
6月12日の日本公開に先駆け、世界中で驚異的なヒットを記録している映画『Michael/マイケル』。ストリーミング再生回数も自己記録を大幅に更新するなど、世界中が再び「キング・オブ・ポップ」に魅了されている今、彼が音楽シーンにもたらした革新と社会に与えたインパクトを、ライター・辰巳JUNKに解説してもらった。
1. 11歳で全米制覇を成し遂げた「天才少年」
1958年、インディアナ州の貧しい大家族の五男として生まれたマイケル・ジャクソン。元ミュージシャンの父親は、息子たちの才能を見抜いて音楽グループ「ジャクソン5」を結成し、厳しく訓練した。
モータウンよりデビューし「天才少年」としてリードボーカルをつとめたマイケルは、11歳にして一世を風靡。1970年代に入ると「ABC」から「I'll Be There」にかけて4連続で全米ナンバーワンを記録していった。当時は公民権運動後、人種差別が非常に厳しかった時代のこと。「黒人初の世界的アイドルグループ」となったジャクソン5は、アフリカ系アメリカ人のヒーローだった。
その偉業も、マイケルの才能あってこそ。「幼いながら恋愛すら大人以上に表現した」「技術をこえる魂の歌声」──現在の音楽界で頂点に立つビヨンセが、この頃のパフォーマンスを熱心に研究したと語るのも、一聴すれば納得できる。
2. 推定セールス1億枚「世界一売れたアルバム」
大人になったマイケルは、ディスコなアルバム『Off The Wall』(1979年)でソロ活動を本格化。しかし思ったよりグラミー賞を獲得できなかった失望から野心に火がついた。
「世界一売れるアルバム」の創造を掲げたマイケルは、なんと24歳にして即・有言実行。史上最高となる推定1億枚を売り上げることとなる『Thriller』(1982年)によってグラミー賞に帰還。ソロアーティストとして史上最多となる8部門を席巻し、名実ともに「キング・オブ・ポップ」の栄冠に輝いた。
「現代音楽の基礎」とまで評される『Thriller』は、パーカッシブにR&Bやロック、ダンスをつないだ金字塔。黒人アーティストのポップチャート進出を切り拓いたばかりか、今では当たり前になっているクロスオーバーなポップサウンドを確立した。
大予算を投じた表題曲のホラー映画調のミュージックビデオも、当時白人アーティストしか流していなかったMTVでプレミア上映されて社会現象に。テイラー・スウィフトが「Look What You Made Me Do」(2017年)でオマージュを捧げるなど、40年を経た今でもハロウィンの定番となっている。
3. ムーンウォークで「踊れるポップスター」の雛形に
「床が動いてる!?」
1983年、4,700万ものアメリカ人が、テレビの前で愕然とした。音楽番組「モータウン25」にて「Billie Jean」を披露したマイケルが、間奏中、前へと歩くように後方にスライドしていく「ムーンウォーク」を披露したのだ。
稀代のダンサーとしてストリートダンスをポップカルチャーに組み込んだマイケルは、歌って踊れるポップスターの原型。影響を受けた現役世代に絞っても、マーク・ロンソン&ブルーノ・マーズ「Uptown Funk」(2014年)やBTS「Dynamite」(2020年)、さらには日本のA.B.C-Z「Moonlight walker」(2016年)など、枚挙に暇がない。
技巧派スターのアリシア・キーズに言わせれば「地球上のあらゆるパフォーマーに影響を与えてきたマイケル・ジャクソンが体現していたのは、最高品質、そして職人芸」。
4. 日本中を熱狂させた「マイケル台風」
本格的なソロ活動が成功した後も、グループの都合で中々ソロ公演に出られなかったマイケル。
苦難を経て独立すると、3rdアルバム『BAD』(1987年)にて米ビルボード史上最高となる5つのナンバーワンヒットを叩き出す全盛期へ突入。念願の単独ワールドツアーのはじまりの地に選ばれたのは、なんと「熱いファンがいる」日本。
チンパンジーの相棒バブルズくんと来日を果たすと「マイケル台風」と名づけられるほどの社会現象を巻き起こした。
映画のようなスペクタクル演出により、大会場でのポップショーを確立した「バッド・ワールド・ツアー」。世界123公演、動員数440万人のうち、記念すべき400万人目の栄誉は東京での追加公演の9歳の女の子に贈られている。『BAD』収録の「Man in the Mirror」ミュージックビデオにおいて、唯一マイケルの姿が映される場面も、日本の小学校を訪問した際の映像だ。
「バッド・ワールド・ツアー」日本公演のドキュメンタリー映像
5. 世界をひとつに、チャリティでもギネス
ツアーでの来日中、ひそかに児童擁護施設に寄付していったマイケル。日本ユネスコの「世界寺子屋運動」も彼が集めた資金によって設立され、今なお130万人以上の子どもに教育の機会を与えている。
自身も幼少期に満足な教育を受けられなかったマイケルは「最も慈善団体に寄付したポップスター」としてギネス認定されるほど、生涯を支援活動に尽くした。
チャリティソングでも伝説をつくった。エチオピアの飢餓を救うべく「We Are The World」(1985年)を共作すると、シンディ・ローパー、スティービー・ワンダー、ボブ・ディランら46人のスターが一堂に会するスーパーグループ「USA for Africa」を結成。
マイケルが描いた「英語がわからなくても歌えるメロディ」の輪は、世界中で人道支援センセーションを巻き起こした。2,000万枚ものセールスを通して「We Are The World」が集めた支援金は、2024年時点で総計1億6,000万ドル(約250億円)にのぼる。
6. 人種差別と戦う信念が生んだ社会派アンセム
キャリアが進むにつれ、皮膚の色素が薄くなる尋常性白斑によって偏見を受けていったマイケル。音楽面では、むしろ「ブラック(黒人)」色を深めていった。
最高傑作とも評される8thアルバム『Dangerous』(1991年)に収録された「Black or White」ビデオのプレミアでは、5億人もの視聴者を驚愕させた。ヒトの顔がさまざまな人種、性別に変容していくモーフィング超技術のあと、街角に立つマイケルが怒りを爆発させ、黒豹に変身する。
1990年代のアメリカは、人種暴動が深刻化していた時代。政治色を帯びたビデオは、反発を呼び起こし議論を呼ぶこととなる。
攻撃を受けてもマイケルは信念を止めなかった。『HIStory: Past, Present and Future, Book I』(1995年)では、社会派黒人監督スパイク・リーと組んで、暴動や黒人投獄問題を扱ったプロテストソング「They Dont Care About Us」の連作ビデオを発表。2020年ごろにはブラック・ライブズ・マター運動のアンセムとなり、同監督による第三弾ビデオも発表された。
7. 沈黙の2分間、伝説のハーフタイムショー
日本のXGや韓国のATEEZなど、世界を視野にするアーティストが夢に掲げるNFLスーパーボウルのハーフタイムショー。じつは、アメフト試合中継の「トイレ休憩」のように始まったこのイベントを大舞台に変えた存在はマイケルだった。
1993年、競合番組に視聴率を奪われていたNFLから「世界中を釘づけにするショー」を依頼されたマイケル。舞台に登場するやいなや、ほぼ2分ものあいだ静止。仁王立ちするだけで、大会場、そして一億人以上の視聴者を圧倒する異次元のオーラを証明したのち、大ヒットメドレーを披露していった。
マイケルが考案した舞台下のオーディエンスやバラードでのフィナーレといった演出は、今なおハーフタイムショーのひな型として受け継がれている。この10年間の公演でも、ビヨンセ、レディー・ガガ、アッシャーが衣装や振付によってオマージュを捧げた。
8. 没後も「キング」であり続ける、圧倒的な記録の数々
2009年、50歳の若さで悲劇的に亡くなったマイケル・ジャクソン。追悼式の中継は、米国内だけでもバラク・オバマ大統領就任式に迫る約3,100万人もの視聴者を集めた。
生前最後のツアーリハーサルをまとめた『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(2009年)は世界中のファンとの「お別れのお祭り」となり、ドキュメンタリー映画史上最高の興行収入を記録した。
それから17年後、海外でひとあし早く公開された『Michael/マイケル』が伝記映画として史上最高のオープニング興行収入を達成したように「キング・オブ・ポップ」は王でありつづけている。名曲の人気も衰えていない。1970年代から2020年代にかけて「6つの年代で全米トップ10入りを達成した史上初のアーティスト」の座に輝いたばかりだ。
9. 「後継者」に与えた絶大な影響
「キング・オブ・ポップ」最大の遺産は、後進かもしれない。ビヨンセやザ・ウィークエンド、TWICEなどを手がけてきたJ.Y. Park──いま音楽界を率いる数々の重要アーティストが、音楽の道を志したきっかけとしてマイケルを挙げている。
「この世のアーティスト全員、マイケル・ジャクソンを目標にすべきだ」。そう断言するのは、現代最高のショーマンと名高いブルーノ・マーズ。「誰にも彼には敵わない。音楽を魔法にした男として永遠に語り継がれるだろう」。
Apple Music「マイケル・ジャクソンに影響をうけたサウンド」プレイリスト
10. ティーン世代も熱狂、TikTokでバズるマイケル楽曲
未来の音楽すら、マイケル・ジャクソンが切り拓いている。ビリー・アイリッシュやロディ・リッチ、ピンクパンサレスといった新鋭の若手スターたちも「キング・オブ・ポップ」から影響を受けてきた。
古参ファンを驚かせる新潮流も起こっている。ティーンたちがTikTokを介して発掘しているのは、代表曲だけじゃない。過小評価されてきた晩作『Invincible』(2001年)収録の「Heaven Can Wait」や、没後リリースの「Chicago」(2014年)といった「ディープカット(隠れ名曲)」もバズヒットしていっているのだ。
2026年、映画『Michael/マイケル』旋風によって、世界一のデジタル人気アーティストの座に君臨しているマイケル・ジャクソン。まだまだ「キング・オブ・ポップ」の伝説は止まらない。
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『Michael/マイケル』オリジナル・サウンドトラック
配信中
国内盤CD:発売中 定価¥3,520 (税抜¥3,200)
〈日本盤のみの追加仕様〉
■7インチ紙ジャケット仕様
■高品質Blu-Spec CD2仕様
■歌詞・対訳付/解説:高橋芳朗
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/MichaelOSTRS
詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/MichaelJackson/info/581808

『Michael/マイケル』
2026年6月12日(金)全国公開
配給:キノフィルムズ
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