルファロメオのクラスからも、秋に受け入れる学生が決まったばかりだった。「インターンは本物のプロジェクトに参加し、自主的なプロジェクトにも取り組みます。ばらばらに分かれて、チームでの作業がどのように行われるかを学び、完全にデザイン部門の一員となって、本物の仕事をします。惜しいのは、社外秘なので、デザインを公表できないことです。しかし、個人プロジェクトなら卒業発表会で展示できます。もちろん、報酬も得られますし、創造性をきちんと評価してもらえます。私たちにとっても新しい才能を発掘するチャンスですし、学生にとっては間違いなく就職に直結します」
卒業発表会では、学生たちがオンラインで作品を披露し、業界のリーダーを招待してプレゼンテーションを行う。「全員が平等にチャンスを得られますし、移動する必要がないので参加者も増えます」とカルタビアーノ。「私は学生たちに、デザインの半分は自分のアイデアを売りこむことにあると話しています。プレゼンのインストラクターもいて、学生に自分のアイデアをどう提案すべきか指導しています」
この日は学生たちの中間発表が行われていた。テーマとなるメーカーはアルファロメオで、カルタビアーノとジョルジェヴィッチの二人が見守り、講評する。教室のすぐ外には、カルタビアーノが所有するアルファロメオ・モントリオールと、コレクターのジョー・センが所有するSZとRZが置かれている。
「こうした車を間近で見ることは、学生にとって貴重な経験です」とカルタビアーノは話す。「デザインの道具は変わっても、その成果は同じ。車は、外の世界で生きている三次元の物体なのです。最初の学期は、まずビジュアルコミュニケーションについて、次にその構成単位について学びます。形を描き、レンダリングし、クレイとデジタルで模型を作るのです。アナログからデジタルまで幅広い方法で描きます。今、学生に出している課題は、短いアニメーション、いわゆるムードボードの作成です。その車はどんな環境に置かれるのか、購入者はどういう人たちで、どんなフィーリングを目指すのか。車はフィーリングがすべてです。アルファロメオのプロジェクトでは、最初の数週間をブランドの歴史や調査にあて、ブランドの核となるエモーショナルな特徴を明らかにします」
当然ながら、アートセンターが目指すのは、”次”をデザインする人材を世に送り出すことだ。卒業生は、競争の激しい環境に飛び込む。「仕事に就いた1年目は、アートセンターの1年目とよく似ています。働き始めれば、学ぶことはまだ山ほどあるのです」とカルタビアーノ。「いきなり場外ホームランを期待してはいませんが、例外もあります。ある卒業生は、私たちのもとで働き始めた1年目に、新型のFJクルーザーをデザインしてのけました。1年目は、プロになる方法を学ぶ期間です。私たちも含め、お互いに刺激し合い、経験を分かちあいます」
すべては、最初の短い学期から始まる。たった14週間でゼロから立体模型まで仕上げるのだ。だが、主眼は今ではなく、10年後の未来だ。「業界の一歩先を行くことが重要です」とジョルジェヴィッチは話す。「これは双方向の関係です。インターンシップに参加した学生は、自分たちに求められているものが以前より明確になって戻ってきます。私たちは技術を与え、学生たちはコミュニティーに加わって、生涯にわたる関係を築いていく。まさに人生を変える経験ですよ。アートセンターは未来への入り口です。雇い主たちも、卒業生の力量を信頼しています」
編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵
Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) Translation:Megumi KINOSHITA
Words and Photography:Evan Klein